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艮(うしとら)   318号の目次   映評

現代とりかえばや物語
―性同一性障害と本学の動き―

318号4面・大学

ばらばらの心と体

本学医学部付属病院に性同一性障害についての専門窓口を設置しようという動きが出ている。現在、医学部付属病院には年間で十人に満たない程度の性同一性障害の患者が訪れており、主に精神科が対応にあたっている。しかし性同一性障害を専門とする相談窓口は医学部付属病院を含め、東北地方には設置されていない。

性同一性障害とはいったい何か、そしてそれを取り巻く医療環境はどういったものか。医学部付属病院の今後の対応を含め探った。

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性同一性障害とその治療

性同一性障害とは、生物学的な自分の性別と自らが意識する性別とが一致しないために、生物学的性別に対して違和感、嫌悪感を覚えることを指す。性同一性障害は同性愛と混同されることが少なくない。しかし同性愛者は性の対象を、性同一性障害者は自らの性別を第一の関心とする点で異なる。

性同一性障害の具体的な治療法については、三段階に分けられる。精神科だけでなく段階によっては、産婦人科、内科なども関わる複合的な治療である。

第一の段階として、精神科による精神療法から治療が行われる。これは自分の性別に対する不快感、違和感といった苦痛を聞くことから始まる。性同一性障害といっても様々なパターンがあるので、どのような治療が適切なのかを選択するためにも患者の話を聞くことは重要である。  

またこの段階で、現在の性を変更して社会生活に耐えられるか、という点についても検討が行われる。この段階で二年間経過をみた後、二人の医師がさらなる治療が必要と認めた場合、次の段階に入る。

第二段階はホルモン療法である。これは産婦人科、もしくは内科の内分泌を専門とする医師によって行なわれる。この治療法によって体形や声帯の変化がおこる。

第三段階として手術療法、つまり性転換手術が行なわれる。手術は精神療法、ホルモン療法を経ても自分の肉体に関する違和感がある人を対象に行われる。

性同一性障害の治療に訪れる患者のうち、六割の人は性転換について迷っている。また精神療法、ホルモン療法に年単位という時間がかかることもあり、手術療法まで至る患者は年に数人だという。

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性同一性障害を取り巻く医療環境と本学の対応

現在、日本で手術療法まで行えるのは、埼玉医科大学付属病院、岡山県立岡山病院の二つである。また医療機関における性同一性障害についての相談窓口は全国に十二ヵ所あり、ここでは手術の前の段階までの治療ができる。各地には性同一性障害のための自助支援グループがあり、情報の交換や学習会を行っている。

東北地方については、自助支援グループはあるものの、専門の相談窓口がなく、患者が病院を訪れた際に専門的な治療が受けられるとは限らない。

現在、医学部付属病院では患者に対して主に精神療法を行っており、窓口の開設についてはまだ準備段階だという。これについて本学精神神経学分野の松岡洋夫教授は「窓口を設置するのならゆくゆくは手術療法まで行えるようにしたい。今はできるかどうか模索している段階だが窓口の必要性は認識している」と語った。

窓口の開設については様々な問題点がある。窓口を開設して専門外来として患者を受け入れる場合、専任のスタッフが必要になってくる。しかし、性同一性障害だけを専門とする医師は医学部付属病院には今のところいない。患者も東北地方全体から集まることが予想され、現状のままでは人手が足りないと考えられている。

また、前述したとおり性同一性障害の治療は精神科、産婦人科、形成外科、婦人科、泌尿器科、内科など複数の科にわたっている。これらの科の同意が得られることで初めて開設に向けて動き出せるのである。

性同一性障害については近年話題にはなっているものの、実態についてはいまだ不明な点が多い。また障害を社会が理解してくれないために苦しむ患者もいる。松岡教授は「まだ性同一性障害について知る手段は少ないが、正しい知識を得てほしい」と語った。


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