もし名前付けるなら「傘回し」かな、なんか彩雨もあるから雨の中傘をまわしながらスキップで 帰宅する美鈴の姿が浮かぶよ。で、道端で捨てチェンの入った箱を見つけて 「・・・そうか、お前も一人なんだね」って服がぬれるのも気にせず抱きかかえて・・・・・・ -------------------------------------------------------------------------------- 美鈴が捨てチェンを家に持って帰ろうとしたその時、 遠くから「持ってかないでー」の声と共に、雨の中を走ってくる足音が聞こえた 「ごめんね、こんな所に置いてったりして。今度引っ越す館がペット禁止だからって  あなたを捨てるなんて、私、どうかしてたわ!  館のご主人は私が説得する!それができなかったら…あなたと一緒に、また別の家を探すわ!」 寝巻のような服を着た、ピンク色の髪をした少女がそう言うと、チェンは美鈴の腕から降り、少女の元へ走っていった 「……そっか、やっぱり元の飼い主の所にいるのが、一番幸せだよね。」 美鈴はそう呟くと、雨の中を走って帰路についた 翌日 紅魔館 「おはようございます。咲夜さん」 「あら、おはよう。…どうしたの?元気ないみたいだけど  門番のあなたがそんなんじゃ、今日引っ越してくる人も気分が暗くなっちゃうわよ」 「え、誰かここに引っ越してくるんですか?」 「そうよ。たしか名前は、なんて言ったかしら…ええと、パチョ…じゃなくてチョパ……」 この後、美鈴は運命的な再会を果たすのであった… -------------------------------------------------------------------------------- 「確かにこの館は先代が残した魔道書とか色んなもんがあるけど  わざわざこんな所に越さなくても、どうせ使わないし、持ってっちゃえばいいのに」 「本が好きな人なんですか?」 「本も好きだけど猫も好きらしいわよ。うちはペット禁止だから絶対駄目って伝えてあるけど  下手したら妹様が遊んで壊しちゃうからねー」 「え・・?」 美鈴に昨日の出来事が脳裏をよぎった。 「持ってかないでー」と叫びながら雨の中を走り、捨てチェンを持って帰ったあの寝巻少女。 確かに見た目文科系のような少女だった。 そして彼女はとある館に引っ越すという事も言っていた。そして、その館が愛玩動物厳禁である事も。 「…おはようございます」 開きっ放しになっていた紅魔館の玄関に、その少女は立っていた。 「!…あなた、昨日の…」 「あ…」 驚いた素振りを見せた後、彼女は俯き、玄関に暫く突っ立っていた。 気付けば、あの昨日の捨てチェンの姿は何処にも見当たらなかった。 「…何なのかしら今日は、どいつもこいつも元気がないわね」 咲夜は手にしたモップの柄に肘を立てて頭を掻いていた。 -------------------------------------------------------------------------------- 「…えーっと?あなたが今日引越してきた、その、えっと、チョパ…」 「…パチュリー・ノーレッジです」 「あーそうそう、パチュリー。美鈴、パチュリーよ。  にしてもさっきの素振り、知り合い?」 「…はい、一応」 「それなら丁度いい。お嬢様は今お休みになってるし、部屋に案内してあげて。  お嬢様凄く喜んでたのにねえ。私も飯の食べれる人が増えるのはいい事だと思うけど」 「・・美鈴よ、紅・美鈴。パチュリー、よろしくね。」 パチュリーは未だに顔が見えない程に俯いたまま動かなかった。 「…パチュリー、昨日のチェン……、!」 パチュリーの顔から雫のようなものが零れ落ち、紅い絨毯の床に2,3個のシミを作る。 少し上がった顔を下から覗いてみると、パチュリーは顔を真っ赤にし、紫の瞳に大粒の涙を浮かべていた。 様子を察した瀟洒なメイドは、顔を顰めながら美鈴に向かってハンカチを投げると 「…何があったかよく分からないけど、とりあえず私はお茶でも入れてくるわ。  そこのお嬢さんのにはカモミールティーでもいれとこうかしら」 そんな事を言いながら通路の奥へ歩いていった。 「…チェンはどうしたの?」 「…いなくなっちゃった」 -------------------------------------------------------------------------------- 朝起きたらチェンが居なくなっていたらしく、その後チェンを探し続けたらしいが チェンは見つからなかったらしい。この後二人でチェンを一日中捜し続けたが、 ついにチェンは見つからなかった。 パチュリーが紅魔館に来てから何年も経った。 初めて会った時のパチュリーの、チェンを抱きかかえた時の慈愛の込もった目では なくなり、あの日以来ずっと紅魔館の書斎に引き篭もっている。 美鈴は久々にやって来た侵入者に倒され、それ以来ずっと落ち込んだままでいた。 「南無〜  きっと極楽浄土は暖かくて幸せに違いないでしょう」 春の筈の凍える幻想郷の、人(?)は迷いの里と呼ぶとある集落で、瀟洒なメイドはそんな事を言いながら 使用済みナイフを回収していた。 「にしてもやっぱり寒いわね、パチュリーあたりが日くらい出せないのかしら」 「…パチュリー?」 「あ、まだこの猫娘、生きてたのか」 「パチュリーを知ってるの…?」 「あんたが何で知ってるか知らないけど、うちの館に住んでる引き篭もりね  ネグリジェみたいな服着ていっつもジト目してる喘息持ちの100歳の魔女よ」 「あ、咲夜さん、お早いお帰りですね」 「や、美鈴。なんか原因を突き詰められるかと思ったけどなんか人形使いの奴倒した後  道がよく分からなくなってきちゃったから結局帰ってきちゃったわ  まあ、結構楽しかったけどね。黒幕やら猫やら魔法使いやら色々出てきて…」 「猫?」 「なんかあの迷い里に居て、パチュリーかお嬢様みたいな帽子かぶった…あ、そうだ、  そいつがパチュリーがなんとかって言ってたけど、パチュリーと何か関係あるの?」 「…チェンだ」 -------------------------------------------------------------------------------- 「…パチュリー、ここが何処だか分かってる?迷い里よ、迷い里…もう私、南と北も  分からなくって、ヘトヘトだし、お腹は空くし」 「だってここにあのチェンが居るんだもん!見つけるまで絶対に帰らない!」 普段は冷静沈着で感情を露わにしないパチュリーが、子供のような叫びをあげながら スペルカードの力を振り絞り、迷い里の森の上空を飛び回る。 咲夜に昼、話を聞きパチュリーに話すと、真っ先に館を飛び出し捜索を始め、 水の一滴も口にせずにただ探しつづけていた。 日が暮れ、月が出、辺りが闇に包まれ、夜の妖怪達が動き出してもパチュリーは一向に捜索を止めない。 そんなパチュリーに、美鈴はついていくのが精一杯だった。 「あ、侵入者」 「仲間?」 「微妙に人間っぽいし、食べたら美味しいかな」 そんな事を言いながら近づいてくる妖怪に向けて、 「邪魔っ、邪魔ーっっ!!月符『サイレントセレナ』!!」 迸る閃光。森の雑魚どもは吹っ飛んだ。 「パチュリー、カード勿体無い…」 その閃光を見てか、また一匹、敵が沸いてきた。 「ここに迷い込んだが最後!───── って、えっ?」 「あ、あっ…ぱ、パチュリー、あれは…」 「…橙っ!」 一瞬橙は驚いた素振りを見せると、眉を顰め、歯を噛み締めると今度は無言でパチュリーに向かい襲い掛かってきた! 「はっ!」 突然の出来事にパチュリーは飛んできたフェルマータ状の弾をもろに食らい、ライフゲージを1/4削られた。 パチュリーがふらついている間にも橙は無言で弾幕を飛ばしてくる。 飛んでくる弾を切り返しつつ避けながら、パチュリーは橙に向かって叫びつづけた。 「橙!橙でしょ!?返事してっ!!」 しかし呼びかけにも応じず、返ってきた返事はスペルカードの詠唱であった。 「翔符『飛翔韋駄天』!」 そう叫ぶ声はやはり橙の声だった。スペルカードを使い始めた橙はそこら中を飛び回り、呼びかけ自体も ままならなくなってしまった。 -------------------------------------------------------------------------------- 「パチュリー、橙を何とかして捕まえないと」 「…美鈴、こっそりと橙の近くに忍び寄って。」 「え…どうするの?」 飛び回っていた橙の動きが停止したその時、 「日符『ロイヤルフレア』!!」 辺りに回転する弾源が飛び交う。 「!」 初見ではほぼ100%避けきれないこの弾幕、橙はどんどん追い詰められた。 「美鈴!今よ!捕まえて!」 こっそり近くに忍び寄っていた美鈴が橙を後ろから素早く羽交い絞めにする。 ロイヤルフレアの弾幕に気を取られていた橙は、あっけなく捕まった。 「ぐあーっ!何すんのよーっ!」 橙は暴れるがなんとか美鈴が押さえつけた。 パチュリーは美鈴が橙を捕まえた事を確認すると弾を止め、消滅させた。 迷い家の縁側に座り、三人は話し合っていた。 「…橙、橙なんでしょ?」 「…」 「何で襲ってきたの?」 「…侵入者だから」 「侵入者って…私は橙がここに居るから探しにきたって、言ってるじゃない!」 「…」 橙は俯いたままだった。 表情一つ変えずに下を向いたまま。普段のパチュリーと橙が入れ替わったようだった。 「…なんであの時説得するって言ってたのに逃げちゃったの?言ったじゃない、最期まで  一緒に居るって!駄目だったら諦めるって!」 「私を一回捨てたじゃないの!!」 「!」 勢い良く顔を上げて叫んだ橙の顔は真っ赤で、その瞳には大粒の涙を浮かべていた。 その顔は数年前のパチュリーの顔と同じ物を彷彿とさせた。 叫んだ割には、怒りというよりは、悲しみを感じさせる表情をしていた。 「私を捨てる…一瞬でもそう思ったって事は、心の隅にほんの少しでもそういう感情が  あった…そう分かった時点でもう居たくない、居合わせたくないって思ったの!」 顔を手で伏せ泣き叫ぶと、そのまま黙り込んでしまった。 暫くすると、パチュリーも泣き出した。 -------------------------------------------------------------------------------- 「…そんなに辛かったんだ…ごめん、ごめんね、本当に、ごめんね、橙…」 「…うっ、ううっ…」 二人とも泣きじゃくって、ぼろぼろだった。 美鈴は二人をただ見つめていた。 「…でも、橙」 「…う…」 橙の頭に手を添え、 「…私があげたZUN帽、ずっとかぶっててくれたんだね…」 「…ううっ、うあっ、あああっ…あうっ」 涙目でパチュリーが言うと、泣き落ち着いたと思われた橙がまた泣き出した。 「…パチュリー、さっき言ったのね、本当はね、少し違うって分かったの…」 「…」 「…本当は、私のせいで、パチュリーが大好きな本読めなくなるの、嫌だったから…  居なくなった方がいいんだって思って…私のせいで、迷惑掛けちゃうといけないから……」 「…そんなこと、気にしなくてもいいっていってるのに……っ!」 二人とも、交互に泣き続ける。 気遣いのすれ違いが起こした出来事だった。 「二人とも、一人なのは寂しかったんだよね…」 美鈴は呟いた。 「…うん、橙が出て行った時からは、ずっと一人だと思ってた…  美鈴も色々気遣ってくれたのに、ずっと引き篭もって本を読みふけってた…  二度と逢えないと思ってた橙への想いを押し込むために、本を読んで誤魔化してたのかな…  美鈴、今まで蔑ろにしててごめん…」 「別に、そんな事気にしなくてもいいの。  それよりも、パチュリーからそんな言葉が聞けるなんて、思いもしなかったわ」 「─ あー、それって何か馬鹿にしてる?」 「何も何も、そんな事無いから無いから」 「別に、100年生きてたって感情が老けてるわけじゃないからね」 二人に、あの時二人が出会った時から数年間無かった微笑みがこぼれる。 橙は、少し羨ましそうにしていた。 -------------------------------------------------------------------------------- まだ春の来ない幻想郷の朝。 「パチュリー、いいの?咲夜さんにだったら別に融通利くんじゃない?」 「いいのよ、本人がここを護るって言ってるわけだし」 「そうそう、この辺の平和は私に任せといて。仲間もできたし  次からはメイド一匹通させはしないよ」 (まさかそのメイドが館の主だとは言えないわね…) 美鈴とパチュリーは苦笑いした。 「?…それに、私はパチュリーや美鈴が元気だったことが分かっただけ嬉しいよ」 「うん、私も…」 それじゃ、どう帰っていいかわからないと思うから帰り道を案内するよ」 「そうね、お願いね」 橙が元気でいたこと。橙が逃げていってしまった理由が分かったこと。 パチュリーにとっては数年間本で得た知識よりも何倍もの価値のあることだった。 美鈴にとっても、大事なことがよく分かった。 博霊神社の昼下がり。 「この前の日曜、パチュリーが珍しく外に出てたぜ。」 「え、あのパチュリーが?確かその日晴れてなかった?」 「晴れてたな。紫外線たっぷりだったぜ。」 「そんな日に外出したら灰になるんじゃ…」 「ならんならん。」 「外に出るだけでも奇跡なのに、晴れの日だなんて……。」 「まあ、そこらへんは抜かりなかった…わけでもないぜ。」 「まさか、普通に歩いてたとか?」 「珍しい事もあるもんだぜ」 fin. ---------- 1部・2部に東方スレpart3の583、596、 エピローグの台詞の引用に東方遊撃姫の台詞を引用しています。 これらの文の筆者様方に深く感謝いたします。