ノーラ・コーリ
朝日新聞 1997. 「声」に掲載
海外から帰ってくるこども達が日本の小学校に入って慣れないものの一つに「気をつけ!」「起立」「礼!」「休め」「前ならえ」「右へならえ」「前へ進め!」などがある。なんと命令的な声かけだろう。あれは軍隊だ。小学校は軍隊ではないはずだ。あんなことを私たち大人が言われたらどんな気持がするだろう。ドイツ人の母親は日本の小学校の朝礼を見てナチスを思いだすといい、学校に辞めてくれと抗議を申し出たという。それほど戦争との結びつきが強い。
また教師と生徒は人間という点で対等であるはずなのに。先生とはそんなに偉い立場の人間なのであろうか。あのような一方的な命令口調を発していては先生のいうことは絶対服従であるべきに響く。
確かに全体の輪、協調性をもって一体となって動く、それもそれなりに美しさがある。オリンピックの開会式でのパフォーマンスならともかく、時と場所をわきまえてほしい。オリンピックといえば、数年前まで開会式や閉会式できれいに並んで出てきたのは日本であった。アメリカ人などはてんでばらばら、思うように手を振ったり、ビデオをとっていたりしている。
朝礼、集会と移動することが多い中、背の順で規律正しく、音楽のテンポに合わせて行進することが必要だろうか。「ほら、5年生、列が曲がってるぞ」「そこ、おしゃべりやめろ」と怒鳴る先生。内容のある話しであれば生徒は真剣に聞くだろう。多少列が曲がっていても生徒が真剣に聞いているのであれば列が乱れていてもたいして重要なことではないように思う。いや、列なんか特になくてもいいのではないか。また、どのような並び方で教室に戻ろうがだれに迷惑をかけるわけでもないし、階段を上りながら友達と話すのは楽しいことではないだろうか。
人数が多いからまとめるのが大変だから軍隊形式は生徒の統一を求めるのには便利である。しかしそれならひとクラス20人程度に減らしてみてはどうだろうか。小学校は小さな教室に40人もの生徒をひとまとめにして同時進行で指導する時期ではないと思う。不登校児が多い中、今やひとりひとりに時間をかけた小人数教育が小学校に求められている時代だ。子どものそれぞれのスピードを尊重していく学習形態こそ小学校の段階で求められているのではないか。
もう戦争はいらない。軍隊形式は戦争を予感させる。未来の日本のこども達は平和を望んでいる。戦争の予備軍ではない。戦争が起こらないのだという安心感をこども達に植えさせるためにも「気をつけ、起立、休め、前へ進め」は楽しいはずの小学校の校庭から消してほしい。
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