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大統領選にみるアメリカ政治の変貌

(11/08/2000)

今回の大統領選は異常なまでに接近戦となった。焦点だったフロリダでは開票すぐにゴ ア氏の当確とされたが、開票が進むにつれ、票が接近したので当確を取りやめ、その後 も接近戦が続き、明け方4時過ぎに100%の開票となったが、差は二千票にも届かず、 不在者投票などを考慮すると当確が決まらないという現状だ。他の結果でも獲得人数は 同じで、フロリダで決着がつくところ、このような事態となっている。

通常では大統領選は長い選挙期間の間に双方の政策の違いから支持が分かれ、決戦前に 大方決まることが多い。前回はクリントンが選挙期間中にドールに差をつけて万全の再 選を果たした。今回のように選挙まで行方がわからず、また選挙でも僅差すぎて判別が できないというのは稀に見る選挙であろう。過去に選挙人獲得数で1票差だったという のがあるが、今回はそれを上回る接戦であった。

僕自身、両者に明確な政策の違いを読めなかった。どちらになっても先行き不安という のが大勢のように伺えた。両者が顔を合わせたディベートでも「二人はどう違うのか?」 などという質問があり波紋を呼んだ。選挙結果からも、緑党のネイダーが健闘している ところから、両者の違いが明確ではなく、また双方に魅力を感じなかった人の票が流れ たと言えるでしょう。僕の意見では、わずかにでもゴアとブッシュの差が明確であった らネイダーの票がゴアに流れてゴアが当選していたと思います。

クリントン政権では好景気を謳歌していました。今の政策は明らかにニューヨーク寄り になっています。ネットビジネスによる繁栄も手伝い、今ニューヨークではより過酷な 競争が生まれていますが、景気は上がる一方です。懸念されたユーロへの流出も今のと ころは落ちついています。共和党はこの好景気はクリントンとは関係ないといい、また ゴアにクリントン並みの仕事ができるかという不安もあり、ブッシュが支持を集めまし た。そして馬鹿に出来なくなったのが移民の票です。共和党は本来の白人主義的な考え から黒人層や移民層への票獲得にも動きました。

かつて、共和党は「自由競争」、民主党は「福祉重視」の政策をとってきています。共 和党は「税金を安くし高所得者になれる体制を維持して、人々のやる気を出させるのが 良い」という立場をとり、民主党は「貧富の差が社会をゆがめる。高所得者から税金を とって低所得者に回す政策を強化すべきだ」という立場を取ってきました。 ところがこ こ10年ほどの間に、クリントン政権の民主党が経済を活性化するため自由競争を強化 する一方、共和党は温和な政策を強調し、もともと民主党支持が多かった中南米系の移 民や黒人層を取り込もうとする戦略に出ています。民主党は左から右に寄って中道とな り、共和党は右から左に寄って中道となっている傾向です。この結果、両党の違いを重 要でないと思う人々が増えているのも確かです。これにより浮動票が増え、今回の大統 領選挙ではブッシュとゴアの2大候補の差が3%未満になる州が続出しました。差が3 %未満になると、瑣末な要因が結果を左右する傾向が強くなります。候補者の間で政策 の違いを打ち出せず、誰に投票しても同じだという不満が聞かれる結果になってしまい ました。

今回の焦点は中絶問題が大きなところです。ブッシュは中絶反対と支持し、ゴアは反対 しない立場です。これは日本人である僕から見ると滑稽な政策です。中絶が反対ならど こが権利自由のアメリカでしょうか。女性の権利もさることながら、ただでさえ世界は 人口増加に悩んでいて、欧州や東アジアでは軒並み人口増加を抑えているのにこのよう なことを堂々と政策として全面に出すとは。この政策はアメリカが宗教国家であること を意味しているとも思えます。アメリカはその国の成り立ちからの解るように宗教国家 であるということを理解しないといけません。経済や社会保障の問題をおいてこのよう な問題が前に出てくるのも密接にキリスト教と繋がっている証拠でしょう。

或る意味ではこのような政策の違いが出てくるというのは他に政策の違いが見られなか ったということでもあるように思えます。2大政党制はお互いが反発しあいながらバラ ンスを保って行く制度としてアメリカの誇りのようなものでした。党という概念もその ために多党制である日本の政党とは意味を違えます。2大政党制では、立場が明白とい うのが特徴です。しかし今回の選挙ではその明白さを訴えることが出来なかったのです。 党や派閥の論理で動く日本では誰に投票しても同じということが起きてきますが、冷戦 後の世界的な先行きの不透明さと好景気に支えられ歩みよったアメリカの2大政党制政 治は矛盾に突き当たっていると言えます。

この後、2大政党制に違いがなくなり矛盾をかかえたままでいると今回の中絶問題のよ うな宗教的なことが政策面に出てくる危険があります。僕が危険と思うのは、このよう なキリスト文化圏であるアメリカが世界に、特に日本の政治に深く関係している現状が あることでキリスト教的な思想が憚ることになる可能性もなくはありません。文化の地 盤が違う日本にそれが持ちこまれたとき、日本の社会問題はより深刻になるからです。 想像の飛躍になりますが、アメリカがそのように走ってしまうとき、日本・中国を始め とするアジアとのギャップが明確になることが新たな火種にならないか心配してしまい ます。


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K.Wakabayashi
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