(5/25/2001)
現在アメリカではディズニー製作の映画パールハーバーが話題を呼び、映画そのものよりも 日本の真珠湾攻撃の歴史が注目されている。アメリカでも大手の書店であるバーンズアンド ノーブルスにも真珠湾特集がなされている。リメンバーパールハーバーとはアメリカ人のし つこさの代名詞のようなものだと思うのだが、真珠湾はアメリカ人の気質、そして国民性を 語るにもってこいの出来事だ。
まずどのように日本とアメリカが激突していったかを見て見たいが、直接的な理由は僕には あまりわからない。日本はアジアで戦線を拡大しており、アメリカがそれを狙止したためと 言うのが大方と思う。アメリカは以前より日本の台頭に憎しみとも言える危機感を持ってい たし、ハワイまで到達しても消えないフロンティアスピリット(西方到征)がある。様々な 国益とイズムがぶつかり開戦となったわけだが、僕は学校でそれは日本の野望だのと教えら れたように覚えている。それは間違いだ。野望を持っていたのはむしろアメリカだ。真珠湾 はアメリカを驚かし、和平に持ちこむ戦略だったことだろう。日本にとってはそれしか考え られない。真珠湾攻撃は宣戦布告が遅れたのと敵空母を沈められなかったことから完全な戦 略的ミスである。そして日本のストラトジーは敗戦によりアメリカによって弾圧され、真実 はアメリカによって変えられていくのである。勝利の正当化としてパールハーバーは卑怯な 攻撃であったとしなければいけない。そこにはアメリカの政略が見え隠れする。アメリカの 政略とはどのようにできたか、考えてみたい。
第一次世界大戦前、欧州には大英帝国、フランス、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、ロ シア、オスマントルコなどの各帝国が絶大な力を誇り、アメリカは産業力こそあったが、ま だ新興国であるとされていた。50年以上に渡る秩序と体制の中でヨーロッパは戦争を忘れ ていた。一次大戦が勃発したときはまだ軍人は馬に乗り、騎馬戦が主だった。しかし急激な 産業の発達が大戦をあっと言う間に凄まじいものに変えてしまった。騎馬戦から始まり数年 で戦車が登場した。戦争は長引き、各国が疲労しきっていた。その荒れ果てた欧州の帝国が 勃落していく様を横目に見ながら発展を途げたのがアメリカと日本である。日本の発展はア ジア地域と産業の発展に留まるが、元気なアメリカは疲労しきっていた欧州に最後に乗りこ んで一躍求世主となった。現在の超大国アメリカはここから始まると言っていい。欧州では オーストリア=ハンガリー帝国とオスマントルコ帝国が崩壊し、ドイツはベルサイユ条約で 過大な負但を押しつけられた。この負但が異常なインフレと過激なナショナリズムを呼び、 ヒトラーを台頭させることになる。しかしフランスもイギリスも目の辺りにした悲惨な戦争 に嫌気が指し、ドイツに対しここまでの過乗な反応を示したのも当然といえば当然だった。 ボロボロになったのはドイツだけではなく、イギリスもフランスも同じだったわけだ。その ボロボロになった欧州に取って代わり、アメリカはとても元気だった。最後に参戦したわけ だから戦勝国としてオイシイところをかすめ取ることが出来たし、自国の台地は全く被害を 被っていない。それどころか武器の輸出で空前の好景気になった。ウィルソンは国際連盟を 提示、アメリカの力を見せつけると共に理想国家としての世界にアピールした。理想を言い 世界を味方につけるアメリカこてこての戦略もここから始まったと言ってもいい。そのアメ リカの作戦はいつもダブルスタンダード(つまり裏表がある)だ。第一次大戦で最も得をし たのはアメリカなのだから世界が真の平和になるのはアメリカの国益には合わないのである。 結局アメリカ議会は国連加入を否決。アメリカは傍観者でなければならないから、という理 由だ。つまり勝ち組に乗り、武器を輸出して儲けたいと言いたいのだろう。アメリカは欧州 の勃落により自分達がトップになった時からアメリカ自身の国益のためにしか動いていない のである。
アメリカは荒れた欧州を尻目に好景気に沸き、人々は金まみれになっていった。そして株の 大暴落で恐慌になる。ようやく焦土からの復興の兆しが見えたヨーロッパはアメリカ発のこ の恐慌で再びダメージを負う。アメリカによりプライドを傷付けられたヨーロッパはまたし てもアメリカの馬鹿騒ぎのツケにより被害を被った。特に敗戦国ドイツの荒れ方は酷かった。 負債による借金と恐慌により出口の見えない不況が全土を襲う。この自信喪失した国民はヒ トラーというカリスマにはまっていく。ヒトラーは何より不況を解消したのである。ただ国 民を騙したわけではない。主義がどうあれボロボロだったドイツを他国侵略できるまでに復 活させた業績は賞賛に値する。むしろボロボロだったのだがなまじ戦勝国であったフランス、 イギリスのほうが情けなかった。ミュンヘン会議で英首相チェンバレンはヒトラーに太ち打 ちできず他国併合を認め、フランスは隣接する非武装地帯であるラインに駐頓されても何も アクションできなかった。ヨーロッパは第一次大戦から立ち上がる前に第二次大戦を再び起 こしてしまった。直接はドイツの侵略だが、関接的にはイギリスとフランスによる怠慢とア メリカの傲慢である。フランスは1ヶ月でパリを陥落させられ、イギリスはようやく厭戦気 分から立ち直りチャーチルをもって防戦に及んだ。一方のアメリカは見てみぬ振りと言って もよく、相変わらず国益のために武器を売りつづけた。しかしアメリカはドイツを倒すと理 由付けて、再び自分の影響力を欧州に示したかっただろう。そして完全に世界一になるため には戦争に参加して戦勝国とならなけらばならない。
アメリカは傍観者でなければならなかった。勝手に参加しては国民の士気が上がらない。狙 いを付けたのはドイツと同盟関係にある日本だった。日本と戦争する理由ができればアメリ カにとっては思うつぼだ。ヨーロッパに参戦する理由ができる。アジアでの影響力も得るこ とが出来る。強いては世界にアメリカを示すことができる。何より邪魔な日本を叩ける。理 由は簡単だった。アジア支配を止めるという大義分がある。しかしそれだけでは足りない。 もっと日本に圧力をかけてアメリカを敵対させ、正当化できる理由付けが欲しい。真珠湾は そうして招かれたのである。見事アメリカ国民の士気は上がり、堂堂と戦争に参加できた。 ヨーロッパはアメリカの思う通り、アメリカの参戦により大勢はついた。以前からイデオロ ギー的に気に入らなかったソ連を次の敵として、それに見据えた兵器実験も広島と長崎で堂 堂と出来た。アメリカにとっては言う事ないほどのシナリオがうまくいったのである。
と、考えるとパズルがぴったりと合う気がする。上で言ったことは定説ではないが、それは アメリカのパワーが控えていて世に出ないだけだろう。
アメリカのパールハーバーに対する怒りはすごい。作戦であったとしても、自国の土地が外 国に攻撃されたのは真珠湾だけである。一次大戦から見事なまでアメリカは勝ち続けている。 負けるどころか、嫌気が指したこともないアメリカにとって真珠湾は唯一の汚点である。勝 ち続けなければならないアメリカ。勝ちからしか物事を考えないアメリカは今も世界にわが ままを振りまいている。そして時々ヒステリックに真珠湾のことを語ったりする。日本人と して、アメリカが映画というメディアを武器にして世界に自分たちの一方的な見方を押しつ けるのは悲しい。せめて映画の内容が真の歴史に忠実であってほしいと思う。映画は今日公 開される。
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K.Wakabayashi
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