イチローとメジャー
(09/28/01)
大リーグもそろそろシーズン終わり。各地区の優勝は決まり、残りの椅子を争うワイルドカード (補欠出場とでも言おうか)がニュースを盛り上げている。僕はテレビで大リーグ(最近はもう 「メジャー」と言うようになったのだが)のニュースを見、日本のウェブサイトでイチローらの 活躍を見ている。今季は常にイチローだった。これまでは投手しかいなかったから毎日は出ない。 野手の登場で毎日ニュースを彩ってくれた。イチローの活躍は日本のマスコミが騒ぐようにそこ そこ凄かった。とは言っても安打部門でだ。イチローは本塁打を連発するタイプでなく、コツコ ツとヒットを打って足で稼ぐ打者。力勝負が好きな大リーグで、そのようなタイプは地味だった。 僕がセントルイスにいた頃、カージナルスにはオジー・スミスがまだいた。守備の人として日本 でも知られていた名選手だが、米国人はその能力を素直に認めるも恐らく彼だけを見に球場へ行 くほどではなかっただろう。米国人が盛り上がるのはチームが勝つ時である。意外に気付かない のだが、米国には判官贔屓はない。勝負は勝つ者こそ賛えられ、弱者を贔屓をするという感情は ない。また一つ日本の特性を知る。チームに優勝の可能性が無くなっても、一人で盛り上げるこ とが出来るタイプもいないではない。それは日本人が好むスミスのような「しぶい」選手ではな く、粗粋な力持ちであるマグワイアだった。この如何にもアメリカ人というマッチョがホームラ ン記録に挑むシーズン終盤、カージナルスの成績は頗る悪かった。しかし前人未倒の記録に挑戦 ということで球場は埋まった。悲しいがチームの勝利はどうでもよかった。マグワイアの打席以 外は盛り上がることもなかった。8回に彼が退くと観客は帰路に着いた。この点、日本人がイチ ローだけ追うところと似ている。日本でも大リーグファンが増えたものだが、イチローが所属す るマリナーズが勝ち続けたことが良かったと思う。以前のカージナルスのようにマリナーズが勝 てないチームだったらスポットは以前のマグワイアのようにイチロー個人がどれだけ記録を残せ るかのみが焦点になり、大リーグの試合そのものに興味が行くことはあまりなかっただろう。と ころがそのマリナーズ、シーズン始めの期待度は低かった。何しろ昨年までの主砲アレックス・ ロドリゲスが史上最高額でライバルのレンジャーズに移籍。それまでもマリナーズはスターが育 っては放出してしまっている。ケン・グリフィーJrしかり、ランディー・ジョンソンしかり。 そしてロドリゲスの代わりに入ってきたのはイチローとブレット・ブーンくらいである。イチロ ーは日本で活躍していたとは言え、米国人の目からは見れば未知数。ブーンも大した実績がある わけでもない。主砲は年取ったマルティネスだ。これでは期待が低くても変ではない。それまで のマリナーズも別に強豪チームではなかったのだから。しかしシーズンが始まると面白いように 勝ちだした。ロドリゲスが移籍したテキサスは超大金を出しガララーガやカミネリと言った大物 も集めてきたが、さっぱり勝てない。ロドリゲスは一人で頑張っているがチームはボロボロであ る。後半、大砲ジオンビーを中心に猛追してきたアスレティックスも前半の不調が響いて追い切 れなかった。勝てると思われてなかったマリナーズがリーグ一勝っているのだから日本のマスコ ミがイチローのせいだと宣伝してもおかしくない。米国でもマリナーズの躍進が注目されるにつ きイチローを認めだすようになった。
イチローのキャラは実に日本人好みだ。まずホームラン打者ではない。恐らく力で米人と争った ら日本人は敵わない。ならば打撃のセンスと足と守備という力以外の要素で勝負すれば良い。イ チローはそれらではメジャー級だった。実に日本人らしい。力勝負の米国に対し、力だけが野球 ではないとハナっから力で勝負せず他の要素で勝つ。馬力はあるがデカくて使い勝手の悪いアメ 車に対し、馬力だけが車ではないと小型で燃費の良いキュートな車で対抗した日本車と類似して いないだろうか。ここで他の外国なら力には力で対抗しようとする筈である。そしてそれなりの 結果は残すが、所詮は米国のカテゴリーの中で二級になっただけある。韓国がどうもそうだ。と ころが日本には同じものに別のスタンダードを持ち出し、その部門で一級になるという術がある。 力だけの野球はしないよ、と言わんばかりにヒットと足で成績をのばしたイチロー。米国人にも 多様性はある。閉鎖的な米国だが、粋なものを認める国民性も充分にある。考えてみれば、野茂 に始まった時から日本人の性質は出ている。野茂も近鉄時代は速球も武器だった。145キロほ どだが、日本ではそれでも通用した。しかし大リーグには145キロは並である。特にエースで もないストッパーに速球派は多い。ロブ・ネンという投手は160キロをコンスタントに出して いた。投げる方でも力勝負は人気だった。ブレーブスにマダックスという投手がいる。最優秀投 手賞も取っている大リーグ屈指の投手だ。彼はスピードはないが、素晴らしいコントロールと変 化球を武器にしている。実はこういうタイプはあまり人気がなかった。ウェルズやジョンソンと いう体も大きく速球をバンバン投げて三振を取るタイプに人気が集まる。野茂は速球が通じない が、独特のフォームから投げるフォークという武器があった。フォーク使いは大リーグでも少な い。誰も野茂のフォークは打てなかった。彼もまた日本人の戦いかたをしていたのである。その 後に渡ったのが長谷川だ。長谷川は非常に地味で、今ではほとんど報道されない。しかし英語が 上手く中継ぎとして地道に仕事をする彼は大リーグに一番解け込んでいると言える。彼は真面目 で働き者の日本人なのだ。地味で目立たないが、それが実に日本人。その反対が伊良部で、日本 人らしからぬ彼はあくまで力で勝負しようとした。真面目でもなかった。その速球が通じないと わかったとき、彼は舞台から消えた。メッツでそこそこ働いた後はさっぱりの吉井もこれと言っ た武器を持っていない。コントロールは良いほうだがそれだけではなかなか活躍しきれないのも 仕方ないだろう。昨年活躍しながら今年はイチローの陰にスッポリと隠れてしまった佐々木には 武器があった。野茂より冴えるフォーク。それが彼の武器だった。特に彼はクローザーである。 先発した投手が疲れて、ニ級の中継ぎ陣が踏ん張り、打者も慣れてきた頃、最後にドカンと力で 抑えるのが仕事だ。クローザーはとにかく力タイプの投手が多い。投げる量が少ないために力を 抑える必要がない。打者のほうは先発投手の衰えや中継ぎの球に慣れてくるから、最後に豪速球 が来たらなかなか打てない。佐々木は豪速球でなくフォークで勝負した。ストンと落ちるフォー クはなかなか打てない。目も慣れる時間がないから打てない。それを武器に活躍しているのだ。 力勝負では佐々木も中継ぎレベルだろう。それではクローザーは務まらない。彼もまた独持のス タンダードで勝負に挑む日本人なのだろう。他にマック鈴木と大家というプロ野球出身者でない 二人がいる。大家はプロにもいたが実績はない。二人は少し特別で、内側から大リーグに飛び込 み米国というスタンダードの中でやっていこうという挑戦者である。日本人というより普通の米 国人プレーヤーと同じと考えたほうがいい。まだまだ発展途上だが、大リーグでやろうという腰 が座っている。これから自分たちの持ち味を出していくだろう。この点が自分の武器の持ちなが ら全く通じず埋もれてしまった伊良部と違う。ちなみに新庄の武器は意外性、ではないだろうか。 打席に入ってもどうも打つ気がしない。だが時々面白い活躍をする。彼は人気の人だ。大リーグ を楽しんでいる。そこそこニューヨークのファンにも受けたりする。メッツは大した選手がいな かったから4番を打つなどできた。新庄はそれでいいんじゃないかなと思う。
今年はなかなか楽しめたと思う。巨人の人気が落ちたのも納得する。長嶋が辞めるようだが、巨 人ファンではない僕にとってはどうでもよい。ちなみに巨人の武器は所詮人気だけ、という感が あるがどうだろう。長嶋人気、清原人気、確かに凄い。しかしプレー自体が地味だから面白くな い。巨人は有名な選手を沢山抱えているのだから、それぞれの選手が自分の持ち味を生かした魅 力をどんどん出せば面白いとは思うのだが、どうもそうではない。誰を使う、誰を使わない、で 暗いイメージがあるし、派閥争いだの選手間の固執だの、不景気まっただ中の日本人はそんなも のは見たくない。FAで誰が巨人に来るだの来ないだのと言っているが、どの選手がどこへ行っ たとしても面白いプレーをしてくれないのでは意味がない。パリーグは近鉄が優勝した。近鉄は 面白いと思う。昔からわかりやすい選手が多い。野茂は三振を取りまくった。ブライアントに始 まり、中村、ローズと一発を狙ってるなと期待できる打者がいる。三振かホームランかというよ うなファンにとってはわかりやすい楽しみがある。ファンはわかりやすい楽しみを求めている。 巨人ファンにとっては巨人がとにかく勝つか負けるか結果がわかりやすい楽しみだが、巨人ファ ン以外は面白くもない。野球が嫌いな人という意味ではない。野球が好きでも特別巨人が絶対で はない人にとって巨人の野球はそこまで魅力はないということだ。まだ阪神のほうが面白いかも しれない。巨人が地味に勝つ試合より、普段勝てない阪神がたまに勝った試合のほうが面白いと 思うからからである。
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K.Wakabayashi
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