望遠鏡を覗く者たち(2)

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In Reply to: 望遠鏡を覗く者たち
投稿者:野嵜健秀 - 投稿日時:2000年04月07日 20時38分49秒

天文臺の望遠鏡を覗く天文學者に詰寄る革命家。
「我々に必要なものは今日の糧だ。暢氣に星など見てゐないで、自分の食ひ扶持ぐらゐ、自分で稼いだらどうだ？」

かつてガリレオは、異端審問の場で己の「誤り」を認めながらも呟いた――それでも地球は廻つてゐる、と。
今、革命家に詰寄られた天文學者は叫んだ。
「諸君の食べ物は、パンや、スープや、肉や、豆だ。だが、私の食べ物は星なのだ！私の食べ物を奪ふな！」

革命家は天文學者の言葉を鼻で嗤つた。
「昔の仙人は、霞を食つて生きてゐたさうだ。御前は星を食らつて生きてゐるのか。科學者の癖に、非科學的な事を言ふものだ」

天文學者は革命家の肩を抱いた。
「人間を科學の奴隷にしてはいけない」

革命家は天文學者の目に、自分を憐れむ色を見て取り、激昂した。
「貴樣こそ科學の奴隷だらう！科學に囚はれ、自分の身の周りの世話も出來ない人間の屑めが！よかろう、俺は貴樣の飯を奪つてやらう。おい、やれ」

革命家の部下が進み出た。手にはハンマーを握つてゐる。天文學者の目の前で叩き割られる反射鏡。

「今俺は、お前の飯を奪つてやつた。お前はどこへでも行つて、のたれ死ぬが良い！」
「星は無くならないよ。私は星を見る事が出來なくなつた。しかし、いつだつて星が我々の頭の上にある事を信じてゐる。さう、眞晝の明るい青空の向かうに、いつだつて星があり續けてゐるやうに」
「信念で腹はいつぱいにならないぜ」
「ならば、君はなぜ、己の信念に基いて、革命などをやらかしたのだ？」

革命家は天文學者を、凄い目で睨み付けた。そして、默つて天文學者に背を向けて、歩み去つた。

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