「時間がたっても悲しみは大きくなるだけ。息子がいないこれからの暮らしを考えると恐ろしくてたまらない」。大切なものを失い、心に開いた穴は埋まらない。
最近、トクが家に帰ってくる夢を見た。「2度とかえすまい」と腕をつかんで部屋に入れたが、トクはいつの間にか外にいる。「さようならを言いに来たんだ」。トクはそう言い残して、天に昇っていった。涙が止まらなかった。
「こんな思いは私だけで十分。戦争はやめて」。しばらく前までそう考えていたが、最近はニュースへの興味も失ってしまった。
米カリフォルニア州サンタッフェ・スプリングス市出身のポール・トクゾウ・ナカムラ伍長
戦闘終結宣言から50日目の6月19日、バクダッド郊外でロケット弾で狙撃され即死
「必ず帰ってくるよ」と両親の肩を抱いて泣いて別れたジョークが好きな一人息子
大学への奨学資金を得るため、米陸軍の予備役兵に登録した。名前から推察できる通り、沖縄出身の日系2世、イラクでの日本兵の死とも思える。
1971年に米兵と結婚して渡米。離婚を経験したが、今の夫と出会ってからは幸せに暮らしてきた。でもトクの死で、人生が全否定されたような気がする。
洋子さんにはほかに、結婚したミキさん(31)、大学生のナオミさん(23)の子供がいて、孫も2人いる。でも、男の子のトクは特別だと考えていた。手を掛けて育て、ボーイスカウトや水泳などやりたいことは何でもさせた。
夫のポールさん(61)は県系2世。ナカムラの姓も元は仲村渠。トクゾウの名も洋子さんの父、故徳三さんから名付けたものだ。ウチナーンチュ的な考えかもしれないが、トクは大事な跡取りだった。
ロサンゼルス郊外にある息子を失った洋子ナカムラさん(55)(=旧姓・平良)の自宅。家族が「トク」と呼んでいた長男トクゾウさん=当時(21)=はバグダッド郊外のゲリラ攻撃で即死した。洋子さんは今も、日中はトクの部屋にこもり、息子を思い出しながら時を過ごす。
「時間がたっても悲しみは大きくなるだけ。息子がいないこれからの暮らしを考えると恐ろしくてたまらない」。大切なものを失い、心に開いた穴は埋まらない。
トクは身長155センチメートルあまりの童顔の青年だった。高校卒業後、ライフガードとして働きながら、大学に通った。奨学金をもらう目的で2000年1月、陸軍予備役に登録。児童心理カウンセラーになりたいと言っていた。
米中枢同時テロの直後、軍から待機命令が出た。訓練期間を経て02年12月、戦場に赴く。衛生兵だった。
「僕が持っていくのは銃じゃなくて、救急道具。危険はないよ」。トクはそう言ったし、戦死するなんて考えたこともなかった。
(琉球新報・毎日新聞・共同通信他)
兵士という犯罪者としての職業を選択することの結果。
犯罪の報復としての犯罪の連鎖。
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