「世界選手権疾走記録 4」 |
3月19日(月)
暴走(男子予選A組後半、オープニングセレモニー、ペアショート) A組が始まった頃からウォームアップ中に斜め後ろでフラッシュが光るのが気になっていた。製氷後の第三グループのウォームアップ中に気をつけて見ていると、フラッシュの主は14、5才ぐらいのコンパクトカメラを持ったお嬢ちゃん。 こういうタイプは楽なのだ。「フラッシュが選手にとって害」というのをわかっていないだけだから、言えばやめてくれる。「フラッシュはスケーターに危険なんです。やめてくれませんか?」と穏やかに(本当です)声をかけ、席へ戻る途中に振り返ると係員がその子に声をかけていた。あらら、ダブルで注意されてちょっと気の毒(^^;)。係員がチェックしていたのだったらわざわざ注意をしに行くことはなかったか。 この時気がついたのだが、フラッシュ禁止を呼びかけるアナウンスは「スケーターに危険なのでスケーターがリンクにいる間はフラッシュを使わないでください」。フラッシュの何がいけないかがよくわかっている。「他の客に迷惑をかける」なんて抽象的で的外れの注意で観客に通じるはずがないのだ。電光掲示板にも常にフラッシュ禁止を呼びかける表示が流れている。そのあたりは日本より力が入っているのだろう。 そういえば客が少なかったとはいえ、エルビスの時でさえ観客の盛り上がりに比べればフラッシュはそれほどなかったのだ。そりゃそうだろう。あれだけエルビスを愛しているカナディアンが妨害行為をとるような馬鹿なことはするまい。 大会側がこれだけやっているのだからフラッシュにピリつくのはやめよう。変にでしゃばるのは私の悪い癖だ。説教臭い横断幕なんて貼らないに越したことはない。 アメリカ選手への歓声にも劣らない大歓声の中リンクに立つヤグディン。始めのクワドのコンビネーションでリンクサイドが光る。ちょっと!! 次のクワドでリンクサイドがまた光る。いくらヤグディンでもジャンプ中にあんな至近距離でフラッシュ連続2発食らって無事ですむはずがない。もう一つジャンプがすっぽ抜け、デスドロップでよろけた後呆然とした様子で立ち尽くす。ああちょっと誰かこの人助けて!っていったって助けられるはずがない。一度リンクに立てば完全に一人、滑りきるかやめるしかないのだ。当たり前の事だがぞっとする真理、リンクがコロッセウムに感じた瞬間である。スケーターは剣闘士、だめだよ止まっちゃ、止まったら死んでしまう…じゃなくて全てがゼロになる!(ルール上どうなるかは知りません) 再び滑り始めるヤグディンに大きな拍手。観客の拍手に支えられてなんとか滑りきったような演技だった。 点数のコールが終わってから頭に血が上ってくる。 ジャッジ側、ジャッジから見て左側で前から3列目のコンパクトカメラを持った女!! なんてことしやがる!!スケーターを妨害するために高い金払ってその席のチケットを獲ったのか!リンクをはさんで私のほぼ真ん前にいるというのが余計に腹立たしい。私がそっち側にいたら顔が確認できてシメ上げているものを(犯罪)、いやそれより前にウォームアップ中にチェックしていたものを! 世に泥棒の種が尽きないように室内スポーツでフラッシュをたく輩がいない場所なんて世界中どこにもないのだ。安心していた私が馬鹿だった、一見無害そうでこんなことをするあたりニースの観客よりタチが悪いぞカナディアン! 落ちつけ落ちつけ、もう係員が注意をしに行っている。私が逆上してどうする、この辺がでしゃばりなのだ。大体たった二人のためにこの会場全体の観客に対して敵意を抱いてはいけない。 それにしてもなんて展開になってしまったんだろう。 Patrick Meier(スイス) 以前から注目して見ていたが、あえてこの扱いにさせていただく。 ヤグディンの演技の後で完全に逆上していた私と落ち込んでいたKに一息つかせてくれたのが彼の演技。一定の調子で流れているピアノの旋律(To See More / Farewell by Leszek Mazdzer)は聞いている分には心が癒されるが、つかみ所も盛り上がりもないのでスケートで使うには難しいだろうと公開練習を見ながら話していた。 しかしそこはオリンピックでショート、フリーとピエロで統一して魅せてくれた彼。ぱっと目を惹く大技こそ持っていないものの、曲に寄り添うような流れのある演技だった。終盤で自然に拍手が起こり、終わった後には大きな拍手で本人も嬉しそう。演技には無反応でも点数が低ければやたらにブーイングをするニースの観客とは違い、カナダの観客はスケートをよく知っている。 Neil Wilson(イギリス) 試合の前に公開練習を見ておくと初めて見る選手のチェックができるという大きなメリットがある。その中で思いきり目を惹いたのが彼。 とにかくスピンがすごい。スピンがすごい男子選手は何人も見ているが、彼のスピンはタイプがまた違うのだ。回転の速さも軸がぶれないのもすごいのだが、何といってもその形。男性のオールインワンの衣装は苦手なのだが(ベルト等で区切りがあれば問題なし)、彼だとスピンの形の美しさがよくわかって違和感がない。 特にレイバックスピン!男性には男性の美しさがあるのだが、男性のレイバックスピンを見た後で女性のを見ると「やっぱり女子の方がきれい」とつい思ってしまう。しかし彼のレイバックスピンは女子に混じっても違和感がないだろう。 始めのクワドのミスはヤグディンと同じ場所。ぎょっとしたが、例の場所でフラッシュは光っていない。それからは無難にこなした最終滑走のプルシェンコ。なんとか最後をまとめてくれたという心境である。 しかし疲れた…まだ男子予選だというのに……。 まだ初日、一つ目の種目でここまで疲れてどうするんだ。 オープニングセレモニーはスピーチから始まる。今回でカナダは8回目の世界選手権を開催するらしい。そのうち3回を過去10年間に行っている。 10年間で世界選手権を3回開催するというフィギュアスケート界に力を持った国で、世界選手権の代表であり続けるのはさまざまな要素がそろった結果なのだろう。 エルビス・ストイコという選手は思っているよりももっと稀有な存在なのかもしれない。 天井の大きなモニターに前年の世界選手権の映像が流れる。3、4番目くらいに田村君の映像が流れた時にはぶっ飛んだ。ドラマチックな音楽に流れて有名な選手だけではなく、予選落ちした選手も混ぜて次から次へと映像が流れる。ニースを生で見た人間にこの映像はたまらない。あの時の激情は全て覚えている。が、やはり一年たった過去のことなのだとも感じさせられる。 ついマニアックな楽しみ方をする私(笑)。 本田君:先シーズンのフリーの映像が何度も映った。ショートもあり、仮面の男も。 田村君:冒頭のどアップにはびっくり。ショートも映った。 都築さん&リナートさん:どアップでスローモーションのOD。アップゆえに映ったのは都築さんだけ(^^;) 恩田美栄ちゃん:フリー(か予選)のレイバックスピン 雪ちゃん&宏博兄さん:後半のラストスパートでフリーが何度も 郭君:フリー 成江:フリー Weinaさん&Xianmingさん(アイスダンス):スローモーションのOD。こっちは二人とも映っていた 思音ちゃん(Siyin Sun:女子シングル):フリーのレイバックスピン パンちゃん&トン君が見つけられなかった(^^;) 締めの選手の映像はエルビスでなくサレー組。そしてニースの海岸から海を渡り、雪山を飛び越えて―――Welcome to Vancouver! 会場で歓声と大きな拍手。しかしこういう映像で歓声を上げるほど盛り上がるあたり、すごいノリだ。この辺もカナダなのか。 最後は女性ボーカルでシンプルなアレンジのカナダ国歌。 セレモニーといえば退屈極まりないものなのだが、これはよかった。(だからって観戦記に書くかい^^;)男子予選での疲労がここで回復、さあペアショートだ。 2番滑走を引いてしまったパンちゃん&トン君のショートは去年と同じピアソラのタンゴ。ウォームアップ中ほとんど別行動だったがソロジャンプはやっていない。いいことだ、いつもパンちゃんがウォームアップではソロジャンプで転んで心細そうな表情をしているのだから。 あれだけ細ければ無理もないとも思うのだが、このペアで一番心配なのはパンちゃんのソロジャンプ。今回はきめた。去年と比べると全体的にレベルアップしたと思う。そろそろこのプログラムがサイズに合わなくなってきたのでは。 トトミアニナ組のショートは今となっては懐かしい気がする「愛の夢」。しかしソロジャンプでマリニンがミス。それ以外の部分ではさすがロシアン!という演技だっただけにもったいない。 川口悠子ちゃんとマルクンツォフ君を見るのは名古屋NHK杯以来。悠子ちゃんが髪を切ったこととメークが濃すぎることがあり、並んで滑っている二人は大人と子供である。しばらくしてマルクンツォフ君のメークもかなり濃いことに気がついた。(マルクンツォフ君なかなかの美少年なのに顔が映っている写真が撮れなかった。ごめんね…フリーはあります(^^;))コーチの指示を聞きながら笑顔も見られる二人。おお、舞台度胸はバッチリ。 ソロジャンプでどちらかがミス。ジュニア世界選手権で2位を獲った彼女達だが、こうやって見るとさすがにシニアとの差は大きい。特に観客にアピールするポイントも見つからないまま終盤のリフト。 ぐにゃり。 このリフト、悠子ちゃんが両足を持たれた状態で体を後ろにそらして半分に折り曲げるという形。リフトといえば女性は体をぴんと伸ばしているというイメージがあっただけに完全に虚を突かれた。 しかし観客はこれでどよめき波に乗った。またそこからのエレメンツも他のペアとは一味違うオリジナルの技が満載。足を替えながらのスパイラル、悠子ちゃんが足を大きく上に上げたままのペアスピン、そしてそのままの形でフィニッシュ。ペアショートで初めての大きな拍手、近くの席の人も「彼女可愛いわ〜!いくつなの?」と私達に訊いてくる。 そしてついに来ました、「Are you Chinese?」の質問。 日本人と答えるとがっかりした様子の前の列にいる東洋人のお姉さん。「中国系なの?」と訊くと「中国人なの」との事。ひゃ〜、ごめんなさいね(^^;) プラス隣の二人組のうち一人が中国系、もう一人が両親のどちらかが日本人ということが判明。東洋の血が入っているようには見えなかった(^^;) 去年に続き早めの滑走順になったザゴルスカ組。いつも「ニッ」という笑顔が可愛らしいドロタさんだが、この時の彼女の笑顔はそれを通り越して爆笑寸前だった。振るわなかったシーズン前半から仕上げられてよかった、今シーズンで一番いい演技だったのでは? アビトボル組のショートはステップで二人が向き合って戦っている所もある、とても凝った振り付け。中国人のお姉さんも「That's Chinese kung fu.」と嬉しそう。そう、このショートの唯一最大の欠点はテーマを「Ninja」と説明したことなのだ。始めからカンフーと言っていたら日本人ファンのツッコミを受けなかっただろうに…(^^;) ベルナディスさんがソロジャンプでミスをした以外は会場から大きな拍手が起こるいい演技。しかし演技が終わった後のベルナディスさんがものすごく落ち込んだ様子だった。サラさんの肩を抱きながらこつんと彼女の頭に頭をもたせかける。確かにメダルを狙うには痛いミスだが…。 ものすごい歓声の中出てきたワーツ組。(ついサージェント組と言ってしまいそうになるが、今シーズンから表記がワーツ&ワーツ組になった)しかしスロージャンプとソロジャンプで立て続けにミスをしてしまい、会場も本人達も意気消沈。振り付けのポイントが何も置かれていないこともあって、アランフェス協奏曲のフラメンコギターがうつろに響く。 それでも終盤のデススパイラルはクリスさんが出来の悪さにブチ切れてクリスティさんを振り回しているんじゃないかと思うほどの回転の速さ(もちろんそんなことはないだろう)。そしてラストのソロスピンもペアのソロスピン離れした速さでしかも回転がそろっている。やはりベテラン。こういう所で魅せてはくれたのだが全体の印象を変えるまでにはいかない。 朝早くから始まる男子予選とゴールデンタイムのペアショート、本日のメインイベントはサレー組のショートである。エルビスの時も大概そうだったが、あっちこっちの席でメープルリーフが振られていてその面積がシャレにならない。まさに春の紅葉狩り(^^;)。 サレーがソロジャンプでステップアウト。しかし今年の彼女達には少々のミスを「愛嬌愛嬌!」とやり過ごすある種の強さが感じられる。このショートは試合というよりエキシビのようなラブラブなムードがあるのでそれもあるかもしれない。 Viktoria Shklover & Valdis Mintals(エストニア) ウォームアップ中にスロージャンプで転んで立ち上がる時の「負けるもんかっ!」というような女の子の表情の印象が強くてウォームアップ中ずっとこの組を見ていた。 男性はわりに年齢がいっているよう。スロージャンプに入る時に「大丈夫?行くよ行くよ、行くよ!」と投げる直前まで心配そうにパートナーを抱えていて、投げ方までおっかなびっくりに見える。「きっとこのペアは今年組んだばかりで年齢が6、7才離れていて、お兄ちゃんは前に別のパートナーと組んである程度の実績はあるけど妹はシングルから転向したばかりなんだよ!」と彼女達のプロフィールを作ってしまった。こういう時のためのメディアインフォメーション、後で確認せねば(笑)。 本番でもスロージャンプで転び、ソロジャンプでも転んだ妹。一から十まで妹が心配そうなお兄ちゃん。本当にウォームアップそのままのペアだった。 毎シーズン誰か一人は使っているんじゃないかと思うロシア民謡、それでも一味変えて魅せられるのがベレズナヤ組。しかし今日の彼女達にはファイナルの時のような伸びが感じられない。おかしいな…と思いながら見ているうちにフィニッシュ。しかし観客はものすごい盛り上がり。それに答える二人も満足そうで特にシハルリーゼの笑顔が弾けている。その弾けっぷりを演技中に見たかったと思うがそれは贅沢というものか。 (話が変わるが今シーズンのシハルリーゼがものすごくやせたと思うのは私だけだろうか。鎖骨のあたりとあごのラインが全然違うのだ。あまり急に体重を落とされると心配になる…^^;) ウォームアップではしばらく別々にソロジャンプをやってからスローやツイストリフトを始めた雪ちゃんと宏博兄さん。雪ちゃんは本当にソロジャンプが得意、何回やっても転びそうにない。ウォームアップでは必ずと言っていいほど彼女達のツイストリフトに歓声が起こるが、降りて一瞬後に雪ちゃんがくすっと笑った。すぐ演技用の笑顔に切り替えて目の前でデススパイラル。雪ちゃん、めちゃ余裕(^^;) シャープな振り付けから余裕のスロージャンプ、二人の位置がかなり近い状態でのソロジャンプ。さて心配なソロスピン…いつもより回転が速い、そろっている!終わるタイミングがちょっとずれたけど。そして問題のペア…ペアスピンペアスピンペアスピン!!!ちゃんと回っているのだ雪ちゃん達のペアスピンが!!! ここで頭の中のスイッチが切り替わった私。こんなクラシックの使い方もあったのか。重厚な弦楽器の音と彼女達のダイナミックさがこんなに合うものだったとは。そしてそのクラシックに負けないほどシャープで洗練されたペアになっていたとは。そしてファイナル以降あれだけペアスピンがうまくなっているなんて相当テコ入れしてきたんだ。この試合雪ちゃん達獲りに来ている、獲れる、勝負できる! 宏博兄さんのソロジャンプとペアスピンをクリアすれば後は無敵の今年の二人、曲調が最高に盛り上がる終盤でもう会場のほとんどがスタンディングオベーションに入っている。私だって立ちたい、誰より大声で叫びたい。というよりペアスピンの時点でもう地に足がついていない。 でもまだ、応援しているからまだ立つわけにはいかない。 最後まで何が起こるかわからないのがスポーツなのだから! 終わると同時に爆発した私に隣の席のお姉さんが結構びびっていた。(カナダ人をびびらせた私って…^^;)いやあ、すみませんね(笑)笑顔でキス&クライ近くの観客に手を振る二人、中国国旗に気がついてくれた! 正直に書こう。 ショート1位はもらったと思っていた。 雪ちゃん達が120%やってもベレズナヤ組にはまだ勝てないのね……。 Inga Rodionova & Andrei Kryukov(アゼルバイジャン) 妖精と人間ともいえそうに衣装のタイプが全然違う二人。どういうタイプの曲なんだろうと思っていたら「Time to Say Goodbye」。二人が滑り始めて驚いた。男性がほとんど目に入らないほど女性の個性が強いのだ。 容姿も動きも美しい…のはもちろんなのだが、彼女から感じるものはそれだけでは説明できない。パートナーでさえ目に入っていないんじゃないかと思うほど入りこんでいるようで、ペアであるはずなのに彼女のシングルの演技を見ているようなのだ。おかげで男性のソロジャンプのミスはほとんど気にならなかった。 ペア競技は基本的に女性を中心に見ているので、私にとって多くの男性は影ぐらいの存在感になる。しかしこの男性は影を通り越して下手をすると透明人間。このペアの個性といえばそうなのだろうが、もうちょっと男性がんばってくれないと。 最終滑走のペトロワ組はこの組らしい丁寧できっちりした演技。ファイナルよりは調子がよさそう。しかし順位は4位。なんでよ――――――っ!!!!! 本日二度目の逆上。ちょっとペトロワ組が4位ってどういうこと!?何考えてんねん今日のジャッジは、信じられん!!完全にやさぐれる。 しかしKは「私はこれでいいと思う」とあっさり。サレー組にはジャンプのミスがあってもそれをカバーする表現力がノーミスのペトロワ組を上回るほど充分あったという。観客の反応がそれを物語っていると。 まあサレー組は地元だから横において、確かにペトロワ組に対する拍手は少なかった。むしろ他の組の方が多かったくらいである。 なるほど。ここの観客はスケートを楽しむことをよく知っている。 ついでに言うとKは私のコントロールの仕方をよく知っている。 試合が終わってやっとよりきさんと合流できた。エルビスの演技見られなかったんですね(泣)一気にテンションが上がり、会場を出て通りを歩きながらまくしたてるまくしたてる、地中海料理の店に入ってもまだしゃべる。誰かこの女止めろ!すみませんね本当に(^^;) しかし「MATさんの男子予選のレポートが聞きたいんです」と水を向けたよりきさん、あなたにも責任はありますよ(笑) 追記: |