様々なESLプログラムと学習効果


ESLプログラムとひとことで言っても、主に家庭での言語が共通の子供達の人数によって、実は幾つかのタイプに分けることが出来ます。従来のESLプログラムは、英語学習のためにある一定の時間に普通の学級から離れ、他のESLの生徒達と英語学習のための授業を受けるものでpullout(プルアウト)式とよく呼ばれているスタイル。ほとんどの先生は子供の家庭言語(=第一言語)は話せません。バイリンガルベースでの従来のESLプログラムになると、先生が子供の言語も話せるので、授業で子供は第一言語を使い、関連させながら英語を学習することが可能になります。最近特にスペイン語スピーカーの子供達が受けられる機会が多くなってきたのはTransitional(トランジショナル・過渡的)バイリンガルプログラムと呼ばれるスタイルで、バイリンガルの先生に英語を教わりながら、子供の英語がある程度上達するまで、子供の第一言語で英語以外の教科も学習させ、英語が十分になった時点で完全に英語だけの普通学級に移るもの。従来のESLサービスだけだと、ESL以外の授業が理解出来ず、英語を学習している間に他の生徒達との学力の差が更に大きくなってしまうため、普通学級に移れるようになるまで、学力・知識面を第一言語で並行学習させ、普通学級に移った時点でも学力的に大きな問題なく授業に融け込めるよう便宜をはかろうとしているわけです。ただし、最終目標は英語で授業を受けて学ぶことであり、バランスの取れた二言語で学習出来るバイリンガルになることではありません。英語での成績さえ向上すれば良しとされるわけです。現地校以外にお子さんに日本語の補習校や塾などに通わせている場合、スタイルとしてはこのタイプか次のタイプである二言語教育プログラムに近いと思われます。同じ言語を話す子供達の人数が多く、バイリンガルの先生の数も充実しているところでは、二言語教育プログラム(Dual Language Immersion)が実施されています。二言語教育プログラムには2種類あって、Two Wayタイプは幼稚園レベルから1つの教室に英語スピーカーの子供達と別の言語スピーカーの子供達が半々ぐらいで二言語で言語学習も知識学習も行うもの。どちらの言葉がメインという訳ではありませんから、教室の移動を伴わず、別の言い方をすれば、学級内の子供達は二言語で国語・算数・理科・社会全てを学ぶことになり、どちらの言語を家庭で話していようとマイノリティにはなりません。One Wayタイプは同様に二言語で言語学習も知識学習も行いますが、クラスには第一言語が同じ子供達だけで、別の言語を学びたい英語のネイティブスピーカーはいません。どちらのタイプにせよ二言語教育プログラムの場合、学年の途中からの転入だと、両言語ともにレベルが高くなるため、他のプログラムより授業に追い付くのが難しくなりお勧めできません。二言語教育を幼稚園レベルから始め、途中で現地校や日本人学校に転校(もしくは、帰国)という場合は問題ないでしょう。イリノイ州では別のセクションで紹介しているDooley Elementary Schoolの他、私立モンテッソリ学校のIntercultural Montessori Language Schoolが日本語と英語の二言語教育を行なっているようです。

さて、様々なプログラムを就学時点から受けたESLの子供達のその後の学習状況を長期間追った調査があるのですが、子供の受けたプログラム内容によって高校レベルまでに学力の差として各プログラムの効果がはっきり分かれることが報告されています。

グラフはCalifornia Association for Bilingual Education (CABE) のサイトより

  • 2 Way Dual: 英語スピーカーと英語以外の共通の第一言語スピーカーの生徒がミックスした環境での二言語教育プログラム
  • 1 Way Dual: 英語以外の共通の第一言語スピーカーの生徒だけの環境での二言語教育プログラム
  • Late Exit Transitional: 長期(小学校期間)Transitionalバイリンガルプログラム
  • Early Exit Transitional: 短期(2〜3年間)Transitionalバイリンガルプログラム
  • Content ELD (English Language Development): 英語以外の教科内容も英語学習の教材として使用したプログラム
  • Pull Out ESL: 従来のESLプログラム


*左側の数(NCE = Normal Curve Equivalent)は、パーセンタイルと似ており50が真ん中になるが単位が%ではなく、100人生徒がいた場合に何人自分より下にいるかという立ち位置を表す。このグラフでは50をアメリカ人生徒の学力平均とした場合の比較となる。Dualのプログラムだけが50以上の数値になり、中学校レベル以降アメリカ人生徒の平均を越える。

英語の他、他教科の知識学習も子供の第一言語でも並行して行われる二言語教育プログラムと長期と短期Transitionalバイリンガルプログラム、英語以外の教科内容を内容の理解ではなく英語学習教材として使用したプログラム、そして、従来のESLプログラムを比較した場合、二言語教育を長期受けたESLの生徒の学力平均は、中学校ぐらいから普通校アメリカ人生徒の平均を上回り始めるようになるほどの学力の伸びが見られます。Transitionalバイリンガルプログラムの場合、リーディングの読み方を中心に学ぶ3年生頃までの学習の伸び具合の勢いはいいものの、それ以降の理解力・思考力が中心になる頃からは学習レベルが停滞し、英語のサポート期間の長さが短いと中学校レベルから徐々に成績が下がっていく傾向が見られます。先生がバイリンガルでなくモノリンガルの英語スピーカーである教科内容を英語学習教材として使用したプログラムと従来のESLプログラムは他のプログラムに比べて3年生ぐらいまでの学習レベルの伸びが弱く、特に従来のESLプログラムだと中学校以降の学習レベルの下降がひどくなります。教科内容を英語学習教材として使うプログラムの場合は、中学校でやや伸びが見られ、高校時代には短期のTransitionalバイリンガルプログラムにいた生徒とほぼ同じ学習レベルにはなりますがそれ以上の伸びは見られません。

これらの調査対象は幼稚園で初めて英語に触れる子供達なのですが、子供達が就学以前に家庭で積み上げてきた学習体験を土台とし、途切れることなく更に学習を積み上げていくのが最も理想的であることがわかります。特に抽象的概念を習得し始める小学校半ば頃以前に現地校に移ることになった場合、従来のESLサービスだけに頼っていると、知的学習の方が停滞するため、長期的に見た学習活動に大きな影響を与えることがグラフを見てもわかるわけですが、他の調査報告でも、母国で2〜5年間学校に通っていた生徒が英語の読解でアメリカ人生徒に追い付くのに4〜7年掛かるところ、アメリカで母国語のサポートなしに幼稚園から通い始めた生徒では7〜10年、抽象的概念をしっかり習得してから(10〜12歳)現地校に通い始めた子供の方が、1〜3年間ぐらいしか母国の学校に行かなかった子供(7〜9歳)よりも、現地校で11年生になった時点で成績がよいという傾向が見られ、子供のうちは、現地校に通い出した年齢が若ければ、とか、在米(在現地校)期間が長ければ、学習問題(英語面・知識面)が少ないという公式がなり立たないことがわかります。日本語のバイリンガルサポートがある地域はかなり限られていると思われますので、現地校に通っている子供の学年が下であればあるほど、家庭での日本語での学習(知識面)のサポートが特に重要になってくるということを意識する必要があるのです。


戻る

05/21 updated