親子のコミュニケーション講座〔3〕:
不満を伝えよう


異文化の環境に住み始めると、周りが思うように動いてくれなかったり、周りの反応が自分の想像していたものと異なるために、年齢に関係なく誰でもストレスが溜まります。その上、子供がアメリカ現地校社会に慣れてくると、親の日本的な考え方が必ずしも効果的ではないと挑戦したり反対したりすることも出てくるでしょう。日本で生活している場合は、親の説明が言葉足らずであっても、コミュニティや社会が親の意見と同調している場合が多いので、社会が言葉の足りない部分を補ってくれますが、子供がアメリカの現地校で生活するとなると親の言葉足らずな部分を学校というコミュニティが必ずしも補ってくれるとは限りません。そして、特に、思春期ぐらいになって、子供がアメリカ社会と家庭の価値観とのつながりが見えなかったり、マイノリティであることを恥ずかしく思うようになってしまった場合、親子の間のコミュニケーションが困難になります。親の価値観が子供に伝わらないと、家庭では親に反抗するかのようにアメリカ人のように振る舞っていたとしても、学校では完全にはアメリカ人としては受け入れてもらえないという事態が起こり、子供のアイデンティティ危機にもつながりかねません。つまり、社会的に自分の価値を理解してくれるグループがなくなってしまい、家庭も含め自分に自信を持つ場さえなくなってしまうのです。

アメリカのように多民族からなり、自分達がマイノリティとされる社会の場合、子供が家庭と社会の両方のよい部分を採り入れられるようになるためにも、特に家庭でのコミュニケーションは大切になります。しかし、日本の価値観が基礎となっている親の言い分が必ずしも子供の現地校社会と同じ価値観だとは限りませんので、まず親がどういう場合に‘自分が’どう感じるのか考える癖をつけてみましょう。そして、子供とのコミュニケーションが困難でストレスに感じられる場合には、些細なことであっても自分の気持ちを言葉にして伝えるように心掛けましょう。そうすることで、自分(もしくは日本)の価値観を絶対的なものとして押し付けることもなく、人間関係という方法を通して、親の価値観を伝えることができます。

【例】
  1. 『ほら〜、さっさと片付けなさい!』
    ⇒「散らかってるとイライラするから、自分のものを片付けてちょうだい。」

  2. 『帰りが遅くなるなら、家に電話するのが当たり前でしょう!何でそれぐらいできないの!』
    ⇒「帰宅時間が予定より遅くなるんだったら、そう知らせてくれないと誘拐でもされたかと心配になるから、電話ぐらいしなさい。」

  3. 『宿題を先にやるって自分で決めたんでしょう!なんでゲームなんかしてるの!』
    ⇒「自分で決めたことが守れないなんて、お母さんはがっかりだわ。」
なお、自分の気持ちを伝えるアプローチは、どちらの考え方が正しいとか間違っているという見方ではないため、相手を責めることなく自分の不満を伝えられるという点で、お互いに“当然”だと思っている習慣の異なる異文化間のどんな人間関係にも効果があります。家で実行することによって、子供も現地校社会の人間関係に応用することができるようになるので、家庭でのコミュニケーションに特に問題がなくても、普段から家族皆が自分の気持ちを口に出せるようにすることを心掛けることをおすすめします。
 

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06/02