現地校裏話〔6〕:
悲しい男の子
先日、ひととおりの検査をした5年生の男の子の話。特別支援教育のサービスを受けている子で、3年に一度の評価のし直しの時期が来たので、知能と心理面は私が受け持つことになった。知能テストの結果(レベル)が3年前よりかなり低く出てきた。知能は知識と質が異なるので、年数に関係なく、普通、顕著な変化(低下)が見られず安定しているはずなんだが…。それで、心理面のテストを分析したら、両極端な結果内容が出てきた。1つのテストでは、自分らしさに満足しているというかなりポジティブな結果だったのだが、もう1つの絵をもとに話を作るというテストでは“sad”だとか“sick”という言葉を常に使用し、テーマもお母さん的人物が息子を亡くして心を傷めているとか子供が病気をしてるんじゃないかと心配している、でも、将来はきっとよくなるだろうというような内容が繰り返し出てくるのだ。家族に何かあったのかと担任の先生、特別支援教育の先生、ソーシャルワーカーなどに聞いてみたのだが、皆口を揃えて連絡を何度取ってもお母さんは学校関係者とはあまり話をしたがらないので、男の子の置かれている状況の全体像がつかめないのだという。ただ、特別支援教育の先生とソーシャルワーカーによるとお母さんは特に心配症な性格らしく、男の子の精神的な不安定さに何かしら関係しているだろうとのこと。男の子はどのスタッフにも元気である様子しか見せていない。担任の先生と話したところ、気になるエピソードを教えてもらったのだが、どうも最近、『障害』に関する言葉にこだわったり、特別支援教育のサービスを受けている他の生徒を馬鹿にするような言動が出てきて、注意することが多くなったというのだ。家族像が見えてこないので、はっきりとは言えないが、自我の意識が発達してきて、自分が障害(学習障害)を持っていること、でも恐らく本人は具体的には障害のことがわからないと思うので、他の生徒達と違うことを意識し始め、不安感が大きくなり、心を傷めているんじゃないかって気がする。馬鹿にしている生徒に自己投影しているんだと思う。もし、心理テストで出てきた内容が実生活と関連しているとすれば、親の期待に答えられない自分を嘆いているという感じだろうか。ただ、お母さんが学校側に協力しないように、お母さんが男の子の特徴を受け入れようとしていないようなので、本人も自分の問題を受け入れられなくて、周りには問題がなく元気だと振る舞う術が身についてしまったらしい。学校では男の子と最も良い関係を築いていると言われている特別支援教育の先生でさえも、本人から悩みを打ちあけられたり、家族のことを話したりすることがないとのことで、ただでさえも自我の発達で精神的サポートが必要になる時期なのに、周りがうっかり問題を見逃してしまいやすいケースだろう。知能テストで見られた不自然に大きな変化と心理テストで大きな精神的負担を抱えているだろうことがわかったから、今回学習面以外でも何かしらサポートが与えられると思うけれど、こうやって自分の殻の中で独りで心を傷めている男の子の状況を思うとこちらが悲しくなってしまう。
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10/03