中〜重度障害プログラム


自閉症や知的発達遅滞などなんらかの脳の障害から通常の学級での学習機能が難しい中〜重度の知的障害を持つ子供達の特別支援教育サービスというのも公立学区内で提供されるので、それについてちょっと紹介をしましょう。

プログラムの多くは、Multi-Needs ProgramですとかEducational and Life Skills Programなどと呼ばれ、学区を管轄地域に含む特別支援教育機関が運営しています。言い換えれば、学級の先生、各セラピストやアシスタントなどのスタッフは皆特別支援教育機関に雇われていてプログラム運営のために派遣されるというわけなのですが、特別支援専門の学校内で運営されている場合と公立学校の一教室を借りて行われている場合があります。公立学校内での運営の場合は、一般の子供達との交流を少しでも多く保つために、たとえば、アートですとか体育ですとか、子供の参加が可能な限り、個人アシスタントと共に通常の学級へ行き、学習方法や内容を子供のレベルに調節しながら、同じ年齢の子供達と一緒に授業活動を行います。そして、同じ学校で勉強しているのですから、もちろん授業だけでなく、学校行事にも参加しますので、教室内のスタッフは学区とは直接関係ありませんが、子供達は学校の一員であるわけです。

スタッフは皆特別支援教育機関から派遣されるため、先生も含め各専門家は中〜重度の障害に関してのトレーニングを多く受ける機会があり、教授方法、対処方法の知識なども詳しい人が多いです。教室内のアシスタントもそういったスタッフに訓練されるので、通常の学級の先生やパラプロフェッショナル(アシスタント)より障害児に関しては頼りにできるのではないでしょうか。

学習内容はIEPに沿って優先順位が決められるわけですが、もちろんIEPにない分野の教育も同時に進められるので、IEPの学習目標だけに偏りません。IEPの目標になった分野とそうでない分野の違いというのは、IEPの学習目標に関してはかなり頻繁に学習発達のデータが取られるのに対し、そうでない学習はおおまかな評価にとどまるというところでしょう。私が働いていたプログラムでは、IEPの目標となったスキルや知識に関しては毎日〜週2、3回ほど、たとえば、正しく答えられたとかそうでなかったなどといったデータを取って、成績表の時期になるとグラフなどで学習発達の様子を親に見せながら説明していました。IEPの学習目標にする内容はプログラムのスタッフの意見はもちろんですが、親の希望も多く取り入れるので、特に親は自分の子供にどんなことを学んで欲しいのか、普段から5〜6つほどよく考えておくとよいでしょう。基本的には1年間同じ学習目標で取り組むのですが、学習目標の途中変更も可能です。変更希望を先生に伝えれば、チームミーティングをなるべく早くスケジュールするので、そこで、各スタッフからの意見も聞いて、子供の力に見合っているものであればすぐ変更できます。

プログラムの内容で特に私が気に入っていたのは、コミュニティの時間でした。なるべく早くから公の場で行動できるようにと設けられているのですが、低学年でしたら、大きなスーパーマーケットで、カートを押しながら商品に触らない練習…自分ではずっと触らないで先生が選んだものの中から好きなものを選ばせたり、触ったり騒いだりしないできちんと行動できたら最後にご褒美として小さなものを買ってもらうことができるとか、マクドナルドで騒いだりしないで食べる練習、ちょっと大きくなって特にお金の数え方などを学んでいる時には、それに合わせて、今週のクッキングの時間に必要なものをリストに書いて、お店に行った時に自分のお財布からお金を出して買ってきたり…などと工夫されていました。

高校レベルになると、なるべく独立した生活ができるようにというのも目標にあがるため、封筒に手紙を入れて切手を貼る練習をある程度こなした後、学校が実際にどこかのオフィスのダイレクトメールだかの仕事をもらい、職業スキルの授業で実際の仕事を経験したり、学校のカフェテリアなどで仕事を経験したり、高校最後の年には、学校の教室の代わりに特別支援教育機関の持つ家を教室として、洗濯や簡単な料理、掃除などを毎日当番を決めて集団生活を経験させるなど、非常に実践的な活動がカリキュラムに組み込まれます。

スタッフと親の連絡はかなり密に行われます。スタッフによってはEメールで毎日の様子を親に知らせる人と連絡帳を使う人とあるようですが、私の所属していたプログラムでは、ニーズのより多い子供になると各教科の様子まで知らせていました。反対に同じ手段を使って、親から子供の様子を知らせる人も多く、その日の学習活動の目安になりました。たとえば、お腹が痛かったので昨夜は食事をとっていないとか、下痢をしただとか、親戚が来ているのでちょっといつもよりそわそわしているかもしれないとか、そういった情報を先生に知らせると、スタッフは、「あぁ、今日は○○ちゃんは集中力が続かないかもしれないから、ちょっと問題の数を少なくしてみよう。」とか「いつもより休憩を頻繁にとらせよう。」とか「お昼ご飯の量や食べるものに気を付けないといけない。」とか子供の行動や教室でのよりよい対応法をあらかじめ考慮することができたというわけです。

参考までに触れておきますが、自閉症などの場合、学習スタイルやコミュニケーションスタイルが独特なので、特定の教授方法を採用するのですが、どの方法を主に取り入れるのかはプログラムによって差があるかもしれません。まずおそらくどこでも使われているのはBoardmakerというソフトウェアで作ったピクチャースケジュールなどを利用するPECS(Picture Exchange Communication System)だと思うのですが、それと併用して、私の所属していたプログラムではTEACCH (Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children)という方法をふんだんに活用していました。他の方法も部分的に取り入れていたと思うんですが、スタッフのトレーニング内容は最も広く採用されいる方法だけに集中していました。プログラム参加はアメリカでの特別支援のサービスをまだ受けてない場合はケーススタディ評価を経て、転校などで前の学校で受けていた既存のIEPがある場合はその内容を確認するIntakeと呼ばれるミーティングを通して決定されます。日本でのシステムは存じませんが、日本で(または、他の学区で)もし特定の方法で教育されてきた場合、参加予定のプログラムでどういった方法が広く使われているのか、もし方法が違うようでしたら、今までと同じ方法を使い続けられるのか、もし、変更が必要であったらどのように変更を調節していったらよいか等、ミーティングで確認してみるとよいかもしれません。ミーティングの際に、通学開始前にプログラムの見学や教室の訪問ができるか聞いてみましょう。(大掃除とかのある夏休み以外の方がいいかもしれません。)

おまけのマメ情報ですが、もし、選択できる余地があるようでしたら、学校卒業したての新米の先生は避けた方がよいかもしれません。(特に低学年のプログラム。)中〜重度障害教育プログラムの運営と統制というのは私達の想像以上に大変なことですので、特にまだ自分の教育方法を設定できず教材の揃っていない1年目の先生は、時間的にも精神的にも負われ続け、かなりのストレスを抱えながらの毎日を送らなければなりません。一方、子供の第一言語が異なるというのは、新しい環境への適応だけでもストレスであるのに、また更なるストレスが増えるわけですから、自分のストレスだけでもかなりなところ、先生まで必要以上にストレスを持っているという状態は、子供の学習環境として勧められません。大人のストレスというのは子供にすぐ感じ取られ、子供の態度や行動にも影響を与えるものだということを憶えておきましょう。

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05/21 updated