日本語の学習と維持 子供が現地校に通い始め、英語で過ごす時間が多くなってくると生活の中での日本語の位置づけが難しくなってくる場合があります。特にまだ言語が具体的なコミュニケーションのみで、考える道具として十分発達していない段階の年齢だと、2つの事柄を関連させるのが難しいので、日本語を普段使っていないと英語との関連性が欠ける分忘れるスピードもはやくなります。(たとえば、大人は1つの言語が発達している分、第1言語と第2言語を比較しながら文の構造を理解したり、単語のスペルを覚えるのにパターン化して記憶するという学習術が身についているので、1つ1つの言葉を丸暗記していく幼児よりよっぽど要領よく覚えられ、記憶した際に頭の中で使った比較やパターン化の方法を思い出すことによって、文の構造や単語も、全く思い出すヒントを持ち合わせていない幼児より、思い出しやすいというわけです。)子供の日本語をどうするかという問題は、各家庭のアメリカ滞在予定期間や家族の置かれている生活環境によって、対処の仕方も異なると思いますし、各家庭の教育方針も異なると思います。親がうっかりしていたら、英語が子供の優勢言語になってしまったという場合、後で日本語を外国語として習い流暢になるという方法もありますが、子供の日本語学習に対する興味の強さに個人差があるので、外国語として学んだ日本語が流暢になったケースはむしろ幸運、確実な方法とは言えません。言語学習は子供が思春期に入るとアイデンティティの問題にも発展していく重要な役割がありますので、各家庭での言語教育方針は現地校生活の始まる前、もしくは、始まってすぐの時期に見直し、アメリカ滞在中継続して実行していく必要があるでしょう。
参考までに、小学校時代を海外で過ごした帰国子女の先輩達のお話を紹介いたします。御二人とも、学校では英語の生活、週1回日本語補習校(主に国語と算数)に通い、年齢相応の英語も日本語もしっかり維持したケースです。
- Satchさんの場合
Satchさんは毎週土曜日補習校で国語と算数だけ習っていた他、日本にいた頃から本を読むのが好きだったことも手伝って、親に送られてきた「暮しの手帖」や「文藝春秋」、友人宅で借りた本とか、とにかくいっぱい本を読んでいたそうです。ただ、『そのためか読んだ本が偏っていて、いわゆる「名作」は殆ど知らなかったりする。』と御本人。そして、おうちの方針は『家では日本語オンリー』、『日本語を解さない第3者がいる時は英語』厳守。
Satchさんが日本語の維持において大切だと思うことは
- 「あなたは日本人なのだから」というアイデンティティを植え付けること
…多分その時期の子ってアメリカのことばかりよく見えちゃってアメリカ人になりたいとか思ったりするかも知れないけど、アメリカのよさを尊重しつつ日本のよさをきちんと伝えていくことって大事だと思います。
- Otaさんの場合
補習校の小学校低学年のカリキュラムは「国語&算数のみ授業あり、社会&理科は教科書配布&月1回の添削問題提出のみ、音楽も体育も一切ないが、時々、日本の歌曲の歌唱指導の時間と、年1回の運動会があった」というもの。しかし、Otaさんいわく…
『そりゃあ勿論、補習校は効果的だけど、それだけで安心してちゃダメなんだな。現に、私の同級生に、補習校どころか、全日制の日本人学校に通ってた(←アメリカの小学校をやめて)にもかかわらず、帰国後、授業について行けず、インターナショナル・スクールに転校してしまった少年がいる。何よりも先ず、保護者の姿勢が大事なんだよ、やっぱり。』
『父の当時の駐在員仲間の多くは、「日本語より英語の方が得意になってしまった我が子が、日本語で表現出来ない事柄を、英語で説明する」のを当然の様に受け止めていた(様に見えた)けど、ウチでは、それは許されなかったのね。(←もっとも、私自身、当時は、自分の考え得る範囲内の事柄は、日本語でも英語でも言葉に出来たから、それで不自由はなかったけど。)逆に、一人でもアメリカ人が一緒にいる時に日本語を使うと、こっぴどく叱られた。つまりは、そういう‘姿勢’が物を言うんだと思うの。』経験に基づいたOtaさんからの具体的アドバイスは
- 家族間の会話には、英語を使わない
…これは、「いつかは日本に帰るんだから、日本語を忘れちゃいけないんだよ」という事を、子供に解からせる為に、是非とも徹底させるべきだと思う。
- 日本の文化・ポップカルチャーに接する機会を作る
…日本の本や雑誌、映画やTV番組を録画したビデオ等(漫画やバラエティ番組もあれば尚良し)は、楽しみながら日本語の慣用句等を覚え、日本人の感覚(感性)を身につけたり理解したり出来るし、帰国後、子供同士の会話の糸口にもなるので、なるべく沢山鑑賞させると良いと思う。そのために多少お金がかかっても面倒でも、ケチってはいけない!(特に会社員ならば、‘海外勤務手当’が 付く分、日本にいる時よりも余裕のある生活を送れるんだから。)あらゆる人脈を駆使しまくり、金に糸目はつけるな!(笑)
- その上で、滞在先の言語・文化を尊重する
…もしかしたら、これが一番大事かも?この大切さが理解出来なきゃ、母国語の勉強にだって、熱が入るワケないもんね。(^^;)お二方とも、日本に帰国した時は英語は話せたけれども、実際は日本に帰ってからの方が英語力は伸びたと言っておられたのが印象的でした。二人ともインターナショナルスクールではなく、高校も大学も普通枠で受験して日本の大学を卒業されました。Satchさん、Otaさん、御協力どうもありがとうございました。m(_ _)m
05/21 updated