上手く付き合うストレス講座〔3〕:
ストレスを増やさない環境づくり年齢を問わず、生活に変化が起こるということは大変なエネルギーを必要とし、ストレスになります。海を越えた引越だけでも、大変なストレスであるのに、子供達は新しい言語、新しい習慣、新しい学習内容と変化だらけの学校生活を毎日送らなければなりません。子供のストレスが心身の許容範囲を越えないようにストレスを必要以上に増やさない家庭での環境づくりにも注意してみましょう。(*『親子のコミュニケーション講座』も併せてストレス対策の参考にどうぞ。)身体の健康面
感情の発散面
- 運動する時間を与えること
運動は体力づくりのみならず、気分の高揚にも効果があり、心身のリラックスを促します。外で遊んだり、スポーツをしている間は自分の身体の動きに集中しているので、心配事なども忘れることができます。学校では言葉が十分理解できず、緊張したり不安に感じる時間が長く、家に帰ってからは宿題にせかされているようでは、心配事から頭が解放される時間がなくなってしまいます。常に頭の中で心配事が続く状態ではますますストレスに弱くなってしまいます。ストレスに強くなるためにも、身体を動かして心配事から解放される時間を必ず確保してあげましょう。
- 栄養のバランスのとれた食事をさせること
砂糖やカフェインの摂り過ぎによって、子供の落ち着きがなくなったり、感情のコントロールが難しくなったりするなど、必要以上の情緒不安定を起こしやすくなります。日本に比べてアメリカの加工食品は砂糖が多く使われているので、気がつかないうちに日本にいた頃より糖分を多く摂っていると思います。その点を注意しておきましょう。それから、日本の給食とは違い、学校のカフェテリアでの昼食は、事前にメニューが渡されても、子供が自分の食べたいものだけをメニューの中から選べてしまうので、たとえば、野菜の嫌いな子供は毎日昼食で野菜を拒否して1年間過ごすこともできてしまいます。ですから、学校での食事に目が行き届かぬ分、家庭での食事はしっかりした栄養のバランスを考えたものにする必要があります。
- 睡眠時間を十分とらせること
睡眠不足は身体や精神的な疲労がたまりやすくなる上、注意散漫になるため、学習面では、覚えが悪くなったり、間違いが多くなったりするなど、勉強がはかどらず、行動面でも、怪我や病気をしやすくなります。注意散漫な態度から注意を受けてストレスを感じるというだけではなく、学習面であれ行動面であれ、本来の自分の力が発揮できないということだけでまず十分なストレスになりますから、毎日の始まりは万全な状態で迎えられるようにしましょう。
習慣・計画性の確立
- 感情表現の場をつくること
特に自分のネガティブな感情を自分の中に仕舞い込んだり、自分の中で否定しようとするのは、非常にストレスになる上、孤独感をも募らせます。孤独感が強くなると周囲に相談も気軽にできなくなり、問題解決がますます遠のいてしまい、ストレスを長引かせます。子供が英語でクラスメートや先生に自分の感情を伝えられない時期は特に孤独感が強く、家庭・日本語での感情のアウトレットを絶対に必要とします。環境の変化からストレスを感じている多くの場合、子供がまず必要とするのは感情の受け皿ですから、子供の言葉を1つ1つ丁寧に聞いてあげましょう。(『聞き上手になろう』を参考に。)問題解決は激しい感情が収まってからの方がむしろ効果があるということ、子供は自分なりに既に問題解決に取り組んでいるということを忘れずに。
- 笑うように仕向けること
笑うことは実際にストレス解消に役立つと証明されています。楽しいゲームやなぞなぞの本、コメディのビデオや映画など、子供がすぐ笑えるようなトリックはありますか?異文化環境での生活は、日々の失敗や間違いが多くなる分、自分の失敗を笑い話にして笑い飛ばすというテクニックを身につけるよいチャンスでもあります。
家庭やコミュニティ環境
- 部屋の掃除・整理整頓を促すこと
異文化環境でただでさえも何がどうであるのかわからない状態で生活している中、自分のものがどこにあるのかわからないという状態では、余計にストレスがたまります。必要なものがどこにあるのか常に把握しておくのは、要領よく問題に取り組んだり問題を解決するのに必要なプロセスです。宿題を始める前に宿題を探し続けて既にストレスレベルがアップ…ということのないように、普段から部屋の整理整頓を促しましょう。
- 日課を確立すること
変化というのは物質的にも精神的にもエネルギーを必要とするものです。海外に転勤、現地校での生活というのは子供自身がコントロールできず、結果もどうなるのか全く予測できない変化であり、見通しがきかない分不安感からくるストレスも大きくなります。ですから、自分の力の及ばない変化に振り回されているというストレスをこれ以上増やさないためにも、曜日ごとの規則的な日課を確立することが大切です。そして、なるべく思い付きの家族の行事を減らし、子供の予測のできない状況を減らしましょう。(たとえば、突然週末に泊りがけの旅行に行ったり、突然夕食に他の家族を招待するなど。)家族の行事や日課の変更は前もって子供に伝え、必要な調整などを話し合いましょう。
- サプライズを減らすこと
子供が新しい経験をするということがわかっている場合、どんなチャレンジが待ち受けているのか、子供と話してみましょう。たとえば、現地校に初めて足を踏み入れる時には、日本語が話せる人がいなくてびっくりしたり、さびしく感じたり、耳を塞ぎたくなったりするかもしれないとか、反対に、いろいろ助けてくれようとするクラスメートがいるかもしれない。学校のスポーツチームのトライアウトに参加する時には、上手く自分の実力を発揮できるかもしれないし、実力が発揮できずにチームに入れないかもしれない。いろんな状況を子供と想像して、予測のできない変化(結果)に振り回されるという感覚を和らげるとともに、上手くやらなければならないというプレッシャーも減らしてあげましょう。(具体的な“成功する方法”を伝授してしまうと、反対に成功しなければならないという余計なプレッシャーをかけてしまうこともあるので、話す内容に注意しましょう。たとえば、「助けてくれたクラスメートに“Thank you.”というのを忘れずに。」とか「緊張したら、皆人間じゃなくてカボチャだと思いなさい。」ぐらいなら戸惑った時の緊張を緩和するのに役立ちますが、「トライアウトでは、ここにボールが来たらこうしなさい。」とか「試験でこういう質問が出たら、答えはこうだよ。」というような具体的な方法の伝授は結果に直結しているのでプレッシャーになりますし、言った通りにして失敗した場合、子供の学習につなげにくくなります。)
- 家族単位でのストレス対処
海外駐在では避けられない引越、家族の長期的な病気や死、親の離婚や再婚、偶然にも巻き込まれてしまった事故や事件、自然災害など、家族全員が影響を受け、各自なんらかの反応を示します。ここで、家族がいかに前向きに対処できるか、子供との対話を維持できるかで、子供の感じるストレスの大きさも変わります。家族皆が経験している問題であるのに、問題解決やストレス対処の過程に子供が含まれないと、子供は自分のストレスをひとりで抱え、自分ひとりで解決しなければならなくなります。そして、効果的な問題解決スキルが身についていない場合、ストレスの行き場がなくなり、学校など家庭外の行動にも影響してきます。子供の許容できる範囲で、問題対処過程に参加させましょう。
- 家族個人個人のストレス対処
子供は家族個人個人が仕事や交友関係など家族外の関係から個人的に感じているストレスにも敏感に察知するので、子供が直接関与していないようにみえる問題でも、子供がストレスを感じる原因になることがあります。学校で起こった子供同士の問題でも親が自分のことのように悩んだりストレスを感じるように、子供は親の悩んでいる姿を見て同じようにストレスを感じるのです。家族がどのように個人の問題に対処しているかは子供の問題解決スタイルの見本にもなり、子供のストレスの大きさやストレス対処を左右します。仕事や交友関係が上手く行かないストレスから、家族につい怒鳴り散らしたり、家庭内の口論が多くなったり、子供の悩みを子供以上にストレスに感じ、反対に子供の不安感やストレスを大きくしていることはありませんか?子供のストレスを増やさないためにも親自身が余計なストレスを持たないこと、ストレスを効果的に解消する術を身につけることが必要になってきます。子供が不安に感じるほどのストレスを親が感じている場合は、子供の理解できる言葉でどんなことが起こっているのか説明してあげましょう。説明なしで悩んでいる親の姿を見ている子供は現状よりもひどい状況を想像し、必要以上の不安感にかられているものです。
- コミュニティ環境
家族の住んでいるコミュニティが、子供が安心して外で遊べないような危険な環境だったり、犯罪が多発して大人でも安全に行動できない環境、人種差別があからさまにわかるような環境である場合は、個人に直接的な問題がなくても常にストレスに見舞われることになります。都市に引っ越される場合はほんの数ブロックでもかなり雰囲気が変わりますので、できれば事前に引っ越し先のコミュニティの馴染み易さや学校の雰囲気などを確認することをお勧めします。
10/02