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アレクサンドリア許さない×2〔DISC5〕

14 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 06:52
ささやかな宴の夜が明け太陽が真上に来る頃ギルガメッシュは遅すぎる朝食を取っていた。
「う〜、スティルツキンに変な物を飲まされたおかげで二日酔いになっちまったぜ…」
額に手を当て辛い表情を浮かべるギルガメッシュ。
「何言ってやがる、それよりダゲレオ行きの理由をまだ聞いて無いが?」
すでに朝食を済ませていたスティルツキンがギルガメッシュに問いかける。
「ん?そういやまだだったな、ダゲレオのさる人物に剣の鑑定して貰う為に行くのさ」
「…!、あの爺さんにか」
ギルガメッシュの話に昔のエクスカリバーの一件を思い出しとっさに反応を示すサラマンダー。
「へへ、さすがに話が早いねそう言うこった」
サラマンダーの理解の早さに満足気なギルガメッシュ。

15 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 06:53
「よく判らんがその爺さんなら鑑定できるのか?」
ダゲレオでのエクスカリバーの一件を知らないスティルツキンにとっては至極当然の疑問である。
「聖剣エクスカリバーを造った程の名工だが、どうだかな…」
が、しかしいかな名工とてエクスカリバー2の鑑定が出来るかはサラマンダーにとっても疑問であった。
「そこらへんの事は俺様がジタンから聞いている、まっ俺様にまかせとけって」
「じゃぁ俺様はもうひとねむり〜」
ギルガメッシュはそう言うと朝食を喰い散らかしたまま寝室へと向かう。
「まだ時間は有るな、俺は荷物の整理でもして時間を潰すがお前はどうする?」
「俺は少し風に当たってくる…」
ブリッジを後にしてサラマンダーは艦首まで足を運ぶ。
そこには同じように風に当たる一人のジェノムを見つけたがサラマンダーはさして気にも止めなかった。
今どの辺りを飛んでいるかは眼下に広がる一面の雲海を見たところで測り知る事はできない、
ただまだしばらくは時間に余裕が有った。
サラマンダーは久しぶりに訪れた一人きりの静かな時間を感じていた。

16 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 06:54
「…なにか用か?」
孤独に浸るのもつかの間ふと気付くといつの間にか先程のジェノムが近くまで来て
サラマンダーをじっと見つめていた。
そのジェノムの風になびく銀色の髪は日の光りを浴びて輝きを増し、
朱色に染まるその一つしか無い瞳は何かを訴えるかの様な眼差しをしていた。
「我、問」
そのジェノムは唐突に口を開いた。
「我造物、故人心理解不能」
ジェノムの表情からその問いは決して軽くは無い事が読み取れる。
「造られたから人の心が理解出来んと?」
「安心しろ、お前じゃ無くとも他人が人の気持ちを理解することなど出来ん」
ジタンとダガーが再会したあの日、
後に今の様な事態を招く事になるとあの時点で誰が予想し得ただろうか。
今の世界の状況とて互いに理解しあう事が出来るので有ればここまで荒れはしなかったであろう。
そして何よりラニ、彼女とどれくらいの時間行動を共にしたのだろう、
それでも彼女の行動を理解出来なかった自分、人が人を理解する事など不可能なのだ。

17 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 06:55
「しかし何故俺に聞く?」
昨日今日出逢ったばかりの人間に持ち掛ける事の出来る様な相談では無い、
軽い気持ちで聞いた訳で無いならなおさらだろう。
「仲間」
ジェノムはポツリと話す。
「仲間?誰のだ?」
「主」
「主…ジタンの事か?」
ジェノムはこくりと頷き話しを続けた。
「主、何故我造?」
「…ジタンが何故お前を造ったかは俺では解らんよ」
口には出さないがサラマンダーはすでに気付いていた、
ジェノムが知りたい人の心とはジタンの考えを差している事、
つまりはジタンが自分を造った意図であると言う事を。

18 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 06:56
だからこそ昔の仲間である自分にに打ち明けたのである。
そしてサラマンダーはこのジェノムとダブらせていた、
かつて同じ様な境遇に産まれ思い悩みながらも生き抜いた一人の小さな黒魔導士と。
「休憩終」
「待て」
踵を返し艦内に戻ろうとするジェノムを不意にサラマンダーが呼び止める。
「お前にも名前が有るのか?」
そのジェノムは振り返らずにサラマンダーに名を告げた。
「風塵」
艦内へと戻るフウジン、その後ろ姿を見ながらサラマンダーはつぶやく。
「あいつを造ったのは本当にお前なのかジタン、酷な事だとは思わんのか…」
「お前は何を思い悲劇を繰り返そうとする…」

 
 
 
 
 
 
20 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 14:05
激戦によって生じた爆風で、半ば崩れかけたアレクサンドリア城の塔の中から、ガーネットの命で秘密裏に開発された生体兵器が姿を現した。
彼はバイロイトと呼ばれていたスタイナーの部下の一人であったが、賭場や遊郭で作り上げた10万ギル超の借金をガーネットに肩代わりをしてもらうことと引き換えに、自分の身を実験に提供したのである。
自分の身を提供したバイロイトは、アレクサンドリアの学者たちによってある手術を施された。
その手術は対象者に所謂、変身能力を身につけさせるという代物。
手術は成功し、彼は科学的に怪物の力を身に宿すこととなる。
彼の存在は今までトップシークレットとされていた為、彼の存在を知っていたのはガーネットと術後ガーネットに始末された学者たちだけであり、彼はアレクサンドリア城の塔の一室に封印されていた。
だが、ガーネットが城から離れた為、彼を抑えつけていた封印が解除されて、彼は再び自由を取り戻したのだ。
白日の元に姿を現した彼は、巨大な力を感じるとその方に歩き出した。
心の奥底から沸沸と沸き起こる、闘争心に従って。

21 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 14:06
ガーネットに一応勝利し、アレクサンドリアを我が物としたエーコ。
彼女は切り落とされた己の左手を拾うと、切断面同士を合わせてフルケアをかけた。
すると、見る見るうちに傷が癒えて、切り落とされた手が繋がる。
エーコ「この様子では、もうアレクサンダーも使い物にならないわね…。残念…」
エーコは繋がったばかりの左手で髪を掻き上げると、綺麗さっぱり上部がなくなったアレクサンドリア城を見渡して、独りごちた。
エーコは黒龍を召喚し、その上の腰掛ける。
黒龍の上の腰掛けた彼女は、懐からセイレーンの笛を取り出すと一つの曲を奏で始めた。ガーネットがよく歌っていたあの歌である。
………。
……。
…。
暫くエーコが笛を吹いていると、その美しい音色につられるようにして一人の兵士が姿を現した。
アレクサンドリアが生み出した忌まわしき生体兵器バイロイトである。

22 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 14:08
エーコは笛から口を離すと、バイロイトの方に視線を投げやり見つめた。
それはカトブレパスの悪魔の瞳とほぼ同じ物であり、一般の兵士であったら石化していたところだが、バイロイトは涼しい顔をしている。
続いて黒龍も黒い牙を行使したが、それも効かなかった。
エーコ「何者だ?」
目の前からやってくる兵士が、普通の兵士と勝手が違うことに気付きエーコは問い掛ける。
バイロイト「私ですか? 私の名はバイロイト。ガーネット女王陛下に仕える兵士です」
バイロイトは丁寧且つハッキリとした声でエーコの質問に答えた。
エーコ「だが普通の兵士ではあるまい…。いや…それ以前に貴様は人か?」
バイロイト「さあ…」
バイロイトは肩を竦めておどけて見せると、腰からミスリルソードを抜きエーコに向って突進した。
エーコ「フン…ブリザガ」
エーコの指先から巨大な氷柱が放たれる。
バイロイトはそれを避けることも出来ず、腹に大きな穴を開けながら吹っ飛んで、瓦礫の壁に叩きつけられる。
エーコ「他愛もない…。あの奇妙な感覚は勘違いだったか」

23 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/20(水) 14:26
エーコが僅かに傷痕の残る左手で髪を掻き上げて倒れたバイロイトを見やると、
彼は腹に穴を開けたまま立ちあがり、どこか狂った視線をエーコの方に向ける。
バイロイト「フッフッフ…痛いじゃないですか…。
      ですが、この程度では死にませんよ」
エーコ「やはり人ではないか…。だがこれはどうかな」
エーコは黒龍の上に座ったままでホーリーを放った。
天から降りてきた光がバイロイトを照らし、彼の身体は青白い聖なる光に包まれる。
それ当時に巨大な爆発。
バイロイト「ドッゲェ―っ!」
身体を損壊させるその聖光とそれによって引き起こされる爆発に、彼は苦痛の叫び声を上げた。
その様子を、エーコは黒龍の上から愉悦の表情で眺めていた。

25 名前:昼間書き込み損ねた分 投稿日:2000/09/21(木) 02:51
やがて間もなく、光が薄らいでくると彼はその場に両膝をつきエーコの方を見た。
そして、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる。
バイロイト「…リミットブレイク」
バイロイトがそう言うなり、彼が負った傷は見る見るうちに塞がり、兵士の姿をしていた身体は青い化物に変化していった。
その異形の生命体はエーコの方を向いて咆哮をあげる。
エーコ「ガリアンビースト…。ガーネットはこんな物を飼っていたのか、相変わらず悪趣味な女よ」
エーコは黒龍から地面に優雅な物腰で降り立つと、ガリアンビーストに姿を変えたバイロイトと対峙した。

 
 
 
 
 
59 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:06
ミコトは夢を見ていた。

ブラン・バル…そしてテラそのものが滅んだその日、ミコトはそれまで彼女という存在をを支えてきたもの
すべてを失った。自分を構築する周囲の世界すべてが崩れ去り、それまでは揺ぎ無いものであった
果たすべき目的すらをも奪われ、生きる意味を見失った時、ミコトは抜け殻になった。
いや、その時抜け殻になったと言うよりも、もうずっと以前から自分が空ろな存在だったのだと…
生まれた時から今まで、ずっと空っぽだったのだと悟ったのである。

60 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:07
テラが滅びようとする今、虚脱したミコトは、そのまま世界と共に消え去るつもりでいた。
それは、己の死が近い事を知ったクジャが世界を道連れにしようとした事と同様の、自己憐憫の
ひとつの形だったのかも知れなかった。
だからかも知れない。彼女の引きこもった自慰の楼閣に土足で踏み込み、ぬけぬけとブラン・バルからの
脱出を促がすジタンに、ミコトが憤りにも似た感情を抱いたのは。
『私はガーランドに力と魂を与えられた…そう、クジャや貴方の代わりになるように…。でもガーランドも
テラも、もう滅ぶ…。それなら私の存在はどこにあるの? 何の為に私は生きているの?』
それは、そんなミコトの心の動きが言わせた、疑問の形を借りた非難の言葉であった。

61 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:07
我ながら、愚にもつかぬ疑問だとミコトは内心自嘲した。何故そんな疑問を口にしてしまったのか、
自分でも分からなかった。あるいは、無意味な事に奔走し、彼女を不愉快な気分にさせるジタンを
困らせてみたかっただけなのかも知れない。ミコトの心の中で、疑問への答は既に出ていた。彼女は
最早、不必要な存在になったのだと。だから、彼女を脱出させようとするのが、如何に無駄な行為かを
悟らせ、己の行動の無意味さに困惑するジタンの姿を笑いたかったのだ。
しかし、困惑して沈黙するとばかり思ったジタンは、意外にもミコトの疑問に正面から答えた。
『…オレも思ったさ。オレは何の為に…って』
『…わかったの?』
『わからねえな…。わからないけど、もしかしたらそれを見つける為にも、生き続けるしかないのかも
知れない…』

62 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:08
生きる目的とは、誰かに与えられるのではなく、自分の意思で見い出すべきもの。
それはひとつの真理ではあるものの、ガイアに生きる者にとってはありきたりな結論かも知れない。
しかし実際に悩み、そして考えてきたジタンの言葉には、上滑りな美辞麗句とは一線を画する、
信念に支えられた重みというものがあった。そしてそれは又、ガーランドに与えられた目的の為だけに
生きてきたミコトにとっては、想像する事さえなかった回答だったのである。ジタンはミコトの
疑問そのものに答を与えた訳ではなかったが、答を得る為の方法を教えたのだった。

『そうだ! おまえ、名前はなんて言うんだ』
『私の名前は…ミコト』
『ミコトか…。いい名前だな…多くの人がこれからおまえをそう呼ぶよ。時にはその意味を追い過ぎて
悩むこともあるけど、結局はそのミコトが何者かは、おまえが決めるしかないんだ…。行こう、ミコト!
そして新たな地で見つければいい。お前が何のために生を受け、そして生きるのか…』
かくしてミコトは、崩壊するブラン・バルを脱出し、ガイアで生きる決意をしたのである。

63 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:09
ミコトは自分が夢を見ている事に気づいていた。
何故今頃にになって、テラ崩壊の日の事などを夢に見るのかと不思議に思った時、唐突に夢の中の
テラの光景が消失し、変わって、地平線の彼方まで何ひとつ存在しない殺風景な空間が出現した。
磨き上げた黒曜石のような滑らかな大地を、毒々しい黄昏にも似た不気味に紅い光が照らし出す。
今まで何処かで見た事が無いのは勿論、そんな場所が実際に存在するとも思えない、あまりにも
現実感を欠いた光景だった。
『…ひょっとして、これが私の心象風景なの?』
ふとそんな事を思って、その仮説のあまりの不愉快さに顔をしかめた時、突然、背後からくすくすと
笑う声が聞こえた。

64 名前:名無しさん@LV2 投稿日:2000/09/25(月) 18:09
『…誰?』
振り返ったミコトの目に映ったのは、如何にも面白そうにくすくすと笑うミコト自身の姿だった。
「本物」のミコトがついぞした事のないあからさまな笑いの中に、これも「本物」には見られない
悪意が滲み出している。
『…夢におけるもうひとりの自分との邂逅…。我が事ながら、なんて安直な…』
自分の心が紡いだ夢のあまりの安易さにミコトが頭を抱えた時、もうひとりのミコトが口を開いた。
『貴女にそんな事を気にしている余裕があるのかしら?』
『…どういう意味?』
もうひとりの自分の発言の意図が掴めず、ミコトは聞き返した。「もうひとり」は「本物」の思考を
読み取れるようだが、その逆は不可能らしかった。同じ自分なのに不公平だとちらりと思う。
『私はね、貴女の心にとどめを刺す為に来たのよ』