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まなみの中のまなみU

目次へ牛丼泥酔(writed byいぬすけ)

あれは何年前か忘れてしまったが、夜中に徒競走するとは思わなかったこんな出来事が、雨の日新宿でささやかに営まれた今日はそんなお話しである。 皆さんは「スピリタス」というお酒をご存知であろうか?これは恐らく消毒用アルコールを除けば、多分基本的に一般の人が手に入るアルコールの類としてはおそらく最大の度数を誇るのであろう。これを口にした瞬間、誰もが口の中に優しさを感じ、あらゆる感覚が華麗さを増し、一生素敵な思いで生活をしていくという愛のあるお酒である。

ある日、まなみはそのお酒を口にした。度数は95度。お湯で言えば沸騰みたいなものである。しかし、アルコールは95度もあると、しびれは来ないものの、素敵な感覚にさいなまれることを実証する羽目になった。まなみはそのお酒をグレープジュースで薄めて、グラスに3杯ほど飲んだ。口当たりもさっぱりして、瞬間的に気持ち良さが残るこのお酒に、そして大好きなグレープジュースで味わえる手軽さも手伝って、もうのお酒の虜…。短時間で3杯も飲み上げてしまった。さすがに度数95度のお酒は、お湯で言えばほぼ沸騰、テレホンカードで言えばほぼ満杯のごとく、強烈な力があった。まなみは、まだお酒を飲んで店を出るころは多分普通だったと思う。

しかし、飲んでいたお店が4階にあり、道に出るまでに螺旋階段のような凄まじい階段をぐっと下ってゆくうちに、意識は空に預けた。まなみは知らない間に、○屋で牛丼を2つ買い、知らない間に駅まで歩き、知らない間に自動改札を通り、知らない間に電車に乗り、知らない間に寝てしまった。電車は知らない間に新宿に到着、知らない間にまなみの住んでいる駅までの電車はなくなり、知らない間に駅の階段にいた。そこは新宿、とは言えども、平日の夜中の雨の日、昼間のように人通りが多いわけではない。そこで朝まで過ごすことになるのだが、既に意識を空に預けたまなみ。駅の階段で何気に歌を歌い出した。ただ歌うだけなら良かったのだが、電車に乗る前に買ったと思われる牛丼2つを、右手で振り回しながら歌っていたのである。

ただ振り回すだけなら、遠心力で美味しくなっていたかもしれない。しかし、雨の日の酔っ払いにはしかも意識を空に預けたまなみには、しっかり持ちながら振り回すなんてことは、到底できることはなく、いきなり右手が軽くなった瞬間があった。そうしたら、超たまたま、階段の下を歩いていた頭の薄めの中年のオヤジに、牛丼のシャワーが降りかかったらしく、一目散にこっちに走ってきた。耳元にある白いのは補聴器だろうか…、いやよく見るとたまねぎだった。そこから夜の新宿「牛丼中年オヤジVSスピリタス意識お預け成年」の愛のない徒競走が開始された。

 逃げた…、逃げた…、ホントに逃げた…。中年オヤジには悪いが、ここで捕まったら、多分年貢も生活もなにもかも納め時になると思ったから、新宿駅の東口、南口、西口をあんなに短時間に、くまなく走り抜けた酔っ払いは日本総人口の中で、たぶんまなみだけだと思う。やがてオヤジも消え、南口の駅の前の階段横エスカレーターに残った牛丼の残骸の肉を見て、一口だけつまんで食べた。美味しかった。しかし、お酒をちょっと控えようと思ったのは、この時だけだった。皆さんはこういう経験ありますか?


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