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大野 受験生特集号の目次   大平

暗・暗・暗・そして・・・

文学部 小久保陽広

受験生特集号7面

 まわりの受験生が賢く見える。ちゃんと試験が出来るかどうか不安である。これらは受験生に多く現れる特有の症状であろう。風邪と不安は受験生の大敵である。しかし、受験生たるものこれらに勝たずして受験に勝つことは出来ない。

風邪なんて、おつむの弱い私にとってまったく縁のないものだった。しかし、生来の小心者の私にとって不安というものは何にも増して耐え難いものだった。私の浪人時代は常に不安との戦いだった。時には不安に侵され、鬱度が高まり、顔から表情が消えた。取るに足らないことに悩み、日々見えない敵に怯えた。

 こんな受験生活を送ったのは私だけだったのだろうか。いや、そんなはずはないだろう。なぜならば受験生には不安が付き物だからである。

 ではどうすると不安を取り除くことが出来るのだろうか。これから私の対処法を当日の様子を交えて振り返ってみる。何度も言うが私は生来の小心者である。小心者という点に関してはだれにも負けない自信がある。したがって、私はこの対処法は万人に通用すると自負している。

 前期試験に落ち、自分の小心者ぶりにますます拍車がかかったまま向かえた後期試験。その当日、仙台駅のバスターミナルには気持ち悪いほど多くの受験生がうごめいていた。右を見ても左を見ても賢そうに見える。バスでは鮨詰めとなる。車内には湿気がむんむんしている。そして、人間臭い。朝っぱらから鬱度が高まる。しかし、こんなことに負けてはならない。すかさず「みんなじゃがいも」と唱えてみよう。「さつまいも」ではいけない。語呂が悪い。唱えればたちまち、まわりの敵たちの頭がじゃがいもに見えてくる。バスの中は富良野のじゃがいも畑かと見間違えるほどだ。

 扇坂のバス停で降り、そのまま試験会場へ向かう。後期文学部の試験会場は経済学部の建物だった。受験票を確認し、教室へ。

 これからが正念場だ、不安に押しつぶされて顔を突っ伏してはならない。突っ伏したら負けだと思え。寝てしまったら元も子もない。早起きが台無しになる。不安に苛まれたら、すかさず「みんなじゃがいも」である。試験開始まで唱え続ける。今更、単語帳を広げても頭になんて入ってこない。

 試験が始まる。すぐにまわりを見渡してみる。必ずといっていいほど、解答用紙を受け取った瞬間に永眠される方々がいらっしゃる。彼らに手を合わせ成仏を祈ると同時に感謝をする「勇気をありがとう」と。しかも彼らは実質の倍率を下げてくれる。しかし、自分は絶対に成仏する側になってはならない。これだけは心がけるようにしなければならない。

 永眠されたじゃがいもたちから勇気をいただき、問題文に取り掛かる。油断は禁物である。なにしろ相手は旧帝大の小論文だ。易々と解答させてくれるような代物ではない。落ち着いてしっかり読むことが大切である。採点基準はわからないが、誤字脱字は話にならない。きちんと小論文のカタチに当てはめていく。

 一つめの英語文の小論文が終わり、二つめの小論文となる。これは日本語文だ。しかし、これもまた油断をしてはならない。私の経験上こちらのほうが厄介だった。「フーコー?ポストモダン?」どうなってんねんと心の中でつぶやきながら読み進める。こいつは解らなくても悲観する必要はない。内容が完全にわからなくたって合格してしまうのだ。つまるところ「みんなじゃがいも」なのだ。私がいい例である。したがって、解らなくてもあきらめず字数を埋めていくことが何よりも寛容である。原稿用紙後半に至るとさすがに辛くなってくる。やばくなればしょうがない。かくなる上は一パラグラフ、一センテンスで字数稼ぎに走る。何とか字数条件をクリアすると、そこにはゴールが待っている。もうここまで来れば開き直るしかない。解答用紙を回収してもらう。すると、あることに気付くだろう。どいつもこいつも原稿用紙に白い大きな穴が空いている。字数を埋めていないのだ。しかも一人や二人ではない六割近くのやつらの解答は条件が満たされていない。このとき、だれもが確信する。「みんなじゃがいも」だと。

 帰りの、電車、バスまたは新幹線の中で涙を流そう。あんなにがんばった自分を褒めてあげよう。悔し涙ではいけない。嗚咽を漏らしてもいけない。あくまでも粛々と感慨深げに涙を流すのだ。

そして、最後にこれまでの暗黒に満ちたつらい日の思い出をリセットしよう。

私の受験はこんな感じだった。くどいようだが「みんなじゃがいも」だということを忘れないでほしい。  


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