Site hosted by Angelfire.com: Build your free website today!


「世界選手権騒動記録9」


記録 9(3月30日(木)) 男子フリー

「17」と「70」のすれ違いくらいならネタにもできるが、今回のことを書こうとすると怒りのあまり何を口走る(筆走る)か責任が持てない。とにかく腹が立ったことと「本命が第1グループにいてしかも滑走順を把握していないくせに、なぜ第1滑走の選手を見逃すリスクを冒せるのだろう!?」ということを書くだけにとどめておく。

外はまぶしいほどの上天気だが私の胸の内は暴風雨。
観戦仲間は観戦に対する姿勢が似ている人を選んだ方がいい。

そしてフリーの席は選手がリンクから上がる所のちょうど前、今度こそ本当に女子予選で見たにぎやかとガラの悪いが紙一重の集団のすぐ近くになる。
オリジナルダンスでリンクから上がる全ての選手におかえりと言うように歓声で迎えている、スケート観戦を楽しむノリのいい集団であることはわかった。あれだけ心配した昨日でもそっちの方面では何もなかったわけだから大丈夫だとは思うが、フランス勢二人と郭君が第3グループでぶつかる以上警戒心を完全に消すことはできない。
エルビスの前に余計な力は使いたくないが、ケンカを売られるようなことになったら倍額で買うつもりだ。

それにしてもなぜ同じスケートファン相手に怒り狂ったり警戒心を抱く状態になってしまったのだろう。既にそれでかなり消耗している。なぜこんなことで余計なエネルギーを使うことになってしまったのだろう。楽しいはずのスケート観戦が。
純粋に試合のことだけを考えていられたヘルシンキは今にして思えば楽だった。
あの空間が無性に恋しい。


男子シングルは予選、ショートを経て47人から24人へ絞られた。半数しかフリーに進めないことになる。それだけ絞り込まれて残った精鋭ぞろいのはずなのに、それでも初めて見る選手や前回見たが演技の色を把握しきれていない選手がいる。テレビを見ているだけでは存在を知ることのない選手がいる。そして各国を代表する彼らの後ろには国内の選手権に出た選手がいる。
テレビに映って名前が知られている選手がいかに限られた存在であるか、あらためて感じずにはいられない。
そして優雅、華麗という言葉で紹介されるフィギュアスケートというスポーツがいかにハードなものか、そして見る人にそのハードさを感じさせずに笑顔あるいは曲に合った表情を保って滑り続けるテレビに映る選手がいかに肉体を鍛練してきた存在であるかということも。
そんな事を考えたのも途中で息が上がってへろへろになっていたセルゲイ・リロフ(アゼルバイジャン)を見たからで…ごめんね変な取り上げ方で。彼もフリーがカルメン。今年はカルメンの当たり年?

フェレイラ君、出だしの部分が四大陸や予選と比べてやけに速い。え、そんなにスピードあったの?じゃあもうちょっと点数上がるんじゃない?と思っていたら止まってポーズをとるところで既に息が上がっていた。前半飛ばしすぎたか(^^;)スタミナが切れるんじゃないかと思ったが、中盤のアクセルがダブルになったくらいであとはノーミスで滑りきった。
初日に「余裕でフリーに行くって!」と笑い飛ばしたが、いざふたを開けてみるとそんな甘い試合ではなかった。周りのメンバーを考えると初出場でこの順位は立派。


去年と違い、第2グループにいるスケーターを全員知っているのは去年世界選手権を始めから観戦して知っている選手の数が増えたからだけではないと思う。ほとんどの選手が一度はテレビで放映されたことのある選手。ネットでスターティングオーダーを見て「え?〇〇選手が第2グループ!?」と驚いている人は結構いるのではないだろうか。しかし予選、ショートを経て点数順に並べるとこの順位になってしまう。
時代の流れは思っている以上に速いのかもしれない。

今年のドミトレンコは何か違う。
お茶目な振り付けが正統派に、勢いのあるステップが流れるようなステップに。いつのまにか彼もベテランになっていたようだ。
元からどこか悲しげな顔をしている選手だが、スローパートでは演技を通り越したような痛切な表情。演技が終わり、リンクから上がる手前で少し立ち止まって迎えに来たコーチに軽く一礼。壮絶なショートと合わさって、去年のウルマノフを思い出した。

悲しい予感がする。
当たらなければいいと思う。


既にここで目の水分量が増えている。まだ第2グループの第1滑走なのに今から泣きが入ってどうする。やっぱりテンションが異常。

続く選手達の演技が軒並みピリッとしない。(ダニルチェンコはいい出来だったが)それぞれ演技の色が見える選手ばかりなのに、彼らみたいな選手がふんばってくれないことには…頼むよ〜!こんな形の世代交代はまだ早すぎる。
去年と違い、第2グループと第3グループの選手の力の差はそれほど大きくないと思う。なぜ第2グループなのか。第3グループの選手と何が違うのか。
彼らの多くが持っていないものが一つある。

一つの技でこれほど選手の運命が左右されるものらしい。マスターすれば威力を発揮して一気にランキングが上がる。手を出してマスターできなければバランスが崩れて演技全体がボロボロになるリスクがある。
避ければ…点数が出ない。


第2グループ最終滑走の本田君。今日は「たけしがんばれ〜〜!」の声が響く。
勢いのある3アクセル+3トゥ。そしてクワド、ランディングが危な…いけた!
本田君がクワドをふんばった!
彼のこんなクワドは初めて見たんじゃないだろうか。一気に視界がクリアになる。そこから先は何かスケートカナダのフリーを見ているようだった。

どの選手よりも長い間試合でクワドに挑戦し、どの選手よりも試合で派手に転び続けてきた本田君が、試合で転びそうなクワドをふんばった。スケートカナダのメダル獲得にも劣らないほど今シーズンで大きな事のような気がする。
ジャンプがきまると手がつけられない勢いがある彼に、「やばそうなところをきり抜ける」種類の強さが加われば鬼に金棒というもの。「ライジング・サン」は今の彼にぴったりの音楽だったのかもしれない。日の出だけで終わらずにこれから先もっと昇っていけるように。

終わった直後の表情にオリンピックを思い出した。ショートをミスして後がない状態。そんな中でパーフェクトでなくても実力の片鱗を見せたあのフリー―――
よかった、踏みとどまれた。ショートが終わった後に存在が小さくなってしまうんじゃないかと思ったが、これで世界のスケートファンにTakeshi Hondaは無視できない存在ということを改めて植えつけられただろう。またうまいこと偶然にオリンピックと同じように大きなピカチュウのぬいぐるみが飛んでくる。さてこれは日本製かフランス製か?
書きそびれていたが、通りのそこかしこにあるバス停みたいな広告塔にポケモンのポスターが貼ってあったり、ピカチュウの風船を持っている子供を見かけたのだ。やはり日本のアニメは侮れない。

やっと目の水分量が通常に戻る。本田君ありがとね。


今回のお隣さんは席が1.5人分いりそうな体格のおじさん。なまりがあるのでおそらくヨーロッパ人。首からIDカードを下げており、まだ売り出されていないメディアインフォメーションを持っていて関係者の様子。なんでこんな所にいるんだろう?しかしフェレイラ君の時にメープルリーフを振ろうとすると片方の端を持ってくれたいい人だ。製氷中に中国の国旗を取り出したのが目にとまったよう。
アンソニー・リウは中国人?」そうです(元だけど)。チェックして損はないですよ(^^)
最近中国人多いよね。アメリカのZimmermanのパートナーもそうだろう?
イナさんの事?おっちゃんおっちゃん(^^;)
彼女が日本の血をひいていることを言っても「いいや、彼女は中国系だ」とえらく自信満々の彼。ここでカチンと来た私(来るなよ)。そりゃヨーロッパ人には日本も中国も大した違いはないだろうが、フランスとイギリスが違うように日本と中国は違うことをはっきりさせておかないとアジア人の誇りがすたる。つい「メディアインフォメーションに書いていなくても彼女は日系です。私日本人だから彼女の名前からわかるんです!」と力説。
一応笑顔で言ったのだがちょっと口調がきつかったかもしれない。気合が入りすぎた。おっちゃん、すまん(^^;)笑って納得してくれて感謝。

郭君とアンソニー・リウは予選に続き同じグループ。ウォームアップ中に「中国人二人の区別がつかない」とおじさん。無理もない。ただでさえ東洋人は見分けがつきにくいところに二人共白のブラウスで黒のパンツ。背の高さは違うのだが(中肉中背?の郭君に対しアンソニー・リウは小柄)、あっちこっち動いているウォームアップでそれはわからない。
私にはわかる。

ウォームアップが終わる直前にゲイブルがジャッジの目の前で4サルコー+3トウをきめてテレビでよく見るあの笑顔。ちょっと、気にさせておいてそれはないんじゃない?
まあいいや。ティム君はそうでなくっちゃね。


第1滑走になってしまったアンソニー・リウ。最初のクワドのコンビネーション、アクセルを転倒してその後のルッツのコンビネーションからもちなおしたというのは見事に四大陸と同じパターン。予選でもアクセルは転んでいるし、成績が今一つだったGPシリーズといい、今シーズンはトリプルアクセルをきめたことがないんじゃないだろうか?
結局去年から順位を落とす結果になってしまったが、スケーターとしては去年より格段によくなったと思う。演技に独特の味も流れも見えてきたのだから。今シーズン3回見て情が移ったというのもあるが、とにかく私の中では赤丸急上昇。

郭君がリンクに出た時に一人の兄ちゃんが「Zhengxin, 〜〜〜〜!」と一声。
フランス語だが周りのフランス人は何も反応していない。ヤジなら笑いが起こるはず、おそらく普通のかけ声だろう。声をかけた兄ちゃんはラリック杯のテレビ放送でも映るほど行動が派手で、今回も結構いろんな人に「6.0」の旗を振っている。声をかけてくれるだけいい奴かもしれない。それにこれだけ堂々と騒ぐ集団がああいう陰険なことをコソコソしないだろうと思うことにする。
エルビスにハマった時からずっと郭君も見ているのに、実は彼のまともな写真を持っていないのだ。今回は撮るぞ。

点数にブーイング。応援人としては嬉しいが…。
この点数は妥当だと思うね。同じ所を行ったりきたりしているから
クワドで手をつきましたよね?じゃ私もそう思います。この点数ならブーイングする気はないです
うんちくたれの二人だなあ。こんな人間が近くの席にいたら嫌かも(笑)。

カメラをかまえて初めてわかることがある。
「いい振り付けをつくってもらった」と思っていた印象ががらっと変わってしまった。確かにジャッジの真後ろで見たらポーズは派手だろうが、リンクの端近くにいる私の目の前ではジャンプを除いて顔がほとんど横向きなのだ…。
何か大幅な改革をしないとこれから先へは伸びないんじゃないだろうか。彼の演技を見てこんなうす寒さを感じたのは初めてだ。


おじさんの注目株はステファン・リンデマンらしい。「彼は若いね、いや子供だ。ベビーフェイスだし、16か7で。」と滑る前にコメントが多い。そのステファン君、転びはしなかったが、予選ほどよくなかったのが残念。
おじさんはステファン君の演技の後で席を立って行った。まだ第3滑走、えらく中途半端な時間に。仕事なんだろうか?最終グループに戻ってこられるのかな。


最終滑走のスタニック・ジャネット。予選と同じ、序盤にクワド+3トゥをきめたし勢いがあったのは覚えている。しかし周りの応援がすごいのと最終グループの事で気がそぞろだったのでほとんど頭に入っていなかった(ごめんね)。プレゼンテーションが出た後のものすごい歓声にモニターを見てみると。
1.Stanick Jannette
2.Zhengxin Guo
やられた!


楽しみにし、怖れてもいた。
エルビスと中国勢が世界選手権のフリーで同じグループにいることを。

同じグループで滑るということは順位の差が6ランク以内、それだけ力の差が小さいということである。どういう形で順位が縮まるかあれこれ想像していたが、成江君が最終グループに入るという一番いい形で同じグループになった。トップクラスの全ての選手が集まる、まさに今シーズン全体の順位を付ける試合での成江君の最終グループ入りは赤飯炊いてお祝いしたい。しかし!
 同じグループで滑るということは、どっちが先に滑るか定かではない。つまり成江君がエルビスより後に滑るという可能性があるのだ。
GPシリーズや四大陸なら問題ないが、世界選手権だけは困る。というのもエルビスが先に滑るような事になると、その後で成江君の演技をちゃんと見る力が残っているかどうか保証できないから。エルビスに対してはファンだが中国勢に対しては応援人、その辺が違うのだ。
せめて間に何人かいたら気持ちの切り替えもできるだろうが、よりによって続き……ああ最悪の事態(泣)。


リンクに出る前に「エルビスの似顔絵のそばにいるエルビス」の写真を撮ろうと狙っていたのだが、関係者の陰になったので撮ることができなかった。ちっ(笑)。
たまたまスペースが空いていたので何も考えずにこの場所に貼ったが、本人にしてみればリンクに出て行く直前に自分の似顔絵と思いきり対面することになるわけだ。場所が悪かったかな。すみませんね。
まあ目に入っていないだろうけど。


のっけからクワド+3トゥをふんばるようにきめた成江君。名前のコールに合わせて中国国旗を振りはしたが、応援人はここまでが限界。もうエルビスに専念させて。こういう時に自分を一番に集中して見てくれる本当のファンを早く作るんだよ。
他の選手がジャンプを跳んでいく中、第一滑走のエルビスは2アクセル+3トゥを一回やってあとはひたすら滑っている。世界選手権フリーの最終グループにいてもそのスケーティングは目を惹く。見れば見るほどスケーティングの質感が変わった。一見やわらかいが実は抵抗なく何でも斬れそうな恐ろしいほどの切れ味。


ウォームアップの終わりの方でクワドにトライ。あー、転んだか。
公開練習ではきめていた位置のクワドなのだが。

キス&クライに近い出入り口に花束を持ったファンが既にスタンバイしている。今までそういう人はいなかったのだが、こうなるあたりがさすがエルビス。その手があったか(笑)。しかし演技が終わった直後のエルビスに近づく度胸はもうない。
受け取ってもらえるといいね。

観客に笑顔で手を振りながらスタートの位置につく。


始めのクワドの転倒にもう驚かなくなっている。しかしそのミスを引きずらない演技、一番苦手らしい中盤のループもあっさり跳んだ。このままミスをせずにいくと四大陸のフリーと全く同じ出来になる。ショート終了時で同じ4位ではあるが…
このままいく?

終盤へさしかかるフリップは後ろ向きになるので目からカメラをはずしていたが、セカンドジャンプに反射的にシャッターを押していた。



あきらめていなかったのだ―――――







そこから先のステップでがくっとスピードが落ちる。あのコンビネーションは予定外だった。滑りながらアドリブで入れた。そんな気がしてならない。四大陸では単独だったし、エルビスがペース配分を間違えるとは考えにくいから。もし始めのクワドが単独で成功していたらあのフリップはどうしていただろう。
予選でオーバーターンしたサルコーも降りる。これでトリプルは全種類降りた、そして、そうコンビネーションが最高の三つ。しかも前半、中盤、終盤とばらついている。小川さんの「これは大きいですよ」という声が聞こえてきそう。

あれほどコンスタントに跳んでいた、あの去年でさえきめていたクワドが跳べない。他のジャンプは朝飯前のようにきめているのに、クワドだけが練習でさえもきまらない。まるでそれだけを封じられたかのような今回の世界選手権。10年近くクワドを跳び続けている彼にそれがどれだけ大きいことか知る由もない。
しかしそこで。

あきらめてそのまま時代の流れに飲み込まれることもなく、クワドに固執して演技全体がボロボロになることもなく、トリプルだけでまとめあげた。限られた条件でほぼ最高難度のジャンプの組み合わせをもつプログラムという形で。
「終盤にもう一つコンビネーションを入れれば」と考え、戦略を語ることはたやすい。しかし選手にしてみればもっている今の能力の全てを費やして造り、身につけてきた元のプログラムを瞬間的に考えて変えるのはどうなのだろう。ペース配分のこともある、そう簡単ではないかもしれない。それをやり遂げた。あとのステップでがくっとスピードが落ちてしまうほど、余力を振り絞って。

そういう人なのだと。
クワドを封じられてもまだこれだけのカードを持っている人なのだと。

とは思うのだが………。




最後のポーズを解いた後の顔を見て一気に涙が出た。


よかった―――





2、3年前のアナウンサーのあおるような実況とは違い、本当に「全員が四回転をもっている」最終グループ。もはやクワドなしでメダルが獲れる時代ではないのだろう。ショート終了後4位、第1滑走でこの出来だと去年よりさらに順位が落ちるかもしれない。エキシビションに出られない順位になるかもしれない。去年4位の結果にインターネットで「エルビスは引退すべきか?」の二者択一アンケートを出したカナダのマスコミ、今度は「エルビス、引退しろ!」のシュプレヒコールを起こすかもしれない。
それでも!


あきらめはしなかったのだ。
ミスの埋め合わせをしようとし、そして最大限の範囲でやりぬいたのだ。いつもインタビューで言っている「push the envelop forward」という姿勢が実際に見られた。幻ではなかった。私はそれで充分。
しかし実際勝負の世界にいる人間にはこんな理想論など結果の前に全て消えてしまうのだろう。それでもどんな順位になっても、誰も書かなくても私が書く。過去に3回世界タイトルを獲り、今回も狙っていた人に対して失礼な見方だろうが、ファンなんて思いこみで生きている種族なんだから悪く思わないでちょうだい!


そんなにひどい受け取り方ではないかもしれない。去年とは違う、笑ってみせる力もフェンス越しにファンから花を受け取る余裕もあるのだから。よかったね、受け取ってもらえて。
点数が出る。ブーイングが出る。どうにもならない、やるだけのことはやったのだと。
あとは待つしかない。

そしてこっちは終わるわけにはいかない。まだ成江君がいる。
後にいてくれてかえってよかったかもしれない。


その成江君、何かガチガチのリバーダンス。いつもの、そして予選での余裕が感じられない。まるで今年のフリーを見ているような消化不良の感。始めのクワドでミス、中盤のアクセルで転倒。
終わった後に両手を広げて「あーあ」というポーズ。リンクから上がる時に歓声で迎える客席に手を振って応えた後にもう一度「あーあ」。
あんた感情表現うまいわ。中国国旗を振りながら泣き笑い。これで彼の存在はちゃんとヨーロッパのスケートファンにも知られるだろう。

アプトの新しい衣装かっこいい…。しかし泣いている人間に悲しい旋律を聴かせてはいけない。スローパートでボロ泣きしてしまい、そこから後は頭に入っていないのだ。リバーダンス対決を楽しみにしていたのに…。前半から勢いがないとは思っていたが、この時点でエルビス、成江君に続いて3位だからフリーの順位がそんなに悪いとは思わなかった。

ミスしたジャンプはクワドともう一つぐらいで勢いはあった。しかし終わった直後にがっくり力が抜け、落ち込みを隠す気もなさそうだったワイス。リンクサイドまで迎えに来た奥さんと弱々しくハグ。その真上で「Go, Michael!」の声援。
始まる時にはなかったと思う。

ここでエルビスのメダル獲得が決まった。なのでヤグディンがクワドを二つきめたのに気がつかない状態でも許していただきたい。席の都合でコンビネーションの方はほとんど見えなかったのだ。一応特別な歓声があったし、前半からスタミナが切れているようだったのでいつもと違う大技を出したのかなと意識はしていたのだが。「これ途中で転ぶよ…」と思っていたら最後のジャンプで転倒。これで優勝争いがわからなくなった。

優勝争いを意識したおかげでやっと順位が表示されているモニターを見る余裕ができる。
4.Chengjiang Li
5.Alexander Abt
6.Stanick Jannette
モニターには6人までしか表示されない。この下には郭君がいるはず、ということは。
ちょっと、中国男子来年3枠?
あとで考えよう。まだ試合は終わっていない。

背中におもりをつけられてもがいていたようだったプルシェンコ。
こんなこともあるのか―――



「全力を尽くせば結果はついてくる」という言葉の意味が少しわかった………。



いやあ、泣きました(笑)。
エルビスの演技が終わってからずっと涙を流していたが、最終順位の表示でまた涙。1グループ分だから30分は泣いていたことになるのか。隣のおじさんは結局戻ってこなかったのだが、いなくて助かった。
肩をたたかれて気がつくと係員のお姉さんがいる。何?私何もしてないよ?ボーッとしていたら二列前のおばさんが「ストイコが〜〜〜」と説明している。何私、そんなに目立つほど泣いていたわけ?ひっそり泣いていたつもりだったんだけど。
もうすぐ表彰式なんだからいいかげん泣くのはやめないと。

席がペアフリーの時よりはリンクの中央寄りとはいえ、やっぱり表彰台にいる選手の顔を直接見ることはできない。しかも銀メダルのエルビスは向こう側で見事にヤグディンの陰。しかしがっかりすることなかれ、こういう構図になるのだから。唯一顔が見えるこの瞬間、写真に撮ろうと最初から狙っていた(笑)。

で、メダリストの写真撮影…なのだがこの時のエルビスがまあ。台から降りた後にウィニングランもせずにカメラマンの前へ滑っていって一人でメダルを見せるポーズをとっている。早いって(笑)!
あなた三人そろうまで待ちなさい、というかいいかげんこういう場所はチャンピオンに仕切らせてあげなさい!表彰台慣れしていないアジア勢ならともかく、ヤグディンなんだから。
ったく表彰台で仕切る人だよこの人は。そんなに早く写真を撮ってほしかったのかな(笑)?

ワイスはすぐにやってきたがヤグディンがなかなか来ない。リンクサイドにいるタラソワコーチに花束をあげている。なるほど。二人が待ちぼうけを食らったあとにようやくやってきた。
大きくなったなあ………。


……いや、私が言うセリフじゃないんですが。ローザンヌの表彰台を思い出してつい。


それにしても思わぬどんでん返しというか何というか。
予選、ショート、フリーを通じて一度もクワドをきめなかったエルビスが銀メダルを獲ることになるとは。上位陣、ベスト10、いや第3グループ圏内の選手が一度はきめている中でである。これは幸運?違う。クワドを跳ぶこと以外の要素が評価された、何か色合いが違うメダルのような気がする。
終わってみればジャンプをミスしなかったのが第2グループのダニルチェンコだけだったという荒れまくりの男子フリーだった。おそらく氷やその他の条件が悪かったのだろう。ミスが避けられない悪条件の中、そのダメージを最小限に埋め合わせる力があった分抜け出せたということか。

そしてクワドをミスしたダメージを最小限に抑えたのがエルビスなら、クワドをきっちり跳んでしまったのがヤグディン。しかも作って1ヵ月、見るからに荒削りな所があるフリーでである。結局彼の一人勝ちだったのかもしれない。
やられました。
なにせエルビスにもできなかった世界選手権三連覇をしてしまったのだから。


今回はいぶし銀というところですか。それもまたいい言葉じゃないですか。

おめでとう。


この後の私、テンションが高い高い。話をしているうちにいきなり泣くわ、同じ事を繰り返して言うわ、軽くたたいたつもりが相手には結構痛かったりと、後で考えてみればまさに酔っ払いそのもの。酒を飲んだ時にここまでテンションが上がったことはなかったのだが…ってこれは友人の判定が必要か。
ちなみにアルコールは全く摂っていない。アルコールなしに酔っ払いと化すことができる体質だったとは知らなかった。巻き込んでしまった方々すみません^^;

久しぶりに夜中に目が覚めなくてすみそう。
おやすみなさい。

(10へ続く)

追記:アンソニー・リウのトリプルアクセルの話の続き。ショートに入れていないくらいだから相当苦手なんだ…と今ごろ気づいたのは私です。惜しい!
しかしクワドを最大限に利用するとここまで上がれるということですか。ふむ…
(ここで田村君の事を考える)

その2:後日テレビの解説を聞いて「そうか、公開練習で転びまくっていたのはクワドルッツの練習だったんだ」とやっと気づきました。確かにルッツの位置でした。修行が足りませんね^^;

その3:メダリスト三人の写真でヤグディンだけ花束を持っていなかったのはこういうわけです。ところで表彰式の花束って大会ごとに個性が出ますよね。紫が基調のオリンピック、黄色が基調だったヘルシンキ。「ミモザ祭り」があるだけにニースも黄色が基調。さすが花祭りがあるニース、花束も特大サイズ。
でもあの花束結構重いですよ。後日わかった……^^;

(8に戻る)