ESLプログラムの落とし穴〔4〕 ESLプログラムのもうひとつの落とし穴として、プログラムの修了を決定する手段が学校のカリキュラムに沿ったものではないために、English Proficiency Testなどのみにより、時機尚早で打ち切られてしまうことが多くあります。子供達が学ばなければならない英語にはConversational EnglishとClassroom Englishの2種類あるということは別のセクションで触れているのですが、実際、ESLのサービスを受けている小学生数千人を対象とした調査結果を見てもこの2種類の習得スピードにはっきりと差があらわれています。Figure 5のグラフで左側の軸が熟達度を測るテストの点数(0〜80点)、下側の軸がESLプログラム在籍年数(修了まで計6年間)、棒線がConversational English、句切れ線がClassroom Englishに当たるものです。
グラフを見ると現地校に通い始めて会話力はすぐ伸び始めますが、初めの1〜2年間ではほとんど授業に必要な読み書きのスキルが習得されていないことがわかります。さらに内容を細かく見てみましょう。Figure 4のグラフでは左側と下側の軸はそれぞれ熟達度(0から100%)とESLプログラムのレベル(6段階)をあらわしており、棒線がリスニング、句切れ等線(?)がスピーキング、点線がリーディング、句切れ不等線(?)がライティングのスキルを意味しています。
会話に必要なスキルの中でもリスニングの伸びが圧倒的に早く、スピーキングもリスニングに比べると習得速度が緩やかとは言え、すぐに向上し始めます。ところが、読み書きのスキルの習得は初歩の2レベルではほとんど見られません。会話力がひとまず落ち着いたところでリーディングが伸び始め、リーディングで普通のまとまった文章に触れる機会が増えると共にライティングも伸びてくるという形です。英語(外国語)の習得パターンをこうして見ていくと、会話力が落ち着いたところで、読み書きのスキルの土台を固めるために、ESLで子供の英語のレベルに合った質のよい読み物を与えてもらう必要があるのですが、実際は、子供の本当の読み書きレベルを測れない選択式のEnglish Proficiency Testなどで、十分な得点を取ったからとさっさと普通学級に戻され、他の子供達と同じ読み書きレベルまでのギャップを独力で埋めなければならなくなることが多いようです。レベルは異なりますが、例えば、アメリカの大学入学に必要な選択中心のTOEFLで入学必要最低点以上取ったからと言って、大学の教科書がスラスラ読めたり、教授が問題なく読めるようなエッセイをしっかり書けるわけではなく、授業についていけずに中退する移民の学生や留学生が少なくない現象を造り出しているのも、TOEFL等の試験でカバーされる言葉が必ずしも実際の授業で必要、もしくは、十分だとは限らないからです。小・中学校でも同様、ESLプログラムで採用されている英語熟達テストが実際の授業に必要な英語力と一致しているわけではありません。実際に最も子供達が必要とするサポートは、この点(=授業の学習活動で必要とされる英語の習得)であるのですが、自分達の責任は‘子供達の学校生活を送るのに必要な英語力がつくまで’としか認識していないESLの先生の方が多く、ESLプログラムの学習内容と授業の学習活動に必要な英語力とのギャップが見落とされがちなのです。酷い先生になると、各学年の学習カリキュラムにも疎く、子供が数学の文章問題の意味が分からず、ESLの先生に聞きにいったところ、「数学は私の分野ではないから。」と突き返されたというようなこともあるようです。一方、普通学級の先生の中には、授業についていくのに十分な英語力がない子供達に対し、授業中に基本的なリーディングやライティングを個人的に教えるのは自分の仕事ではないというスタンスの人も多いので、柔軟性のないESLと普通学級の先生のシステムにはまってしまうと、学習活動に必要な英語力がやっと付き始めたESLの子供達の行き場がなくなってしまうのです。このため、行き場のなくなった子供達は、必要以上に英語以外の教科学習が遅れてしまったり、或いは、子供の英語力に合っていても子供の知識レベルに合っていない、子供にとっては刺激のない学習内容の課題ばかり与えられることになるのです。大人が英会話を習っていても、アメリカ人と天気の話や日本文化の話ばかりするより、趣味や悩みごとなどの話をしたいと思いますよね。授業に必要な英語力が十分伸びないと、子供は作文の課題で遠足の話を書きたいのに天気のレポートばかり書かされる、木が種から育つ過程を知りたいのに木の部分の名前だけ覚えさせられるという状態に陥るようなもので、学習意欲が湧くほど知的に刺激を得られないですし、自分の好奇心を満足させることも出来なくなるわけです。義務教育なのに、学校のシステムのために何年もの間、このような状態を強いられることになったとしたら、子供の学習経験としてフェアでしょうか?ESLプログラムの時機尚早の打ち切りという問題は、子供の言葉レベルと知識レベルの不一致という面で大きな問題を残します。バイリンガル環境の子供の受け入れに不慣れな学校では、子供のよき代弁者になれるのは、親だけということもあるかと思いますが、現地校に子供を通わせる際、子供の英語やその他の学習経験を単に学校まかせにすることが出来ないという現状を認識し、ESLのサービスが不十分だと感じる場合は、学校側にプログラム改善やサービス延長の必要性を子供のために求められるように努めて下さい。
*記事中のグラフはDe Avila博士の"Setting Expected Gains for Non and Limited English Proficient Students" より抜粋。英語習得のパターンは既に母国語学習の確立されている中高生や大人、過去の英語経験、母国語と英語の構造的な近さ等によって変わると思われます。05/21 updated