深刻な学習問題における学校側の対応


公立学校は、基本的には生徒の学習問題が深刻になり過ぎない内に対策を取るために、クラス内グループ別練習時間を設けるようにすることが多くなりました。従来は特別支援が必要そうな生徒はまず特別支援サービスを受けるレベルかどうかを確認するための各種検査を受け、検査結果で判断して特別支援専門の先生のサポートを受ける形だったので、生徒の学習問題が深刻でないといけない、悪い言い方をすると、生徒に失敗させないとサポートが得られないという前提がありました。教育法の改正で学習障害の定義が変わり、判断基準が生徒の学習レベルだけではなく、ニーズの種類や介入サポートのレベル、サポートを受けた状態での学習進度なども考慮しなければならない、むしろそちらを重視しなければならなくなったので、例えば、学習レベルは何とか平均範囲には入っているけれど、個人レベルの介入サポートなしではその学習レベルを維持出来ずにどんどん遅れてしまうというような場合も特別支援を受けられることになりました。つまり、サポートを先に受けて判断するスタイルになったので、生徒の学習が遅れ過ぎる状態を防ぎながら特別支援に移行して高度の介入サポートの維持という流れになったのです。学習面の介入サポートの維持や他の関連セラピーなどの特別支援の必要性を判断するまでの大きな流れとしては学校側は次のような介入ステップをとることが多いでしょう。
 

  1. 多くの学校では各学期の初めか終わりにMAP (Measures of Academic Progress) と呼ばれる学力テストやaimswebPlusやeasyCBMやDIBELSやISELなどといわれる短めの基本的なスキルのテストを通して全生徒のリーディングや数学のスキルのレベルを確認します。その他、単元ごとの小テストなどでクラス内のレベル分けを決定。

  2. クラス内のグループ別練習時間に、クラス全体に説明した概念の復習やスキルの練習などをレベルによって内容を調整しながら実施。クラスによっては特別支援やESLやリーディング専門の先生などが教室にいて、担任の先生と共同で授業をしていることもありますので、その場合は、そういった専門の先生が学習ニーズの一番大きいグループの担当になります。先生の説明や監督が必要な内容と個人やペアになった生徒だけで練習できる内容を組み合わせて、先生が全生徒の学習レベルをチェック出来るようにローテーションの形を取ることが多いですね。トピックによって子供の得意不得意がありますので、グループは流動的です。クラス内での授業中のサポートはTier 1(第1層)と呼ばれます。

  3. 追加の補習時間を設けていたり、授業時間内に生徒の自習時間を設けていたりする学校が多いと思うのですが、クラス内のレベル別学習で十分でない場合は、補習時間や自習時間に別室に移り5〜6人ぐらいの小さなグループで特定のスキルを伸ばすための追加的な介入サポートのプログラムに参加。このレベルの介入サポートを受けている間は上記のaimswebPlusやeasyCBMといった小テスト、もしくは介入プログラム内に組み込まれている小テストを繰り返し受けて、学習の伸び具合を確認します。サポートのレベルはだいたい週3〜4回ぐらいが多いと思うのですが、学習効果を確認するのにだいたい2〜3ヶ月は続けられると思います。このレベルのサポートはTier 2(第2層)と呼ばれます。小テストや学力テストで学習の伸び具合を確認し、クラスの平均範囲レベルに達したら、Tier 2サポートは終了。いい感じで伸びてきているけれどもう少し必要と判断されたらTier 2サポート維持。学習の伸びが見られない場合はプログラムを変更するか、次のレベルの介入サポートに進みます。Tier 2レベルのサポートはテストの結果を見て割と自動的にプログラムに入れられるので、学校によっては各家庭に報告するよりも学校のニュースレターなどで「◯◯のテストで△点以下だった生徒は学習サポートプログラムに参加することになっています。」といったお知らせの形をとっているかもしれません。

  4. Tier 2サポートで思ったほど効果が見られずTier 3(第3層)にレベルアップした場合、グループ対象というより生徒個人のニーズに沿うような介入になることがほとんどなので、多くの学校ではこの時点で家庭に連絡が行くと思います。たとえTier 2と同じプログラムを使っていたとしても、回数が週5回の毎日、1回の時間が長め、グループのサイズが3人以下、担当が特別支援の先生になることもあり、解説の仕方や便宜などが個人のニーズにあったものとなるので、内容的にはほぼ特別支援サポートといっていいでしょう。この間も学習の伸び具合は小テストで頻繁に確認され、十分な学習の伸びが見られ個人サポートの必要性が軽くなったらTier 2にレベルダウン。学習の伸びは確認できたけれどプログラムをこなす上での個人サポートのニーズが減らない場合はTier 3レベルの介入維持。学習の伸びが思ったほど見られなかった場合は介入サポートの内容を調整してTier 3を維持するか、何年間にも渡るTier 3レベル以上の個人レベルのサポートが必要だろうと判断されたり、学習スキルのサポートだけでなく言語療法や作業療法といった別の関連サービスも必要と判断された場合は、介入担当の先生や親の提案で特別支援教育サービスを受ける正式な手続きを開始する運びになります。Tier 3レベルのサポートを受ける生徒全てが特別支援サービスに移行するわけではなく、数年間Tier 3でサポートを受け続ける生徒もいます。(決して多くはありませんが。)特別支援に移行するメリットは、学校のカリキュラムに個人が合わせるのではなく、個人の学習スタイルやペースに合わせて学習目標が設定できること、夏休み中のサポート内容が個人にあったものが提案されること、全科目対象に必要なサポートが受けられること、そして、必要な時に特別支援の専門家のサポートが得られやすいことでしょうか。ちなみに、多くの学校はTier 3までのシステムを採用していますが、Tier 4までレベルを細分化している学校もあります。


    学校によってはTier 3のレベルに上がった時点、多く学校では特別支援への移行を考えた時点で親を含めたチームミーティングを実施するのですが、子供の学習に携わるチーム全員のスタッフが集まりますので、初めて参加される時は圧倒されてしまうかもしれません。多い時には10人以上集まる場合もあります。複数のスタッフで問題解決をするこのアメリカ式のやり方は、子供に対する偏見を減らすことと子供の学習問題を多角的に見る目的があり、人数と問題の深刻さが比例しているわけではありません。

    Tier 3中のミーティングでは、子供の性格や行動、学習状況などを各チームメンバーが報告し、状況を改善する様々なサポート方法の案を皆で出し合い、新しい方法を試すプランを立てます。プランを実行するのは主に先生やその他子供の学習に直接携わるスタッフですが、時には家庭でということもあります。英語に不安な方は、理解の面だけではなく、情報提供という役割を果たすためにも、このミーティングにバイリンガルの知り合いなり、日本語の話せるスタッフをリクエストするなりして、同席してもらうことをお勧めします。そして、2〜3ヶ月後ぐらいに学習効果がどうであるかをデータを見ながら報告するミーティングがあり、現状の介入サポートの維持か否かを決定することになるわけですが、特別支援教育サービスに移行する場合は正式な手続き開始も兼ねたミーティングになることもあります。


    公立学校のこういった何層かに分かれた段階別介入システムをはMulti-Tiered System of Supports (MTSS)、もしくは Response to Intervention (RTI) と呼ばれ、読み書き算数のアカデミックな学習だけでなく、感情面や社会的スキルの介入方法としてもこの形が取り入れられるようになりました。

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05/21 revised