「今日子! 今日子じゃないか!」
突然声を掛けられて、今日子はびくっと震えた。振返る。
そこに立つ青年の姿に、今日子は怯えた表情を浮かべた。
海の中で一歩、後ずさりする。
「どうした、今日子?」
青年が近寄ってくる。今日子はもう一歩下がろうとして――足を滑らせた。
頭から水をかぶってしまう。
青年は慌てて駆寄ってきた。
「大丈夫か?」
手を差し伸べてくる。今日子は水になかば漬かりながら、青年の顔をじっと見つめるだけ。
「どうしたんだ、一体?」
手のやりどころがなくない。ゆつくりと手をおろさざるをえない。
戸惑う青年の前で、尻餅をついた今日子は、よいしょと立上がった。
「なんだか変だぞ、お前?」
青年の不審げな顔。今日子は口を開いた。
「――あなた、誰?」