青年はぎょっとしたような表情を浮かべた。 「おい今日子……どうしたんだ、お前?」 「あなた、私の事、知ってるの?」 水に浸かったまま、今日子は訊ねた。長い髮が顔に貼りつくのを片手の指で剥がす。 「何を言ってるんだ、俺の事、忘れたのか?」 青年はまるであきれたような顔をした。 「そうよ。きれいさっぱり――この春までの事は、みんな忘れてしまったの」 乾きはじめた頬に、二筋の涙が伝った。