この度、本学大学院理学研究科、学際科学研究センター兼任の豊田直樹教授、松井広志助手、大学院生四名らの研究グループが、強誘電性金属と呼ばれる物質を発見した。
今回発見した強誘電性金属とは、ある有機分子と無機分子から成る有機化合物で、高い電気伝導性を持つ一方、強い誘電性も兼ね備えるという、特殊な物質である。
電気伝導性とは、物質内の電子が、電場をかけた際に、それに応じる性質を指す。この電気伝導性の違いにより、物質は、電気をよく通す金属、まったく通さない絶縁体、その中間の半導体に分けられる。
それに対し、誘電性とは、物質内に自由に動ける電子が存在しないために、その物質に電場をかけた際に、電子が束縛され移動できず、その位置の電荷が偏り、プラスとマイナスの電荷が分離、つまり偏極と呼ばれる状態になる性質のことを言う。通常、高い誘電性を持つことは、その物質が高い絶縁性を持つことを意味する。
高い電気伝導性と誘電性、この二つの性質は本来なら共存し得ない。今回の発見はこの点で物理学上の大きな意義を持つ。実際、この状態についての機構の解明は仮説こそあるものの、未だなされていない。豊田教授らの研究グループは今現在、研究している最中だと言う。
今回の発見は、この物質を用いた実験をしていた際に偶然発見したものだという。当初、豊田教授らは、この物質が〇K(マイナス二七三℃)付近でもつ、絶縁体としての性質に注目して研究を行っていたが、実験を行っているうちに、特に七〇〜八〇Kの間で、非常に高い誘電率を示すことを発見したという。
今までの物理学では、電気伝導性と磁性という二つの性質に注目することで、研究が進められてきた。しかし、今回の発見により、誘電性という新たな側面からのアプローチが可能となる。また、このことは、物理学に新たな課題を与えたとも言えるだろう。