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地球の歩き方
裸足の川内北キャンパス編

317号4面・大学

そろそろ暖かくなってきたし、どこかにぶらりと旅でもしたい。けれども、時間とお金がどこにもない。そんな忙しい学生にピッタリなのが今回紹介する「キャンパス裸足旅行」だ。

外では履いているのが当たり前の靴を思い切って脱ぎ捨てる。するとキャンパスがまるで見知らぬ土地であるかのように一変する。通学するだけで、ちょっとした旅行気分が楽しめる。

今回、当編集部が実践を通してご案内するのは川内北キャンパス。それでは早速、素足でアスファルトを踏みしめよう。朝日に照らされた地面はほんのりと暖かく、かつ、荒い舗装は刺すように痛い。その生々しい感覚は、背筋から脳髄を刺激し、頭の中身は時空を超える。そして目を上げればそこはもう異国の地。さあ、旅の始まりだ。

まずは、痛みと喜びを踏みしめながら講義に向かう。A棟に一歩足を踏み入れると、ヒヤリとした床に気分が引き締まる。足下から厳かな空気が身を包み、そう、そこはまるでベルサイユ宮殿の大回廊。靴を履き平然と歩く人々は皆上流貴族で、素足の自分が場違いな道化に思えてくること請け合いだ。

A二〇〇番教室の豪奢なドアを開ければ、そこに広がるのはノートルダムの礼拝堂のごとき壮厳な光景。誰もが静かにうつむき、ありがたい説法を聞いている。半ばお経なので意味は解らないが、とりあえずありがたい。

説法に感動した後は、厚生会館の前に出てみよう。そこはまるで花の都パリ。大勢のファッショナブルな若者でごった返す、東北大学随一の大都会だ。皆一様に自分を遠巻きにじろじろ見てくるのもここが外国である証拠。あいさつしても返されないのもまた、外国だから仕方がない。

厚生会館に入ってみればそこは一大ショッピングモール。あまりの混雑ぶりに素足を踏みつけられる危険も高いが、怒ったところで誰も言葉は分かってくれない。諦めて地を這うように進むしかない。

気を取り直し、ランチは行列のできる有名店で。編集部の一押しメニューは「ミックスフライ」だ。定番メニューの揚げ物各種を一晩寝かせ、秘伝の赤ソースで和えた豪華な一品である。ただし、あまりの人気に、昼まで残っていることはまずありえない幻のメニューだ。

また、「レギュラーカレー」は改良に改良を重ねて辿りついたという力作。その水のごときサッパリとした喉ごしは一食の価値有りだ。

さて、お腹もふくれた、天気も良い。午後は思い切って講義をサボり遠出をしてみよう。管理棟の横を通り抜け、上へ上へと登って行く。ただし、この道は川内北キャンパス一の悪路。足裏に血が滲むほどの痛みに、思わずがにまたになってしまう。通り抜けるならば、女性は女であることを捨てる覚悟が必要だ。

整備不良の難所を昇りきったところに広がるのが、川内北キャンパス随一の名勝地「ロータリー」だ。自然豊かな景観に、風光明媚な駐車場はブルゴーニュの田園風景を思わせ実にのどかである。

そこに立ち並ぶ建物群は古き良き時代の姿のまま今にも燃え出しそうで、中央に広がる混沌とした農地は宇宙を感じさせる。そして何よりも、その完ぺきに平らで裸足に優しい地面が素晴らしい。しかも、ここはあまり人が訪れない穴場でもある。雄大な青空とアスファルトを独り占めだ。

それでも、もうアスファルトは固くていや、と言う人は余裕があるなら記念講堂まで足を伸ばしてみよう。葉桜並木の下、レンガ模様のモダンな小道を歩き、辿り着くのは一面の芝生。さわっと芝が足を包み、踏みつければ、柔らかい大地が弾力をもって、生足を受け入れる。

えもいわれぬ快感に、ふわっ、ぐにゅっと繰り返す足踏みはいつしか軽やかなステップに。手を広げ満面の笑みを浮かべ、くるくるくるくる回りだす。チェックのシャツをひるがえし、思わず歌を口ずさんだなら、気分はすでにヘップバーン。

踊り疲れ芝生に座りこむと、いつの間にか赤く染まった夕日が、生まれた姿のままの足を優しくくすぐる。そのまま芝生に寝ころがり、常識を抜け出した今日一日を振り返ってみよう。きっと日常への懐かしさに思わず叫んでしまうはずだ。「早く靴を履かせてくれ」と。


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