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「世界選手権騒動記録 5」


記録5 (3月28日(火)) 公開練習、アイスダンスコンパルソリー、男子ショート

二つ目のホテルの部屋からは海が見えるが、いかんせん今日は天気が悪い。

今日も朝から男子の公開練習が練習用リンクであるが、疲れているので第4グループを目標にゆっくり行くことにした。シェリルは第2グループのフェレイラ君に間に合うようにタクシーで出かけていく。

ホテルはバスの停留所から遠いので、会場までは歩いていくかタクシーしかない。当然歩いていくことにする。いい加減街を歩かないと、ニースにいる気がしなくてストレスが溜まりそう、いやもう溜まっている。
地図の方向通りに行くとガイドブックに「アンティーク通り」と書いてある所に入った。時間が早いのかそれほど開いている店はなく、当然客もいない。ガイドブックに書かれている割には地味な印象で、本当に買いに行く人いるのかな?好きな人にはおもしろい通りなのだろうが、私はこの分野は弱いのでただ静かな雰囲気だけを楽しんで通り過ぎる。唯一目にとまったのは中国という雰囲気の金魚の屏風。

バスが通る少しにぎやかな通りに軽い料理も食べられそうな魚屋さんを発見。皿の真ん中にレモンをたっぷり置いて放射線状に生ガキが置いてある。さすが海辺の街ニース。ああっ、おいしそう〜♪試合が終わったら打ち上げでここに食べに行こうか。生ガキや刺し身は大好きなのだ。
しかしいくら「R」の文字がつく3月とはいえ、睡眠不足で海外生活を送っているのでいつもより体が弱っているはず。ここで食べればあたるのは確実、やめておいた方が無難かもしれない。心の中で泣きながらスーパーへ行って極貧観戦の必需品、食料をゲット。ついでにスーパーの中を観察という名の一回り。
ワインがあるのにミネラルウォーターがない。この辺が「安物のワインよりミネラルウォーターの方が値段が高い」らしいフランスなのかも。

小雨が強くなり本降りに近くなってきているのだが、街を歩いてスーパーで食料をゲット、ストレスを解消した今の私は無敵モード。傘を持ってなくたってどうって事ない。
I'm singin' in the rain〜♪

オフィシャルホテルってこんな所?3
昨日ペアショートが終わった後にホテルに行くと、既に翌日の男子ショートのスターティングオーダーが張り出されていた。この時に公開練習のスケジュールのチェックができたので、今日はゆっくりお散歩しながら来られたわけである。
ただ昨日の時点でもらうことはできなかったので、練習用リンクへ行く前にホテルのデスクへ。エルビスは4番目。悪くない順番じゃないですか。

練習用リンクへの道路を渡る時に道路をはさんで向かい側にカナダのジャンパーが見える。よく見るとフェレイラ君とコーチが帰るところ。げっ。
朝「友達にも頼まれてるし、試合前に絶対ベンに会って直接メッセージ渡さなきゃ!(リンクがある)建物の前でばったり会って渡したいわ―♪」とはしゃぐシェリルに、「練習が終わってから先に会場を出てどこかに隠れて出てくるのを待ってないと無理」とあっさり言い切った私。シェリルは何をやってるんだ。私がばったり会ってどうする。


中に入るとちょうど第3グループの終わりかけで昨日とはうってかわってギャラリーが多い。シェリルに首尾を訊くと「帰る時に目の前を通り過ぎたけど恥ずかしくて渡せなかった」とのこと。あーあ、やっぱりね。
しかしあまり人の事は言えないのだ。応援大作戦のメッセージ達がまだ手元にあるし、エルビスのお母さんにプレゼントしたい(もらっていただきたい)写真も昨日の公開練習で渡すタイミングを逃している。
エルビスのお母さんを探してみるが、似た人はいてもご本人ではない。

第4グループ、リンクサイドで本田君とステファン君が何か話をしている。本田君は本当に顔が広いんだなあ。郭君は少し離れた所に一人。
そしてその郭君。一回ジャンプを跳んではコーチの所へ戻るということの繰り返し。あっさりクワドをきめてはコーチの所へ戻る。跳べているのだからもうちょっと好き勝手にぐるぐる回ってくれた方が見ている方としてはおもしろいのだが、こういう練習パターンなんだろうか。そういえば彼の練習を見るのは初めてだった。

第4グループが終わった後に製氷。お昼前ということもあり一段とギャラリーが増えたが、あっさりエルビスのお母さんを見つけた。カナダのジャンパーを着てくつろぎモード、ラッキー!(昨日はビデオを撮ってらしたので近づけなかった)一緒にいる鍼灸士(美人!)の方がお昼ごはんを買ってきた所だったので、封筒を渡すだけで立ち去るつもりだったのだがその場で封を開けてくださった。
「Oh, this picture is cute! Thank you, thank you!」
お母さんいい人〜〜(ToT)


最終グループのスケーターがリンクへの入り口でスタンバイしていると、選手用の出入り口の真上で待ち構える子供やファンの数が一段と増える。練習前はやめろって!エルビスが少し振り返って目をくるっとさせて写真におさまっている。だからそこでサービスせんでいい(まあだめな時はしないらしいから、できる状態なのね)
ウォームアップを始めたばかりの時はUschiさんと何か話してけらけら笑っているのだが、いつの間にか練習する顔になっている。いつもながらこの切り替わりの早さはお見事。
曲の通しをやった後に無理やりながら初めてクワドがきまった。スピンをしてギャラリーに笑顔であいさつ、練習終了。
そういえばエルビスが公開練習の最後にギャラリーにあいさつする所を初めて見た。「ベンにあれをやってほしいのよ。印象がよくなるでしょ?」とはシェリルの弁。

いつの間にかフェレイラ君のコーチとご両親がリンクサイドにいる。フェレイラ君のコーチはエルビスが別室へ着替えに行っている間はUschiさんとおしゃべりし、エルビスが戻ってくると三人でおしゃべりとえらく仲がいい。コーチ達としゃべっていてサインを期待しているファンに気づかないエルビスにフェレイラ君のお母さんが合図してあげたりしている。フェレイラ君のご両親、PTA状態(笑)?
練習が終わるまでエルビスに直接渡そうかどうしようかぎりぎりまで迷ったが、あまりのファンの多さにショートの時にリンクに投げることにする。これは無理。


アイスダンスのコンパルソリーを見に会場へ入ると「ジーナ」のアナウンスが聞こえる。まさか中国ペア!?しかも流れている音楽は第2課題のアルゼンチン・タンゴ。
各エリアの入り口にいる係員のお姉さんはなかなか仕事熱心。チケットを見せると必ず一人一人丁寧に席まで案内してくれる代わりにチケットがないと絶対入れてくれない。選手の演技中も入り口で待つようにガードしているおかげで中国ペアの演技を見そこねてしまった。仕方がない。演技中席をちょろちょろしているのは選手に失礼だし、第2課題が始まる時間をチェックしていなかった私が悪いのさ(泣)。

アイスダンスのコンパルソリーはまさに「規定」。全く同じテンポで全く同じステップで全く同じコースを滑る。全員が全く同じ演技をするのだから見る人が見ればうまい人と下手な人の差が明らかなのだろうが、いざ見てみると全くわからない。最初と最後の一連のポーズは自由で、上位の選手はさまになっているのがわかるくらい。
しかしそれでは去年から全く成長していないようで悔しいので、資料代わりに見た人の写真を片っぱしから撮ることにする。氷上のファッションショーとして楽しむのも一つの手かもしれない。(こらこら)


Winkler and Rose(GER)
カクッ、カクッという首の振りのおかげで唯一カメラ目線の写真が撮れた組。ありがとう!(何か違う)

 


Chait and Sakhnovski(ISR)
ゴージャス!


Siverstein and Pekarek(USA)
タンゴで妖艶な衣装が多い中、16才と18才の二人はこのスタイル。

 
都築 and Farkhoutdinov(JPN)
全身像の写真もあるが、こっちの都築さんがよりお美しいので。リナートさんごめんなさい…


Lang and Tchernyshev(USA)
去年のフリーの衣装、ナオミの
腰の部分に花はあっただろうか?

   

シェリルはどうしても試合の前にフェレイラ君にメッセージを渡したいらしい。公開練習で渡しそこねた要領の悪い者同士だが、あっさり方針を変えた私には彼女の往生際の悪さがカチンと来た。同族嫌悪と言っていい。コンパルソリーが終わって試合直前の今、本人に渡すことのできる方法といえば嫌でも想像がつく。そんなことの片棒を担ぐのはまっぴらごめんだ、私がいる限り絶対許さん!試合前にまたもやブチ切れる私。
会場のゲート入り口でもめている最中に、フェレイラ君のお母さんを発見。ダッシュで追いついてメッセージを受け取っていただいた。しかし「Thank you」と言いながら顔が完全に警戒モードだったお母さん。すみません試合直前に。しかし助かった。

さあ、男子ショート前にごはんを食べよう…ということになるが、ここでまたもや意見が食い違う。私外へ食べに行かなくてもすむようにスーパーでごはん買ったのに…。まあここはシェリルの言い分を通してあげることにして外へ出る。
しかし案の定会場近辺の店は満員、注文にも時間がかかる。おかげでごはんを食べてから会場に入った時には第1滑走の選手の演技が始まっていて、結局彼の演技は見ることができなかった。妥協するんじゃなかった。


田村君は動きが硬くなっていた?クワドでミス、コンビネーションがダブルになってしまう。あの華やかなルッツ(ですよね?)好きなのに(泣)。いやそういう問題ではなかった。
「クワドの魔力」という言葉がふと頭に浮かぶ。


フェレイラ君のショートは先シーズンの田村君のフリーと同じ曲、「The Messiah Will Come Again」。スローなブルースを黒い革のパンツ、黒の半袖のTシャツで滑る所はいかにも北米の選手。またスタイルがいいのでよく似合う。順調に滑っていたが、途中のジャンプで一回手をついてしまった。
いくらファンに腹を立ててもあんたまで嫌いになったりはしないわよ。

Michael Tyllesen(デンマーク)
田村君が四位に入った97年スケートカナダのテレビ放映で初めて見た選手。昨日の予選ではある画家を主人公にした映画を見ているようなストーリー性のあるプログラムだった。
しかしこの日は衣装が豹柄でいかにもジャングルという感じの音楽。顔からみごとにゴリラになりきって胸をバンバンたたく所では会場、大ウケ。そう。ノーミスだったし、ハマッていていい演技だったのだ。
しかしティルセンが…あのクールなティルセンが…二枚目の人が三枚目路線に挑戦してハマッていなかったらまだ救いがあるが、ハマッているだけにショックが大きい。拍手をしながらも顔がずっと引きつっていた私。


ヘルシンキでは大会を通じて席が同じだったので周りの人とすっかり顔なじみになったが、今回は競技ごとに席が違う。一期一会でつまらない…と思っていたら、逆にいろんな人と話ができるというメリットがあった。
「ねえ、取材で来てるの?それか趣味?」と製氷中に結構かっこいい兄ちゃんが後ろから声をかけてくる。取材で来てたらジャッジと反対側のショートサイドよりになんか座ってないって。私が律義に一人最低一枚ずつ写真を撮っているからおちょくりたくなったんだろうか。

この兄ちゃん、元スケーターでトリプルサルコーが一番苦手だったというアメリカ人。ミシェルと同じUCLAの学生で、長野オリンピックではダフ屋から定価の5倍近くの値段でチケットを買って女子フリーを見に行ったそう。できすぎた話に(私はこの手の話でよくだまされる)「全米出たことあるの?」と訊こうかと思ったが、会話の腰を折るのも野暮なのでやめておく。
そして兄ちゃんと話をしていると「あなたカナダの国旗使っていたでしょう。私カナディアンなの!」と嬉しそうに話しかけてくるおばあちゃんあり。さらに一列前のお姉さんが昨日男子予選の時にスターティングオーダーの話をした人と判明、話をするのに前を向いたり後ろを向いたりと、忙しいが楽しい製氷時間になった。

兄ちゃん「もしワールドがブリスベンであったら行ってた?」私もちろん」「Really!?
えらく驚いた様子。
ブリスベンまで行くの!?あんなに遠いのに!?
遠い?…あ、そうか。
日本からだとブリスベンの方が近いの。南へまっすぐ行くから飛行機で7〜8時間しかかからないし。だからワールドがニースになったのが残念でねえ〜(恨)
おばあちゃんもえ、ブリスベンでも行ってたの!?と驚いた顔。私が言ったことを兄ちゃんに説明されて納得した様子。
もしワールドがブリスベンであったとしたら、アメリカでツアーを組んでも誰も行かないよ。遠すぎるから。
地球をほぼ半周、プラス北半球から南半球への移動。なるほどね。


第3グループの第1滑走はブルガリアのイヴァン・ディネフ。初めて見たオリンピックでは可愛い印象だったが、二年でえらく精悍な顔になってびっくり。
この写真ではわかりにくいが、右腕が蛇。体の側面も蛇の胴体が描かれている。演技も蛇そのものだがにょろにょろというよりは絞めつけられたら殺されそうな大蛇という感じ。ノーミスではなかったと思う。
ティルセンといい、男子シングルはこういうプログラムが見られるから楽しい。



ゲイブルはコンビネーションのセカンドジャンプがダブルになってしまったが、それ以外は完璧。兄ちゃんによるとウォームアップ中は4サルコー−3トゥもきめていたらしい。クワドをきめた時の後ろの兄ちゃんを含むアメリカ人の盛り上がりはやっぱりすごい。もう少し点数高くてもいいんじゃないかと思ったが…クワドを跳んだ最初の人だったから。運が悪かったね(^^;)。

アンソニー・リウのショートはジャッジ側だろうが反対側だろうがかっこいい!ステップの途中でワルツを踊っているような部分があり、リンクを隔てて私の向かい側にいるやかましいフランス人の軍団がその部分で「ズンチャッチャ、ズンチャッチャ♪」とリズムに合わせて上体を揺らすほどアピールするものがあった。
クワドもしっかりきめてノーミスなのだが、コンビネーションの一つ目のジャンプがアクセルではなくてルッツの彼。点数どうなるかな…と思っていたらこの時点で1位のいい点数。「よっしゃあ!」でなく「Yes!!」と言ったのは周りの英語を話す人間に聞かせるため。
この人はそのオーストラリアから来ているのだ。


その次のドミトレンコの演技だけは会場が別世界にあったように思う。曲の「Adagio」は昨年亡くなった長年の振付士が一番好きだった曲で、このプログラムも彼女に捧げるものだそう(カナダ版スケートカナダのテレビ解説より)だが、あれはきっと曲のせいだけではない。
片足だけのステップでもスピードが落ちない壮絶な演技。会場もこの時ばかりはしんとしていた。ジャンプを3つミスした選手の点数にブーイングを飛ばす観客なのだから、無関心の静けさではないだろう。
しかしパーフェクトではない。本人も悔しそう。



昨日、今日と私の席はジャッジと反対側のショートサイドより。ついでに言うならリンクへの出入り口の真上なのでウォームアップ中にコーチの指示を聞いている選手の顔がよく見える。

第4グループのウォームアップでコーチの指示を聞いている郭君の顔を見て愕然。この時点でそれまで気楽に観戦を楽しんでいた気分が吹っ飛んで、一気に緊張モードに入った。
だってこの時の郭君、今までに見たことがないえらく心細そうな顔をしていたのだ。クワドをきめようが会心の演技をしようが、滑っていてもキス&クライにいてもとことん無表情な彼が。
なんつー顔してるのよっ!
せっかく衣装に気合いを入れてキンキラキンの派手なベストを着ているのに、そんな情けない顔をするんじゃない!いかにも自信がなさそうに見えるじゃないか〜(泣)(あんた身内かい)
いつものぼうっとした動きがやけに自信がなさそうに小さく見えて仕方がなくて、「シャキっとせい!」と背中をどつきたいくらいだった(だからあんた身内かい!)。あまりに緊張していたので出来をよく覚えていない。クワドをミスしたと思うのだが…。予選の貯金が効いて今の時点ではアンソニー・リウに抜かれただけ。

「Takeshi Onda, Japon!」のアナウンスの後にそれまでただ静かに観戦していたおじさんが「Go, Honda―!」、続いてメディアブースの真上から「taKE-shi!」の声がかかる。「TA-KE-SHI, ティキティキティ!」のかけ声はきっと去年ユースで話ができたPatriciaのグループ
もう本田君に対する外国人の応援行為をレポートするのは、幼稚園児が自分で服を着替えられるようになったことに異様に盛り上がる親戚のようなものなのかもしれない。スケートを注意して見ている人なら、彼が力を持っていて注目すべき選手であることは国籍を問わず誰でもわかることなのだ。
(それでもやっぱり嬉しいのと見に来ていない本田君ファンの方に知ってほしいから書くのでその点よろしく)
それだけに去年以上にミスが辛い……。


最終グループはエルビスと成江君がいるので、ウォームアップ中に選手の名前がアナウンスされるたびに国旗を取り替えて振る。一人複数国応援人も楽ではないのだ。まあ嫌ならやらなければいいのだが、やらないのもまた嫌なのだから始末が悪い。
とか思っていたら前の列でフランスの三色旗を振っていたお姉さんが妙な使い方をしている。フランスの国旗を縦にしてから半分に、それも赤い部分が青い部分の下に来るように位置をずらして折っている。この説明でわかるだろうか。そう、ロシアの国旗と同じ配色になる。対象は違うが同志!

ウォームアップ、言わずと知れたトップスケーター達が滑っている。その中に本当に成江君がいる。衣装に少し手を加えて。この中で一番背が低いのだが、かすんでしまってはいない。世界選手権初出場予選3位、堂々と立ち混じっている…と思ったらよく見ると動きがさえない。一瞬入りをためらったすきに別のスケーターに前を横切られ、ジャンプをし損ねていたりする。
ねえ、硬くなってる? その後であっさりクワドをきめたし、大丈夫よね?ね?

悪いが成江君ばかりも見ていられない。心配なのはむしろエルビスなのだ。
元々ヤグディン、プルシェンコ、中国勢に比べてショートでクワドをきめる確率がかなり低い上に(通算2回しかきめていない)昨日はミスしているし、今日の練習でもやっときめたという感じなのだ。けっして調子がいいわけではない。

ウォームアップが終わる直前に初めてきれいなクワドがきまった。
いけるかもしれない。


第1滑走のアプト、そういえばこの人も世界選手権初出場で予選3位だった。クワドにはトライせずにルッツをきっちりきめてノーミスの演技。そうかこう来たか。
話がずれるが、男子でこういう衣装を着てさまになるのはこの人くらいだろうなあ。

成江君、クワドをあっさりきめたし、大丈夫よね?その通りクワドはあっさりきめた。しかし「セカンドジャンプは?」と訊きたくなるコンビネーション。動きがさえないのは気のせいではなかったよう。
しかしこの時点ではアプトに続いて2位、予選の点数があって助かった。フリーで最終グループに残れる。

と思った直後に成江君のすぐ下の順位がアンソニー・リウということに気づく。アンソニー・リウはここまで順位が上がったのか。なるほどクワドの威力は魅力的。しかしノーミスのアンソニー・リウがミスのあった成江君より下だなんて。あと一歩で最終グループだったのに〜(泣)まあアンソニー・リウ予選が悪かったから…とごちゃごちゃ思ったりしているうちに、さらにその下の順位が郭君ということに気がつく。
この順位の並び、私にどうコメントしろというのだ……。

プルシェンコはクワドも含めて全てきっちりきめてノーミスの演技。予選を見て「調子悪いのかな…」と思っていたのだが、なんだ気にするんじゃなかった(笑)。また余談だが、最初の部分が慌てふためいているようで可愛くて好きだったりする。

プルはきめた。さて、エルビスは?


ファンにとっても予選とショートは緊張の度合いが違う。また緊張感を引っ張るオープニング、ショーの始まり始まりとでも言いたげな―――
アクセルのコンビネーションがきれいにきまる。そこから曲調も見ている私も緊張感が倍増、私の席から少し左側でクワド!…が転倒。立ち上がりかけて壁にぶつかってしまう、エルビスには珍しい転倒後のタイムロス。
ラストのステップはこれまた私の目の前から始まる。ショートサイドを回ってステップに入る直前、一瞬苦笑をしながら首を横に二、三度振る。


私にとってエルビスのショートはこの瞬間で終わったと言っていい。一瞬意識が飛んで、気がついた時にはエルビスはリンクの半分を過ぎていた。いつもと違いどこか気力が尽きているようで、それでも他の人にはない何かに引っ張られていくようなステップ。そのままリンクの向こうに消えていってしまう…そんな事をなぜ考えてしまうのだろう。「融けて氷に同化してしまうんじゃないか」と感じた四大陸よりはまだいいか。

終わってから拍手はするのだが、体に力が入らない。ゆっくり階段を降りて、袋に詰めておいた応援大作戦のメッセージをリンクに投げる。平べったいのでブーメランのようにして投げるとあっさり届いた。読まなくていいからもらうだけもらってね。


ねえ、途中で集中力切れた?

そう見えてしまったのだ。まるで演技が終わった後のような…エルビスは演技中は感情があまり顔に出ず(無表情ではないのだが)、終わってからがらりと表情が変わることが多い。記者会見の「トランス状態で滑るんです」というコメントに「そういうことだったのか」と目から鱗が落ちたものだった。
その状態でまとっている気が消えて一瞬素に戻ったような…そう感じてしまったことがクワドのミスより衝撃だった。いつかその日が来るんじゃないかと怖れていただけに。

しかしこの時点ではプルシェンコに抜かれただけ。予選が点数に入っていて一番助かったのはこの人かもしれない。


GPシリーズで成功したことのなかったクワドをきれいにきめたワイス。アクセルのコンビネーションもあっさりきめ、後ろの兄ちゃんも「Yes!」。今まで評価が低くて悪いことしたなあ…と思っていたら最後のダブルアクセルでミス。
ワイス〜〜〜〜〜(怒)!(あんたが怒ってどうする)

最終滑走のヤグディン。ヒヤっとしたクワド、さらにヒヤっとしたアクセルのコンビネーション。しかしここでヤグディンも会場の観客にもスイッチが入ったよう。ジャッジの前で「ジャカジャン♪」とギターを弾く所で「かわいい――!」と私も遅れてスイッチがオン。
テレビで放映された人の演技をだらだら書くのも何だが、ここから先のアップテンポを飛ばす飛ばす、弾ける弾ける、本当に楽しそう。しかし顔が見えない!いや演技がこれだけノッているのだから楽しそうな顔をしているのは間違いないのだが、でもやっぱり顔が見たい!こっち向いて〜〜〜!!
全体的にピリッとしなかった男子ショートだったが、最後の最後でやっといい演技が見られた。ここでスタンディングオベーションをしなくてどうする。拍手をするのに夢中で結局ヤグディンの顔は目に入っていなかった。帰ったらビデオ見せてもらわないと(笑)。


男子ショートが終わって頭がごちゃごちゃ、パニック状態になっている。シェリルと顔を合わせても話ができそうにない。彼女はショートサイドの一番前に座れて機嫌がよく、それに気づいてないのが救い。

シェリル「フランスの男子のアイスダンサーがホテルで誰かに斬られたんだって
え!?
ペイザラが!?どっ…どどどどどどこ斬られたの!?(←本当にこれくらい取り乱した)
ううん、彼じゃない。名前はステファン・ベルナディス。腕斬られたって。大丈夫らしいけど。
彼はアイスダンスじゃなくてペア。昨日のショートで4位だった
そうなの。私ペアはよく知らないから。
あなたねえ、昨日のベレズナヤ組のことといい……。いやいや抑えねば、彼女は世界選手権初観戦で去年の私と同じ状態なのだから。でもいくら去年の私でもベレズナヤ組もアビトボル組も知っていたぞ。

じゃなくてちょっと、なに!?ベルナディスさんが!?
あまりの内容に簡単に信じる気になれない。そうそうデマかもしれない。シェリルは前の席にいたカナダ人の写真家から聞いたというが、スケートアメリカの時にマスコミの間でクリロワ組のプロ転向説が流れたこともあったのだから。
ホテルは特に警察がいる様子ではない。玄関前でBBスタッフの方々とお会いし、話を振ってみるが初耳の様子。そりゃそうだ、たとえ事実だとしても事件が起こったのは今日。詳しいことは明日新聞を見たらわかる。

で、シェリルに「悪いけどしばらく日本語で話をさせて!」と言い置いてパニック状態を解消しようとしたのはいいが、逆にネタにもできないつぶれ方をしてしまう。聞いてくれたヤグのファンの方には本当に悪いことをしました。改めてこの場でお詫びとお礼を言います。
クワドがきまらなくて苦労しているのはエルビスだけではないのに。


一瞬の表情にこだわってどうこう受け取ってしまうあたり、私は自分という存在を何だと思っているのだろう。このタチの悪さはストーカーといい勝負だ。
他のエルヴィストの方ならこんな事はないだろうに。誰か一緒にいてくれたら。



4位かあ。
フリーで第一滑走引いたりして。

(6へ続く)

追記:エルビスのお母さんにもらっていただいた写真は四大陸の時に撮った応援幕地帯の写真+おまけです。あの写真がなければお母さんに近づくなんて思いつかなかったでしょう。いやー何でも写真に撮っておくものです。応援幕の作者の方々に感謝。

その2:成江君のショートの衣装を見て「よかったね、バージョンアップしてもらったのね〜(ToT)」と本気で喜んだのですが、帰ってきて評判を見て初めて気がつきました。確かにあのアップリケ、変……。

その3:応援大作戦に協力してくれた方へ。「メッセージくれ!」と催促しておきながらこういう心理でリンクに投げてしまって本当に申し訳ありません。相当めげていたようで。ファンがめげてどうする(^^;)

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