上手く付き合うストレス講座〔2〕:
ストレス対処ガイダンスストレスは私達の生活から完全に切り離せないものなので、ストレスを増やさない環境づくりを心掛ける他、いかにストレスと付き合っていくのかという対処法を身に付ける必要があります。子供がストレスに見舞われている場合、ストレスをどう乗り越えていくのかという問題解決スキルを教えるよい機会でもあります。異文化・異言語の環境で親も戸惑ってしまうことが多々あると思いますが、問題に対する解答がわからない分、反対にそれは、適切なガイダンスをしてやることによって、子供の問題解決スキルが身に付きやすいというポジティブな面もあるのです。子供のストレス対処・問題解決のガイダンスで心掛けるとよい点を挙げておきます。
10/02
- 子供のストレスの症状に敏感になること
特に子供がストレスという言葉自体知らないような時期は、周りの大人が子供の様子(=ストレスの症状)から何か問題にぶちあたっているというのを察知し、子供が問題を乗り越えられるように導いてやる必要があります。
ストレスの症状に気付いたら、親自身も、子供に活動を課し過ぎたり、期待をし過ぎていないか見直してみましょう。
- 子供の話を聞くこと
子供がどんな経験をしているのか理解するように努めましょう。理解するためには子供に話させるように仕向けることが必要です。『聞き上手になろう』を参考によい聞き手に徹しましょう。
子供が何に対してどんな気持ちなのか、聞いてみましょう。子供が状況説明だけに徹している場合は、自分の気持ちを言葉に出して伝えられるように仕向ける必要があります。感情表現ができるかできないかで、問題に直面した場合の周りからのヘルプの得やすさ、問題解決のしやすさにかなり差が出て来ます。(大人になってからも同じです。)『聞き上手になろう』の“気持ちの代弁”“気持ちを含めた意味の言い換え”や『不満を伝えよう』の不満の伝え方を実行して、子供の感情表現を豊かにするためのモデルになってあげましょう。
- 子供に状況を理解させようとすること
特に子供が幼い場合は、言葉が十分に発達していない分、親が説明を省いてしまったり、状況の飲み込みが遅かったりします。引越はもちろん、デイケアやプリスクール、ベビーシッターを始めるような場合は、親に置いていかれる不安感、未知の環境や初めての人達に囲まれる恐怖感などを和らげるために、子供にわかるように簡単な言葉で何が起こっているのか説明をしましょう。
子供が自分の感情がよく理解できていないこともあります。ネガティブな感情表現(怒り、恐れ、悲しみ)の中でも、《怒り》は欲求不満など比較的わかりやすい場合から、恐怖感や心の痛みが上手く表現できず、自分の弱味を見せられないという防衛本能から、攻撃的なふるまいで自分の弱さや心の痛みをカムフラージュしている場合があるので、特に注意しましょう。たとえば、「最近、友達の態度が気に食わない。」と怒りながら友達の気に食わない態度を羅列していても、実際は、今まで仲が良かったのに最近は遊び仲間に入れてもらえず寂しい・悲しいということもあります。〔自分が嫌な気持ちになる友達とは付き合わない〕〔友達の気に食わない態度を本人に伝える〕という怒りの対処法と〔自分の気持ちを伝え、仲間に入れてくれない理由を聞いて仲直りする〕という寂しさ・悲しみの対処法では、問題解決の効果や満足感に差が出て来ます。子供が自分の気持ちを取り違えていると思われる場合は、激しい感情がおさまって落ち着いて話せるようになるまで待ち、本当の気持ちの断片が出て来たところで「もしお母さんがあなたと同じように○○ちゃんにこうされたら、悲しく感じるなぁ。」といった形で子供の言っていることを否定せずに別の可能性を示唆するとよいと思います。
それから、子供が非現実的・非論理的な信念にとらわれていることがあります。「友達がやっているように私も髪の毛を染めなくちゃ。」「テストで満点をとるためにワークブックを今日中に終わらせなくちゃ。」と子供が言っているような場合、『○○しなくちゃ、◇◇になる。◇◇でないことは重要、何故なら△△だから。』という省略された後の部分が盲信であることがほとんどです。「私も髪の毛を染めなくちゃ、仲間外れにされる。友達が仲間外れにする人間には社会的に価値がない。」とか「ワークブックを今日中に終わらせなくちゃ、満点がとれなくなる。満点が取れないと先生や親からの評価が下がり、成功した人生を送れない。」子供の不健康な盲信に気付いたら、もっと現実的でポジティブにものごとが見えるように指導しましょう。
- 解決法を見つけるのに付き合ってあげること
子供の経験や気持ちを理解した上で、問題の解決法を子供が見つけられるように話を持っていきましょう。問題も気持ちも子供のものであることを忘れずに。親自身の都合で解決方法を押しつけても、気持ちがすっきりしたり、事態に納得するのは親であって、子供本人ではありません。子供がどうしたらよいのかわからない場合は、解決法により多くの選択肢を与えるという気持ちで提案したり、「お母さんはそういう場合はこうしていたよ。」と自分の問題解決スキルを紹介しましょう。
《怒り》に関しては前述のとおり、感情そのものは何かがおかしいことを知らせる役目を果たしてくれますが、自分の感情がきちんと区別できていなかったり、効果的な問題解決スキルが身についていない場合の解決策に用いられやすいものです。性格的な問題であることもありますが、親を見て学んでいることも多いので、まず、親自身が普段から怒鳴ることが多くないか、見直しましょう。そして、怒りから生じる暴力的な対処は効果的な問題解決につながらず、むしろ、自分の怒りが周りの怒りを起こし、問題解決を長引かせてしまったり、他の問題を起こしてしまったりしがちだということをわからせましょう。
- 問題解決法実行の予行演習をすること
友達に自分の不満を伝えなければならない、クラスでプレゼンテーションをしなければならない、まだ苦手な英語で電話を掛けなければならない…などという場合、子供と一緒に場面を想定しながら何をどう言うか練習させてみるとよいと思います。結果(周りの反応)は必ずしも思い通りにならないかもしれませんが、練習がネガティブな方向に転じることはないはずです。
- 身体から伝えるリラクセーション
幼い子供の場合は、抽象的な概念が育っていないので、言葉だけでは理解が難しく、ストレスの原因も親の存在と関係が密接している人間の生活の基本(衣食住・安全・愛情)関連であることがほとんどなので、むしろ、手をつないだり抱きしめたりするなど、親の存在を肌で感じさせてあげた方が落ち着いたりするものです。ストレスに対応するスキルを身につけさせるために、気持ちの表現を促すと同時に、スキンシップから安心感を与えてあげましょう。
緊張感を感じている場合は、年齢に関係なく身体が硬く縮こまっているものです。緊張感を身体から緩めるテクニックというのはカウンセリングなどにも用いられたりするのですが、身体全体でなくても、緊張している子供のげんこつ状の手をこじあけてみたり、眉間のしわを伸ばそうとしてみたりするだけでも、ふっと緊張感が解けて笑いだしたりするものです。浅い呼吸やため息、あくび、呼吸困難が、憂鬱・退屈・不安感などに関係があると考えられているように、身体が硬く縮こまっている状態では、安定した深い呼吸もできません。呼吸の仕方によっては緊張感がさらに大きくなることもありますから、深呼吸(腹式呼吸)を促してみましょう。ゆっくり息を吸う時に筋肉を緊張させ、ゆっくり息を吐き出す度に首・肩・腕・手・腹・膝・足と操り人形の糸が1本ずつ切れていくつもりで筋肉を緩めてみるなど、深呼吸を数回繰り返させましょう。
- 落ち着きを失わないこと
問題に直面しているのはあくまでも子供です。子供が悩みや不満を話す際にいちばん不安になるのは、悩みや不満を持った“自分”が周りに受け入れられないのではないかということです。子供の話に対して、怒鳴ったり、慌てたり、悲しんだりという反応は、目の前にいる子供全体の存在を無視して、打ち明けられた悩みや不満に対してだけ反応しているということを心にとめておきましょう。親の感情的な反応から、子供は「悩みや不満を持つ自分は親に受け入れてもられない。」「自分の悩みや不満が反対に親を悩ませてしまった。悩みや不満を持つことはいけないことだ。」と解釈し、ますます問題を自分の中に閉じ込めるようになってしまいます。私達は誰でも悩んだり不満を持っている時は自分に自信がないもので、自分の存在価値を確かめるために自分を受け入れてくれる人を求めます。「悩みや不満があってもいいんだよ。あなたがいてくれることが私には幸せなんだよ。」と子供の存在を受け入れていることをわからせるために、子供の前で落ち着きを失わないようにしましょう。
- ティーンエイジャーの場合
心身の成長の激しい思春期に入ると、子供は自分に対する批判に非常に敏感になり、子供のためを思ったアドバイスでも批判ととり、怒りや守りを引き起こしてしまうこともあります。むしろ、アドバイスをくれる人よりも話を聞いてくれる人をより必要としていることが多いと思います。もちろん、価値観など重要な面では親のアドバイスが必要ですが、毎回どうしても口論になってしまう場合は、聞き手に徹するように心掛け、子供とのコミュニケーションが途絶えてしまわないように気をつけましょう。
思春期は自分に対する自信が持てず情緒不安定なので、効果的なストレス対処・問題解決スキルが身に付いていれば、自信がつき、自分に対するイメージもよくなります。親も子供のポジティブな面に目を向け、褒めたり、感謝したりすることを心掛けましょう。身体を動かすこと、怒りをコントロールすること、noと言えるようになること、自分の意見を主張できるようにすることなど、ポジティブなストレス対策として親から促せると思います。
- 専門家にアドバイスを求めること
子供のストレス対処に思うような効果がない場合、学校での問題や非行・犯罪関連なども含め、問題が大き過ぎて手に負えない場合は、学校の先生、サイコロジスト、カウンセラー、ソーシャルワーカー等の専門家に相談してみましょう。家庭での対処法のアドバイスの他、子供が難しい時期を乗り越えられるように学校でカウンセリングの時間を設けてくれるかもしれません。