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エスト・ガザの状況

353 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 14:48

「おい、どうやって脱け出したんだ?あのモータードライブどもが、子供の散歩を許可する筈ねぇよな?
闇に紛れた男の顔から、ぎょろりとした目だけが鈍い光を放っている。
全体的に細く、短いシルエットが、彼自身の矮小ささえも暴きだしているようだ。
事実、その声音は粗野を装いながらも、何処と無く怯えたように上ずっている。
「それとも新入りか?だったら親は」
「いないよ」
ハインと名乗った少年は、ただそれだけ言うと、黒い前髪に隠れるように俯いた。
「何処から来たのかもわからないし・・・」
男は、ハインの顔を覗き込んだ。少年が上目遣いに男を見返すと、当惑したように苦笑する、男のやつれた口許がある。
「・・・まあ、いいか・・・」
最早太陽は、へばり付くような青い闇に、完全にその緋の輝きを塗り替えられてしまった。
人外の者どもが大挙して蠢く、貪欲な夜の片手が、人間をまさぐっている。
「難民には変わりないだろう。俺と一緒に来るんだ」

厳しい顔付きに、下卑た笑みを浮かべる男達。エスト・ガザの大階段に、彼等は立ちはだかる。
「見回り終わりました」
一目で彼等との上下関係が測り知れる、男の卑屈そうな声音は、対照的に鷹揚な番人達の表情を更に卑しく歪ませる。
「おう、ご苦労・・・で、そのちっこいのは何だ」
「流れ着いた難民かと。親も記憶も無いそうです」
「事故かなんかがあったんだろ。いいさ、入れてやれ」
「ありがとうございます」
「・・・勿論、司祭様に引き会わせるんだぞ、あの方も大いに喜ぶだろ」
「へへ・・・」
男はぺこぺこと頭を下げると、ハインの手を引いて階段を上り始めた。
しばし行ったところで、下から番人達の話し声が、笑い混じりに聞こえて来る。
「あの野郎、儲けもんだな」
「いやいや、一番儲けたのは勿論・・・」
ハインは、どこか胸の内に苦いものを感じながら、男の後に続いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白魔道士たちの不安

357 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 16:50

1機の「見えない飛空艇」は静かに空を飛んでいた。
カーバンクルの力を「バニシュ」に変換し、
飛空挺全体にかけつづけることで飛空挺の姿を消していた。

…それは早過ぎる初陣となった。
白魔道士たちに与えられたのは、騒音の少ない最新鋭の小型飛空艇と、
原石、魔法用のアクセサリ・エーテル・そしてその身体のみだった。
白魔道士は瞬発的な力を引き出すことには長けていたが…人形の名の通り…もろい。
否応なく、胸のうちに不安が広がった…
シロ「……」
シロエ「投降…しようか…」
シロ「クロマ村に?冗談言わないで。ジタンがダリに何をしたか知ってるでしょ。」
シロエ「…何もクロマ村じゃなくても…タゲレオとか…いっそリンドブルムは?」
ほんの一瞬そんな考えが頭をよぎるが、現実がその考えを振り払う。
シロ「私達を受け入れてくれるはずないじゃない。」
そういうと、シロは自分達の姿を呪った。
…ガーネットに似せた美しい顔に純白のローブとアクセサリ、そして王族並みの特権を与えられ、
母であるガーネットに感謝し、士気は高揚した。
…しかし今、苦境に立たされて、その姿の意味がようやく理解した。
ガーネット女王に似た姿をどの国も受け入れてくれるはずがない。
その姿そのものが…アレクサンドリアにつながれたくさびだった。
シロエ「……勝てっこないよぉっ!シロマだって…帰ってこなかったじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セーラの言葉

359 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 17:04

自我を持たせたために、中には心の弱いものもいる。ガーネットは
そんな白魔道士軍を先導する役として、剣を持ち敵陣に切り込む「セーラ」を造った。
セーラ「いい加減にしな。あんたももう少し自分の召還魔法を信じなよ。」
シロエ「……」
セーラは軽く剣を振った。
魔力の衝突を肉体的な瞬発的な力にかえたセーラの腕は…
鍛え抜かれた騎士の腕を軽く凌駕した。
そして痛みの概念がないために
手加減を知らぬセーラの剣は訓練中に二人の教官を殺めることになった。
それもまたガーネットの気に入るところになったが…。
セーラ「…母さんは死にに行けって言ったんじゃない。ジタンを倒せと言った。
    ジタンに代われるほどの指導者もいない、あいつさえ倒せばクロマ軍は終る…」
…可能性がないわけじゃない。セーラはその剣を強く握った。
セイブザクイーン…ブラネやガーネットにかつてつかえた女騎士と
同じ種類の剣だと聞いていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力無効フィールド

365 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 18:37

まったく理解できぬ状況に取り乱すルビィ。すっかり戦意も喪失した様子である。
バクー(この感情の起伏・・・・・。人外の者とも思えねぇ。
    やはりブランクの書き置きにあるとおり、契約の結びつきが弱ぇようだ。
    もう一押しだな・・・)
バクー「さあて、ルビィ!!自分の無力さが実感できたか!?
    自分の弱さを隠すために闇の力に頼っても何も変わりはしねえ!
    以前のお前の方がよっぽど強力で、侮れない奴だったぜ」
ルビィ「ち・・・ちきしょーっ!!」
自暴自棄になり、バクーに向かって斬鉄剣を投げつけるルビィ。
剣は難なく弾き返され、壁際に備えられた胸像に激突した。
粉々に壊れる胸像。・・・と、ルビィはそれに「中身」があることに気がついたのだった。
ルビィ「なんや、あれは・・・・・」
ルビィは立ち上がり、破壊された胸像に近づいた。
彼女はその中身を不思議そうに見ていたが、突然うしろを振り返り、
部屋には彼女達を囲むように他にあと二つ同じ形の胸像があるのことに気がつく。
バクー(ちっ・・まじぃな・・・。ドジこいちまったか・・・)
舌打ちするバクー。
ルビィの表情にはゆっくりと余裕が、そして邪悪な笑みが戻りつつあった。
ルビィ「ククク・・・。さすがはバクー・・・すっかり騙されたわ・・・。
    三闘神の原理を応用した魔力無効化システム・・・・。
    マリンからは未完成と聞かされていたが、
    胸像の中に隠れるほど小型化された完成品があるとは。
    三つのシステムの中心にいるお前をいくら攻撃しても効かないはずね・・・・」
ルビィはバクーに向き直り、斬鉄剣には怪しい光が戻る。
ルビィ「だけどっ!!
    このような小細工をするということはお前が私にかなわないということを
    お前自ら証明しているということ!
    万策尽きたお前は潔く死ねぃっ!!」
彼女は機械の上に斬鉄剣を振り下ろし、爆音とともに無効フィールドは消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バクーの高笑い

366 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 19:40

形勢は完全に逆転した。
ルビィは圧倒的な自信を持って一歩一歩バクーを追いつめていく。
その言葉通りもはやバクーになすすべはないのかと思われたその瞬間、
タンタラス首領の高笑いが部屋中に再び響きわたった!
バクー「ガハハハハハハ!
    だからお前は甘いってんだよ。俺様を倒そうなんて十年早いぜ!」
バクーが天井からぶら下がっている鎖を引っ張ると、
壁に開けられた幾つもの穴から鋼鉄製の網が発射され、ルビィをがんじがらめにする。
ルビィ「ぐ・・・・まだ無駄なあがきをっ!!
    これしき、簡単に引き裂いて脱出してくれる!!」
と、今度は天井から頑丈な檻が落下し、彼女を幾重にも閉じこめた。
バクー「グハハハハハ!残念だったな、ルビィ。
    精々頑張ってそこから出ることだ。
    それじゃあ、俺はこのあたりで行かせてもらうぜ」
そう言ってバクーはがんじがらめになったルビィを後目に素早く姿を消してしまう。
残されたルビィは巻き付いた鋼鉄の網をふりほどくにしばらくの時間を要し、
やっとのことで断ち切ると、斬鉄剣を肩にやり、誰もいなくなった部屋を眺めてため息をついた。
ルビィ「ジタンの元へ逃げたわね・・・・・。
    まあ・・・いいわ。ジタンも殺す予定でいたから手間が省けるだけよ。
    それにしても・・・・」
斬鉄剣の一閃と同時に、五つの檻に長方形の切り込みが入る。
切られた柵は順序よくドミノ倒しになり、いとも簡単に通路がつくられた。
ルビィ「死ぬかと思った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わらぬ悪夢

371 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 21:08

ガーネットはアレクサンドリア最後の切り札をジタン軍の戦闘に投じた。

夜が明けても…ダリの悪夢は終らなかった。
ようやく差し込んだ朝日を「謎の巨体」が遮った。
バハムート・アーク・オーディン・アトモス…タイタン・イフリート
召喚獣といわれるものが
実体化し「幻獣」としてそこに存在していた。

バハムートが業火を吹き、筋肉の塊とも言うべき尾が辺りをなぎ払う…
牙を向け襲いかかり…その牙で黒魔道士の胴を食いちぎり…残骸がいが辺りに飛び散った。
通常の召喚獣は1度の攻撃で去って行くが、
その幻獣たちは飽きることなく先の戦闘で疲弊した黒魔道士軍に攻撃を繰り返した。
アークが放つ火が
再びダリの地を覆い尽くす…
哀れ・ダリ。2度の戦火に会い、そこにはダリを思わせるものは影も残らなかった。

ミコト「ジタン…これは…!?」
ジタンはそれが誰によるものかすぐに気付いた…
ジタン「アレクサンドリアの白魔道士たちだ…。
    指揮官、バハムートたちを直接相手にするな、白魔道士本体を狙うんだ…!」
白魔道士も黒魔道士たちと基本的には同じだ…本体は人間並みの体力しかない。
ジェノム指揮官「はっ…!わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永続召喚

372 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 21:47

>371
白魔道士は黒魔道士と同じように人間並みの体力しかない。
その欠陥はアレクサンドリア側も十分承知だった。
5人で隊を組み…攻撃の召喚獣と相性のいい3人が交互に召喚の詠唱を唱え、そこに幻獣を存在させ続け、
残りの2人はディフェンスに徹した。
黒魔道士も気配を頼りに黒魔法を唱えるも…リフレクの壁が無情にはじき返す…
ガーネットの狙いはそこにあった。
黒魔道士を封じられたジタン軍はジェノム兵の剣と飛空艇の通常兵器で戦うことになった。

ダリの村に噴煙が舞う…
その噴煙を切り裂くように赤魔道士セーラは戦場を駆け抜けた。
敵国の兵をなぎ払いながら…
そしてついに一人の人間と対峙する。

セーラ「おまえがジタン…!」
セーラの奥底に眠る「記憶」がジタンの名を告げていた…。


 

 

 

 

 

 

 

ジタンvsセーラ 

375 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/27(日) 23:17

ジタン「…失敗作か?」
セーラの容姿を見た第一声はそれだたった。
顔の造りはたしかに良く見ればガーネットやシロマに共通するところはあるのだが、
浅黒い肌や黄色に光る目はまるで別ものだった。
セーラ「なんだって…!」
ジタン「…かかって来いよ!失敗作!!」
ジタンは短剣をその手に構えた。不思議な高揚感があった。
(まさか、この俺自身が直接戦うことになるとはな…)
十分過ぎるほどの兵力を整えたというのに、
剣をたずさえてジタンの前にたどり着いた兵がいた…
それが異形をなしたアレクサンドリア製の魔道士とは…。
心のどこかでその力を試したいと思った。
…それは科学者としての興味であり、同時に同じ造られし者としての好奇心だったかもしれない。

セーラの太刀筋は荒削りだが迷い無くジタンの急所をねらっていた。
剣が交わり火花を散らす…
…通常の一対一ならジタンも負けはしない。
しかしここは戦場だ…
途中幾度となく二人は幻獣の放つ火の巻き添えを食い、ジタンにもダメージが蓄積された。
それに引き換え、疲れを知らないかのように、セーラの剣は鈍ることがなかった…
ガーネットにより…己の力をセーブする機能を…そして痛みも
恐怖心も壊されたセーラは戸惑うことなく全ての力をその剣に投じた。

 

 

 

 

意外な幕切れ 

377 名前:名無しさん@長文ごめん 投稿日:2000/08/27(日) 23:36

それでも
幾度の戦いをこえてきたジタンの「戦いの勘」は付け焼刃の訓練で
得られるものではない。二人の勝負はジタンが優性だった。
ジタンの短剣がセーラの剣先をはじきかえした…
…ふとジタンはセーラの状態が…例の状態に似てることに気付いた。
ジタン(…あの幻獣にも…覚えがある…ガーネットがトランス時に呼び出したものだ、
    白魔道士やこいつの強さの理由は…常に限界まで力を引き出した
    トランス状態ゆえ…ということか?)
そのときバハムートが食い散らかしたジェノム兵の「残骸」が二人の上空から振りかかる。
ジタン「く…!」
ジタンは思わずその肉片に身構えた…
その一瞬をついてセーラの剣が
ジタンの身体をとらえた!ジタンの肩先に剣が振り下ろされた。

ジタン「……!」
次の瞬間…「腕」が血しぶきをあげて地に転がった。

セーラ「そ、そんな…!」
ジタンの肩に数cm食いこんだところでセーラの剣はとまっていた。

崩れ落ちたのは…セーラの自身の腕だった。
すでに肉体の崩壊がはじまっていた。
セーラ「うあああああ!」
切りこんだ勢いのあまり…その場に転倒した。その衝撃で
もう片方の腕が嫌な音をたてて無残にもげた。
酷使された身体は限界を超えていたが…痛みを知らないがために
セーラは気付くことができなかった…
朦朧とした意識の中でジタンのほうを見上げ魔法を唱えた。
セーラ「フレア!!」
しかし…散乱した意識で唱えたフレアはあまり威力をもたない、
一瞬のどが焼けつくような熱さを感じたがジタンの生身の身体でも十分に耐える程度のものだった。
そして、その魔法こそがセーラの魔力のバランスを崩し身の崩壊を早める事になった。

ジタン「もうやめろ…」
ジタンはセーラの額をその手で押さえ込んだ。

…あと少し、肩先からそのまま心臓まで切り裂くことができたら…
せめてあと少しこの身体がもってくれたら…!
セーラの表情は崩れ号泣へとかわっていった…

 

 

 

 

 

 

 

白と黒の狭間で 

379 名前:名無しさん@長文ごめん 投稿日:2000/08/28(月) 00:12

セーラ「…母さん…ごめんね…」
ジタン「それはガーネットのことか?」
セーラ「そうだよ…」
ジタン(…違う…!)
その言葉をジタンは噛み殺した。
セーラ「ね…私は死ぬの…?」
ジタン「……」
セーラ「…これが…怖い…って感情…」
ジタン「…そうかもしれないな…」
セーラ「いやだ…いやだよぉ…!」
そのとき、セーラの身体が大きく崩れた…
ガーネットに造られた兵器のはずが…その声は…ふつうの子供と
変わりなかった。いつかの…シロマよりも遥かに幼く感じられた。
ジタンは反射的にセーラをだきしめた。
それは…スライにしてやれなかったことかもしれない。
セーラ「なんだか…なつかしい…」
白の魔力を帯びた霧と黒の魔力を帯びた霧が互いに
衝突しあい…セーラの身体は消失した。

白魔道士同士…互いに精神感応能力をもっている。
セーラの死が白魔道士に伝わり、その心の乱れが鉄壁だった補助魔法の壁に穴をあけ、
陣形が崩れた。
そこに呼び戻された「バブイルの巨人」がダリに3度目の火を放つ…
アーク主体に応戦するが…
術者が倒れ…しだいに幻獣がその数を減らしていった…

ダリの長い悪夢がようやく終ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉の裏には

381 名前:名無しさん@長文終り 投稿日:2000/08/28(月) 00:43

ダリが沈静化するともに、バブイルの巨人は兵器として役割を終えたかのように
その動きをとめた。
ミコト「ジタン…」
ジタン「ミコト無事だったか…良かった」
それだけ言うと背を向けた。
ミコトと目を合わせてしまうと気持ちが揺らぎそうだった…。

…さっき覚悟を決めたばかりじゃないか。
ジタンは自分にそう言い聞かせた…

 

 

 

 

 

 

 

 

意志無き者達の群れ

384 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 02:01

ガーネット「・・・・・・ふふふ・・・」
ダリの知らせを聞くまでもなく、その結果を悟った。
半日がたとうとも・・・なんの知らせもない。惨敗は明らかだった。
リンドブルムと戦わせた旧型の飛空艇の結果はいうにおよばない。

ガーネットはかつてラニをゾンビに変えた反魂の術をとなえた。
先の戦いで死んだアレクサンドリア兵の魂をアンデット兵に変えていった。
何十何百と階下にあふれかえり、さながら魔王の城と化していた。

兵1「う・・・」
ともに訓練を受け飯をくった仲間がろくにもの言わぬアンデットになってゆく・・・
その光景が決定的に兵の心を離れさせた。
兵1「ガーネット女王陛下おやめください!」
女王に不信を抱きながらも長くつかえてきた一人の兵士、
その最後の叫びもガーネットの心に届くことはない。
イフリートを唱え焼き尽くすとその場でアンデット兵に変えた。
見せしめ、に城内の生身の兵の心も恐怖で凍り付いた。

かつて武力を誇り繁栄をきわめたアレクサンドリア城・・・
しかし、今のそこには自らの意志で従うものは誰もいなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の輪

393 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 03:14


………「声無き声」が告げる。

「…………………時は止まらない………怒りも、憎しみも、愛も、優しさも、哀れみも、悲しみも、
そして希望も………総てを呑み込んで転がり続ける運命の輪………その呪縛に気付こうとも
抗う術は無い…………たった一つ…死の掌に包まれる瞬間、人はそこから自由になれるのだ………」

………「声無き声」はしばし沈黙する。

「………だが、それでもお前達はその無慈悲な輪を撃ち破ろうとするのか………お前達の中に眠る
彼らの血がお前達の魂に囁くというのか………?」

………「声無き声」は再び告げる。

「よかろう。…………さあ、見せて貰おうか……お前達のささやかな反乱を………人に与えられし
御業で何が出来るか、私達に見せてくれ」

………「声無き声」は、「彼ら」に告げた。

「………さあ、時の輪が創り上げる轍が如何なるものか、刮目しようぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビィの報告

394 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 03:20

深夜のリンドブルムの街。
建物の屋根をつたい、巨大城に向かう一つの黒い影。
ルビィがバクーとの交戦結果を報告するために城に向かっていたのである。
その途中、彼女は報告ならテレパシーでも足りるということに気づき、
ある教会の尖塔の上で立ち止まった。
ルビィ「エーコ様、ルビィでございます」
エーコ「ああ、ルビィか。バクーは始末した?」
ルビィ「それが・・・取り逃がしました」
エーコ「・・・ったく、どうしようもない奴だ。
    タンタラス抹殺を志願したのはお前自身なのだよ?
    マーカスにも逃げられてシナが始末したという報告を受けている」
ルビィ「も、もうしわけありません。しかしバクーめ、三闘神の無効化システムを・・・」
エーコ「言い訳など聞く耳もたぬ。
    私は現在赤い翼でアレクサンドリアに向かっている。
    だが、お前は来なくていい。力不足だ。バクーを必ず始末せよ。
    できなかったときにはお前自身に追っ手が差し向けられると覚悟しなさい、いいね」
交信が切られる。
ルビィはため息をつき、クジャ戦で活躍した英雄達をテーマにした有名な芝居の一節を口にするのだった。
ルビィ「大気がざわめいておる・・・・・・・」
特に意味はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライアンの企み

395 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 03:23

空中戦で大勝したエーコは、アレクサンドリア郊外に飛空挺を停泊させ、
城下町を占拠する為にゾディアックブレイブの一人マリンが指揮する、騎兵隊を出動させた。
チョコボに跨る兵士たちが、マリンに率いられて城下町に突入する。
アンデッド兵と化したアレクサンドリア兵たちは、城内で主人を守っていた為、街中にはおらず、
一部の国粋主義者が儚い抵抗をしているに過ぎなかった。
そして、それも質・量共に勝るリンドブルム兵に殺されていく。
光景を物陰で見ている一人の男がいた。
彼の名はライアン。
プルート隊の隊員になりたいと思っていたが、結局はなれなかった男である。
ライアン「くそっ…リンドブルムの蛮人どもに、このアレクサンドリアを蹂躙されるなんて…」
彼もまた国粋主義者で、アレクサンドリアがこのような状態にあっても未だアレクサンドリアを愛していた。
どうせ死ぬのなら、少しでもアレクサンドリアの役に立って死にたい…。
そう考えいる彼は、この闘いで命を捨てるつもりだ。
だが、彼は他の仲間みたいに、正面からぶつかるつもりはなかった。
犬死するのが目に見えていたから。
彼は待った。
この騎兵隊を率いるマリンが、隙を見せるその瞬間を。
彼はマリンの隙をついて暗殺するつもりだったのである。
だから、こうしてマリンたちの後をこそこそと後をつけているのであった。
やがて、リンドブルム兵はバリケードを破って、広場に到達する。
広場に到達するとマリンは、アレクサンドリア住民をそこへ集める様、兵士たちに指示を出した。
兵士たちはその指示にしたがって、四方へと散って行き、マリンの周りには兵士がいなくなる。
そして、マリンはライアンの方に後ろを向けた。
ライアンはこの機を見逃さなかった。
彼は懐からミスリルナイフを取り出すと、それを持ってマリンの方へと走り出す。

 

 

 

 

 

砂の血

397 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 03:27

マリンはライアンの足音に気付かないのか、ライアンの方を振りかえろうとはしない。
ライアン「死にやがれーっ!!」
無意味にそう叫んでマリンにナイフを突き立てようとした瞬間、ライアンは下腹部に鈍い衝撃を感じた。
ライアン「な…!」
ライアンが衝撃を感じた場所を見ると、そこにはマリンの手に握られていたブレイクブレイドが突き刺さっていた。
無論、ライアンが自分に刺さった剣がブレイクブレイドだと分かったわけではないが。
マリンは、振りかえりもせずに、するりとブレイクブレイドを引き抜く。
不思議なことに刺された傷口から血が出ていない。
その代わり変な砂が傷口から出てきた。
ライアン「…なんだ、この砂は…」
正確に言えば、血は出ていないのではない。
血は石化して砂となって零れ落ちていたのである。
その証拠に、傷口の辺りは固くなり始めており、灰色に変色していた。
ライアン「ヒィ…石化している…」
ようやく状況を悟ったライアンが情けない叫び声を上げる。
もう、どこに行っても逃げられないのに、ライアンはマリンに背を向けて走り出す。
…が、もう既に大腿も石化していて、走れずその場に転倒した。
ライアン「…そ…そうだ、金の針を持っていたはず…」
金の針を持っていたことを思い出したライアンが、ポケットを探る。
つもりだったが、もう腕も動かせなくなっていた。
ライアン「ウアー……」
ライアンは恐怖の為に叫び声を上げたが、それも途中で声帯が石化した為に消える。
やがてまもなく、ライアンは完全に石と成り果てた。

 

 

 

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