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ルビィの誘惑
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名前:クロマ書き@許可いただいたんで書かせてもらいます
投稿日:2000/09/01(金) 02:03
- 「ほら、早く来なさいってばぁ、ほら、ほらぁ(はぁと)」
服をはだけさせながら近寄ってくるルビィの妖しい色香に、恐怖の表情を浮かべながらも
思わずつばを飲むロウェル。元々顔も体も人並み以上のものを持っている上に、ゾディアック
ブレイブに加わった事により、魔性の魅力とも言うべきものが備わったルビィの媚態は、
元々さして強固でないロウェルの理性を蕩かさずにはおかなかった。劇団員時代ならロウェルも
躊躇わずにルビィを抱いたであろう事は疑いない。だが、それ以上の恐怖が辛うじてロウェルを
押しとどめていた。今の彼には立場というものがあった。事もあろうにエーコの私室で他の女を
抱いたなどという事が発覚すれば、良くても死刑、悪ければ想像する事もできないような
悲惨な運命が待っているのは明らかだった。
「ほらぁ、女にばかり脱がせるものじゃないわよ」
ルビィはそう言いながら、ロウェルの上着のボタンを斬鉄剣でひとつずつ切り取っていくのだった。
『もう駄目だ…僕はエーコ様に殺される』
遂にズボンと下着までが真っ二つにされ、ロウェルが絶望に目を閉じたその時、奇跡は起こった。
『やれやれ…エーコ様の命令にも従わないで一体何をしているのかと思えば…』
ルビィの脳裏に直接声が響き、同時に魔力の揺らぎが部屋の中心に集中していく。テレポによる
出現の前兆であった。それを見て慌てて着衣の乱れを整えるルビィ。
「…シナ。何か用なの?」
ゾディアックブレイブとしての共振する魔力の感触が、姿を見る前に相手を特定した。
ルビィの言葉が終わると同時にテレポ※が完成し、シナが悠然と姿を現した。
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新たな仕事
- 71 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:05
- 「ご挨拶だなルビィ。昔のよしみでお前を助けに来てやった俺に、その態度は無いだろ?」
「そんなの頼んでないわよ!」
「そう言うなよ。次の任務に失敗したら、エーコ様は本気でお前を殺すつもりだぜ?」
改めて指摘されると、その事実がルビィに重くのしかかる。酔いは一気に醒め、
同時に自分がかなりの時間を無駄にしてしまった事にも気がついた。
「…ど、どうしよう。ウチ、まだ死にたくない!」
「これだけ時間を無駄にしたら、バクーは月の裏側までだって逃げちまってるだろうなあ」
「ああ!」
倒れ臥し、絶望をあらわにするルビィ。
クジャを倒して世界を救った英雄たちを題材にした劇にそんなシーンがあったのだが、そのオーバー
アクションが気に入っていたので、私生活でも使ってみたいとかねてから機会を窺っていたのだ。
「ま、心配するなよ。今からバクーの野郎に追いつくのは無理だろうが、もっと美味いゴトがあるんだ。
エーコ様の新しい命令でな。それが成功すれば、今までの失敗が許されるどころか格上げ間違いなしだ」
「何、何なの? そんな美味しい話がホントにあるの?」
「ちょっと厄介だけどな、ジタンの暗殺さ」
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協定成立
- 72 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:06
- シナの途方もない提案に顔色が変わるルビィ。
「な…本気なの?」
「ジタンは今、ダリだかその辺りにいるって情報が入ってな。あいつが本拠地のクロマ村に
いるなら手を出すのは難しいが、なに、前線に来てるならいくらでも近づく機会はあるさ。
おまけに俺たちはジタンの癖も弱点も知り尽くしてる。ヤツを殺るのは容易い事だぜ。
ヤツを殺れば、ナタリーのガキにこれ以上でかいツラさせずに済むしな…」
「ふぅん、ナタリーね。それが本音なんだ」
「うっ」
思わず口をついた本心に突っ込まれ、シナは言葉に詰まった。
「何が私を助けるいい話よ。恩着せがましい事言っちゃて、ホントは一人じゃ自信がないから、
わたしを利用してジタンを殺ろうってつもりだったのね? でもまあいいわ。確かにアイツを殺せば
エーコ様に許してもらえそうだし、どうせいつかは殺してやろうと思ってた相手だしね」
「じゃあ、この話の乗るんだな?」
「まあね」
「小型の飛空挺を用意してある。それを使うぜ」
「分かったわ。それじゃドッグに急ぐわよ」
2人はテレポの呪文を素早く詠唱すると、エーコの部屋から姿を消した。
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ロウェルの不運
- 74 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:07
- 「た、助かった…」
眼前でのさっぱり理解できない異次元の会話の終了とともに、ルビィが姿を消してくれた事に
ロウェルは安堵の溜息をついた。普段は不信心な彼だったが、感謝の祈りでも捧げたい気分だった。
「ろ、ロウェルさん! エーコ様の部屋で何をしてるんですか!」
「え?」
気がつくと、すべすべオイルにされたメイドに代わって配属された新しいメイドが、全裸で部屋の隅に
座り込むロウェルを発見して愕然としていた。おまけに周囲にはルビィが飲み散らかしたウィスキーの
ボトルが何本も散乱していた。どう好意的に解釈しても、エーコの部屋で乱痴気騒ぎをしていた以上に
穏便な結論は出てきそうにない。ロウェルは眼前が真っ暗になるのを感じた。
ロウェル・ブリッジス…何処までもツイていない男であった。
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空の上の対面
- 75 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:07
- 黒魔道士と召喚獣の猛威に晒され、完全に破壊し尽くされたダリの上空から、インビンシブル2型飛空艇が
飛び去っていく。地上ではジェノムや元リンドブルム所属の技術者、黒魔道士らが敬礼し見送っていた。
「ひどい有様でやしたね。地上の村や兵舎は勿論、地下の魔道士製造プラントも滅茶苦茶…。
そいつの復旧や、村の拠点化はいったい何時終わる事やら」
瞬く間に遠ざかっていくダリを甲板から見下ろしながら、エンキドゥ※は溜息をついた。
カイナッツォ※は相変わらずの重々しい口調で、
「相当な時間を必要とするであろうな。だが時間はたっぷりある。アレクサンドリアは、虎の子の
白魔道士部隊を失った上に、リンドブルムと交戦中とも聞く。しばらくここが攻められる事はあるまい。
だからこそジタン殿も、我らにここに残るのではなく、本隊に合流せよという指示を送ってきたのであろう」
「へえ、やっぱりこの艦はジタンのとこに向かってるんだ。タイニーブロンコでダリに来てはみたものの、
あたりは廃墟になってるし、とてもあそこが本陣とは思えなかったのよね。いかにも怪しげな飛空挺が
飛び去ってくのが見えたから乗り込んでみたんだけど、どうやらうまくいったみたいね」
聞かれもしない事をぺらぺらと話しながら、艦内から凄艶な美女が姿を現した。ルビィである。
「ジタンが何処に行ったのか判らなかったから、ほんとちょうど良かったわ」
「…貴様、何者だ?」
「貴様ではなく貴様たちと言ってもらいたいねぇ」
そう言いつつ、艦首の方から散歩でもするかのようにのんびりと歩いて来たのはシナだった。
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激突
- 76 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:08
- 「艦内には誰もいないわ。自動操縦ってやつ? そんな技術、最先端って事になってるリンドブルムの
飛空艇にも使われてないのに、ジタンもいろいろと愉快なモノをこしらえるわねぇ」
カイナッツォの質問には答えず、シナに向かって大げさに肩をすくめて見せるルビィ。
「カ、カイナッツォの旦那、こいつらきっとジタン様を狙う刺客ですぜ!」
「そんな事は言われんでも分かる。ガーネットの手の者か? それともエーコの配下か?
わざわざ姿を見せたからには、我らも消すつもりなのであろう。それくらい答えたらどうだ?」
「ひ、け、消す!?」
怯えた表情のエンキドゥの方は気にもせず、シナはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「察しがいい事だな。確かに我らはエーコ様の忠実なるしもべ。お前らはクロマ軍の幹部なのだろう?
行きがけの駄賃に貴様らの命もいただいておこうと思って姿を見せたという訳だ」
「ほう…大した自信だな。四天王※の一角を担う余に、よくもそこまで言えたものよ」
シナとカイナッツォの周囲に殺気が満ちる。その緊張感に耐えられず、じわじわと後退していた
エンキドゥは、突然何か柔らかいものにぶつかって振り向いた。
「はあぃ、ご・た・い・め・ん」
「ゲーッ!」
ルビィがいつの間にか背後に立っていたのだ。
今度こそ走って逃げ出したエンキドゥに、ルビィは背後から斬りつけた。
しかしエンキドゥも一応は腕の立つ冒険者である。ルビィが本気でなかった事もあり、
浅い怪我は負ったものの、致命的な一撃は見事に避けて見せた。
「あら、かわしちゃったの?」
「ふ、ふふふ、このエンキドゥ様を舐めるんじゃねえぜ」
震えながらも虚勢を張るエンキドゥ。異変が起こったのはその時だった。
「かわしたら、斬鉄剣の余波が甲板の方に行く事になってるのよねぇ、これが」
美しい切断面を残しつつ、エンキドゥのいた甲板の一角が飛空艇本体と切り離された。
エンキドゥは悲鳴をあげながら数千メートル下の地上に落下していった。
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ゾディアックブレイブ VS 四天王
- 77 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:09
- 「いぇぇぇぇっ!!」
「きゃあぁぁっ!!」
シナの奇声とルビィの悲鳴が重なった。カイナッツォは裂帛の気合とともに振り下ろされた
ルーンアックスの刃を完全に見切り、僅かに避けるや否や、その柄の部分を掴んでシナの体ごと
振り回し高速でルビィに叩きつけたのだ。老人としか見えぬその体躯からは想像もできない腕力と、
それ以上に信じがたい神速の反撃であった。
「ほぅ、やるな爺さん…だがこうでなくてはな。正直雑魚の掃除にはうんざりしていたところだ」
不敵な笑いを浮かべながら起き上がるシナ。
「肉弾戦は得意みたいだけど、魔法はどうかしらね?」
そう言いざまファイガを放つルビィ。爆風が周囲を包む。
「フン、この程度の魔法が余に通用すると…」
そこまで言ってカイナッツォは絶句した。
爆風に乗じてシナとルビィが同一の呪文を詠唱しているのに気がついたのだ。
『い、いかん! あの呪文は! おのれ、ファイガは目くらましだったか!』
「死ねぇぇっ!」
「Wメテオッ!※」
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四天王の力〜水のカイナッツォ
- 78 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:10
- 何処からともなく出現した極小の流星雨がカイナッツォの肉体に降り注いだ。極小とは言え、
弾丸よりも高速で飛行する流星を宇宙から召喚したのだ。その猛威にさらされたカイナッツォの
肉は弾け骨は砕けて、周囲に血の雨が降る。咄嗟に魔力を周囲に放射して張った擬似バリアの
おかげで致命傷こそ免れたが、深手を負った事には変わりがなく、カイナッツォの口から思わず
苦痛の声が漏れた。
「おいおい、爺さんまだ生きてるぜ」
その様子を見てひゅうと口笛を吹くシナ。
「あらホント、驚いたわ。でも後が詰まってるから、悪いけどさっさと終わらせてもらうわよ」
いかにも面倒くさそうにそう言うと、ルビィは斬鉄剣を抜いてゆっくりとカイナッツォに近づいて行った。
普段の威厳も流石に崩れ、カイナッツォの表情に焦りの色が浮かぶ。だが次の瞬間ある事実に気がつき、
焦りは姿を潜め、カイナッツォの顔に不気味な笑いが広がっていった。
「なに笑ってるのよ? 恐怖のあまり壊れちゃった訳?」
「ク、クックックッ、余は運がいい…。ここが空でなければ、そしてこの飛空艇にこれほどの高度で
飛ぶ力が備わっていなければ、あるいは余も貴様らの前に敗れ去ったかも知れんが…。結局は勝利の
女神は余に微笑んだのだ」
カイナッツォの周囲に異常な濃度の魔力が広がっていく。
「まずいぞルビィ! あいつ、何かするつもりだ!」
「え、な、何!」
「ククク、もう遅いわァッ!」
僅か数十メートルの距離にあった雲から、前触れ無しに滝のような勢いで水柱が降り注ぐ。
それは甲板に激突する直前、あらゆる物理法則を無視して突如方向を変え、シナとルビィを直撃した。
「クックック、自らの司りし四大の力を自在に操る我ら四天王。力が及ぶ範囲にこれ程大量の水が
存在するこの場所で、水を律するこの余が敗北するなどあり得んのだ、ウワッハハハハハ!」
カイナッツォの哄笑が周囲の空に轟いた。
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四天王の真実
- 79 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:11
- 「…今のは効いたわね」
「ああ、死ぬかと思ったぜ…」
ダメージがある事には違いないがそれでも再び生きて姿を見せたルビィとシナに、
カイナッツォの顔から笑いが消える。
「ほう…普通の人間なら、全身の骨格を破壊され水母のようになっているはずだが…。
先程の尋常ならざる魔力といい、さては貴様ら、人間ではないな?」
「いかにも俺たちは人間を超越した存在よ。だがそれを知ってどうする気だ?」
「フッ、そうか、やはり人間ではないのだな。だがな、人外はいかんぞ、人外は…」
カイナッツォの邪悪さに満ち溢れた笑い声と共に、異様な瘴気が甲板全域に広がっていく。
あまりの禍々しさに、魔の存在である筈のシナとルビィですら総毛立った。瘴気の中で老人の姿が
ぼんやりと薄れていき、変わって別の何かが出現しつつあった。
「何が人外はいかんよ…アンタの方がよっぽどバケモノじゃない…」
人と亀が融合したような異形の巨体が瘴気の中に実体化し、カイナッツォの声でせせら笑った。
「ウワハハハハ、人間相手でないのなら、お遊びはここまでだ。ここから先はこちらも遠慮なしで
やらせてもらおうか!」
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人外対人外
- 80 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:12
- 「クッ…!」
ルビィが牽制のファイガを放つ。しかし火炎弾がカイナッツォに命中する寸前、周囲の水溜りが突然
凄まじい勢いで空に向かって噴出し、水の壁となってすべての炎を消し去った。
「フン、そのような小細工が何度も通用すると思うのか? 今度はこちらから行かせてもらうぞ」
水の壁から槍の鋭さを持った水流が猛スピードで噴出し、反応する隙も与えずにルビィの腹を貫いた。
「ウグッ!」
血塊を吐き倒れ伏すルビィ。普通の人間なら即死もののダメージだが、流石にゾディアックブレイブたる
ルビィには致命傷にはならなかった。とは言え激痛を抑える術はなく、気の弱い人間ならそれだけで
死に至りかねないような憎しみの視線をカイナッツォに叩きつけながらも、ルビィの額には脂汗が浮かび、
死者のごとき土気色の顔色になっていた。
「やれやれまいったね、ちょっと勝てそうにない…。かと言ってこのまま逃げしたりしたら、
エーコ様の機嫌を損ねる事になりかねないし。はてどうしたものか…」
シナの言葉を聞いてルビィの顔から更に血の気が引いていく。
「じ、冗談じゃないわ! 勝てない相手に無駄に挑んで殺されるなんてまっぴらよ! たとえエーコ様の
怒りを買っても、今この場で殺されるよりはマシよ!」
そう言うや否や、ルビィはダテレポの呪文を唱えた。だが、いくら待ってもいっかな効果が現れない。
焦った表情で何度も詠唱を繰り返すルビィであったが結果は同じだった。
「クックック、既にこの艦は余の張った結界※の中にある。余を越えた魔力の持ち主でもない限り、
テレポやダテレポでの出入りも召喚も不可能と知れ!」
勝ち誇ったように告げるカイナッツォ。
「い、いや…わたしはまだ死にたくない!」
ルビィは悲鳴をあげながらこけつまろびつ、艦内に逃げ込んだ。
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シナの行動
- 81 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:12
- 「ふ、どうせこの艦からは逃げられはせん。あの女の始末は後回しにして、まずは貴様から
片づけさせてもらう」
再び出現した水の魔槍がシナに襲いかかる。だがシナは掻き消すように見えなくなったかと思うと、
少し離れた場所に忽然と姿を現した。水槍は虚しく空を裂く。
「どうやら結界の中を移動するだけなら、ダテレポは有効なようだな」
「猪口才な真似をしてくれる。だが、そんな手段でいつまでも逃げ切れると思うか?」
その言葉と口火に無数の水流の槍が次々にシナに襲いかかる。ダテレポによる短距離空間跳躍を
繰り返して何とか避けてはいるものの、その様はいかにも危なっかしげで、カイナッツォの言う通り、
いつまでも逃げ切れるとは到底思えなかった。
「ハハハ、どうした、もう終わりかな?」
連続でダテレポを使用した事による疲労で荒い息をつくシナに、カイナッツォの嘲笑が浴びせられる。
「いや…逃げる必要がなくなった。ただそれだけの事さ」
シナの意外な答えにカイナッツォは訝しげに唸った。
「なんだ、もう諦めたのか?」
「違うね、間抜けがッ」
自信に満ち溢れた笑みを見せるシナ。
「何ッ!?」
「操縦させていたのさ、ルビィに!」
カイナッツォは飛空艇がいつの間にか上昇し、雲の間近まで来ていた事に気がついた。
「そしてッ! 目的はッ!」
飛空艇が雲の中に突入する。そこは風と冷気吹きすさび、雷鳴が轟く地獄だった。
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炸裂する稲妻
- 82 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:13
- 「な…! こ、これは!」
「どうやら剣呑な雲だと思っていたが、予想通りだったよ。あんたも少しは気象の事を
勉強しておくべきだったな。そして喰らえ、この一撃を!」
シナの指先から電光が迸る。それは周囲に走る稲妻を吸収しつつカイナッツォの肉体に殺到した。
「グォォォォォッ!」
「フフフ、やはり効いたな。あれだけ自在に水を操れるという事は、あんた自身も水の属性と
密接な繋がりを持っていると思っていた。そしてそうした連中は、大抵電撃に弱いもの」
「そしてここでは、自然の稲妻を取り込んで雷撃の威力が増すって寸法なのよ」
艦内から再ルビィが姿を現し、やはり電撃を放ってカイナッツォを攻撃した。シナの精神感応で
何とか艦内に戻って飛空艇を雲に突っ込ませろとの指示を受け、一芝居うっていたのである。
「見事な演技だったぜ、ルビィ。お前が女優をやめたのは演劇界にとって損失だったな」
言いながらもサンダガを放つシナ。周囲を走る稲妻を取り込んだそれは、サンダジャ級の攻撃力で
カイナッツォを襲う。最早悲鳴すらあげられず、全身を痙攣させる瀕死の状態だった。
「フフフ、お世辞をありがとう。でも今のわたしには、こっちの方が面白いのよ!」
閃光が走り、カイナッツォの首が宙を舞った。ルビィは一滴の血も残らぬ斬鉄剣を、もったいぶった
仕草でかちゃりと鞘に収めた。
「それじゃわたしは、もう一度非空艇を自動操縦に切り替えてくるわよ」
そう言ってルビィは艦内に戻った。
「ウフフフフ、ジタン、次はあなたの首をもらうわよ」
ジタンの首を切る時の快感を想像してぞくぞくと身震いするルビィに、既にかつての面影はなかった。
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逃げるエンキドゥ
- 83 名前:クロマ書き
投稿日:2000/09/01(金) 02:14
- 「くっ、いやだ、まだ死にたくない!」
凄まじい勢いで迫り来る地上。このままでは墜死は必至だった。
「エ、エンキドゥ・チェーンジッ!」
その叫びと共に変身が始まった。全身の皮膚が緑色に変化し、筋肉、骨格ともに強度を増す。
背中には巨大な翼が生え、それによって滑空する事でエンキドゥは一命を取り留めた。
一時期黒魔道士の村の魔導技術陣が、普通の人間にトランス能力を付与し、更に任意にその能力を
引き出す事を目的とした研究を行っていた事があるのだが、エンキドゥは力を求め、その実験の
被験者に志願した事があったのだ。何分研究段階の技術であったのでいろいろと制約があり、
気軽に使える能力ではなかったが、こうして今日命を拾ったのはこの力を持っていたからであり、
エンキドゥは自分の幸運を噛みしめた。
「しかし…どうしたものかな。俺ってやっぱり敵前逃亡扱いになるのかな…不慮の事故と言えば
その通りなんだけど、その前にあの変な女からもろに逃げ出したのをカイナッツォ様に見られてる
からなぁ…」
溜息をつくエンキドゥ。このまま逃げ出してしまえば楽なのだが、ジタンから支払われている
高額な給金の事を思うと、クロマ軍には未練が残る。
「そうだ! ギルガメッシュの兄貴にとりなしてもらおう。元々兄貴の口利きでジタンの旦那に
雇ってもらったんだし、きっと何とかしてくれるさ」
ギルガメッシュはジタンの依頼で「エクスなんたら2」とかいう何処かで聞いたような剣を探して
イーファの樹に向かったと聞いた。ここからならフォッシル・ルーを通って行く事になるが、
世界から霧が晴れた頃、モンスターの減少を見越して一山当てようという山師たちが大挙として
フォッシル・ルーに押し寄せた時、目端の利く奴がガルガン・ルー同様にガルガンドにワゴンを
とりつけたものを用意し、定期便を始めて小金を稼いでいると聞いた。それを利用すれば、
楽にフォッシル・ルーを越えられるはずだった。
「そうさ、俺はまだ運に見放されちゃいないんだ」
そう呟くエンキドゥだったが、自分が間違っていたという事実にすぐさま気が付く事になるとは
この時は夢にも思っていなかった。
↓に続く
http://piza.2ch.net/test/read.cgi?bbs=ff&key=966857297&st=25&to=25&nofirst=true
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