黒い甲冑の男
488 名前:ボーゲン伯爵邸(1) 投稿日:2000/09/12(火) 01:07
黒づくめの甲冑を身にまとった騎士が廃墟と化したトレノの街を歩いていた。足早
に、目的の地へ少しでも早く・・・。
急ぎ足ではあったが、歩き方は誇りと威厳を保っていた。
カーン、カーン、カーン・・・。
荒れ果てた街・トレノに教会の鐘が鳴り響いた。もうすぐ、日が落ちる。
昼と夜との境・・・。
この時間帯の程よい喧騒と静寂。
この時間帯は、トレノの神官達によって「逢魔が時」とも呼ばれていた。
その黒騎士は誰もいない区画を曲がり、荒れ果てた路地を抜けると、こじんまりとし
た、けれども、掃除がなされ、しっかりと管理されている屋敷へと入っていった。
・・・数刻前、アレクサンドリアから帰ってきた学者が入っていった屋敷である。あ
れからこの屋敷に動きはなかった。
バタン!
黒騎士が荒々しくドアを閉めると、そこには、破廉恥で異様な光景が漂っていた。
年の頃、14、5歳の男女が裸で抱き合い、男女で交わっているだけではなく、男同
士で、あるいは、女同士で絡み合っているのだった。
それは、この世の暗黒図の光景であった。
>>502
走るジタン
493 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:04
何者かがパラメキア艦内に侵入した事を知って、
自室を飛び出したジタンはブリッジに向かっていた。
『目的は何だ? この艦への破壊工作か? それともこの俺の命か?』
いずれにせよ、隠密行動をとるでもなく、艦内に侵入するやいきなり暴れだすからには、
侵入者は己の戦闘力に絶大な自身を持っている事は間違いなかった。恐らく、普通の人間では
あるまいとジタンは推測した。
『モグネットからの報告では、エーコとガーネットはアレクサンドリアにいるはず…。フライアや
サラマンダーが現時点で俺に敵対するとも思えん。では、ベアトリクスか? いや、たったひとりで
パラメキアに突っ込むような真似をする程、奴は愚かな女ではあるまい。となれば、考えられるのは
エーコの子飼い…ゾディアックブレイブか。俺の手元に届いた情報では、その実力は未だ未知数と
あったが、どうやら大変な曲者だったらしいな…』
ジタンの推測がまとまりつつあったその時、突然激しい衝撃がパラメキアを揺すぶった。
494 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:05
「第二レクリエーションデッキにて原因不明の爆発発生。待機中の保安要員はただちに現場に
急行せよ。繰り返す…」
状況を通達する艦内放送が通路に鳴り響いた。
『第二レクリエーションデッキだと? あんな場所での破壊工作は無意味だ。破壊工作でないなら、
つまり、あそこで誰かが戦っているという訳か…誰だ?』
ひどく嫌な予感がした。現在までの状況の推移から考えても、ジタンがゾディアックブレイブと
仮定した侵入者が、尋常ならざる戦闘力を持っている事は間違いない。四天王の一角を担う
カイナッツォをも倒した程の相手では、生半な実力の持ち主では戦闘にすら持ち込めず、
一方的に排除されるだろう。現在パラメキア艦内にいる人間で、それだけの相手と戦えるとしたら、
まずはエヌオー、もしくはミコトしかいない。そして今の時間帯、エヌオーはブリッジにいる
はずだった。
『…ミコト!』
ジタンは立ち止まって方向転換し、第二レクリエーションデッキに向かって走り出した。
重なる緊急事態
495 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:06
ミコトはガーランドの手によって、クジャ、そしてジタンの後継者となるべく、数多の特殊能力を
付与されて生み出された。生来備わっている基礎的な能力についても、心身共にクジャやジタンと
同等以上のものを持っているはずだった。だが戦場には魔物が棲んでいる。思いもよらぬ事態が
起きた時、それに対処してくれる勘を養ってくれるのは、戦場で踏んだ場数だけだ。
まともな戦闘経験がないミコトでは、カイナッツォをも倒した相手には苦戦を免れ得ないだろう。
下手をすれば、戦闘能力それ自体では勝っていても、敗北する事すら考えられる。
走りながらも、時折精神感応でミコトに呼びかけてみていたが、先程から一度も反応が無い。
巨大な魔力が渦巻く場所、例えば大規模な魔法による戦闘が行われている場所では、その影響で
精神感応が阻害される場合もある。だが、それ以上に不吉な予測が次々に浮かび上がってくるのを
ジタンは止める事ができなかった。
496 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:07
『まずいな…急がなくては』
だがジタンは突然走るのをやめて、ピタリと立ち止まった。
常人には感じ取ることさえ不可能な異様な緊張感が、周囲の空間に充満していた。
『次元の振動…召喚魔法のそれとも違う…何かが…何かがこのパラメキアのすぐ近くに
出現しようとしている!』
通路のガラス窓が一斉にビリビリと震え始め、鼓膜に一瞬の激痛が走る。何処か近くで信じがたい
高音が発生したらしかった。そしてジタンは見た。窓越しの空に、何処からとも無く
巨大なエネルギーの渦が出現するのを。それは収束し、翼を持つ巨影に実体化しつつあった。
「馬鹿な…あれは!?」
ジタンは思わずそう呟いた。クリスタルの記憶から得た膨大な知識の中に、眼前で実体化しつつある
巨体と合致するものがあった。
「星の生命を守るもの…ウェポン…アルテマウェポンだと言うのか!」
497 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:07
疑問符がジタンの頭の中を埋め尽くす。
『ウェポンはこの世界には存在しない…いや、現存するあらゆる世界において、既に何処にも存在しない
忘れられた生体兵器…それが何故ここに現れる!?』
実体化しつつあるアルテマウェポンの瞳。ジタンがそこに見たのは、燃えるような敵意だった。
『…いかん!』
ジタンは手近な部屋に転がり込むと、備え付けの通信装置でブリッジを呼び出した。
「エリン、そちらでもアレは捕捉しているな?」
「はい。只今全艦警戒態勢に移行中です」
「アレは敵だ! ただちに攻撃に移れ!」
「り、了解!」
最悪のシナリオ
498 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:08
『ウェポン…既に何処にも存在しないはずの生体兵器。つまり、あのアルテマウェポンは
何者かによって新たに作り出されたとしか思えない…。だが、誰だ? そんな事が可能な者が
この世界に存在するというのか?』
パラメキアの、そして護衛艦隊の火線が実体化半ばのアルテマウェポンに集中する。
紅蓮の嵐がその空域を蹂躙した。しかし次の瞬間、遂に実体化を終えたアルテマウェポンが、
炎に包まれたまま踊り出た。圧倒的な速度の飛翔に、まとわりついていた炎が千切れ飛ぶ。
その進行上に位置していた中型飛空艇が、激突の衝撃にあっさりと弾き飛ばされた。密集隊形を
取っていた事が災いし、玉突きのようにぶつかりあった艦船が次々に爆散する。まさに地獄絵図であった。
499 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:09
『…まるでこの世の終わりとでも言うかのような……この世の終わりだと?』
通路の窓から惨状を見ていたジタンは、ひとつの推測に辿り着き蒼白となった。
『まさか…破滅の意思が動き出したとでもいうのか!? その意思によってアルテマウェポンは
遣わされたと……馬鹿な…まだ早過ぎる!』
アルテマウェポンの放った高エネルギー弾が、パラメキアの展開した不可視の障壁に激突し、
紫の閃光を放って消滅した。その衝撃に艦内が激しく振動する。
『いや…考えるのは後だ。エリンとエヌオーなら、必ずこの状況を凌いで見せるはず…俺はミコトを
助けなくては…』
500 名前:魁!名無しさん 投稿日:2000/09/12(火) 18:09
再び走り出そうとしたジタンだったが、突然ガクリと膝をついた。
「なっ!?」
前触れもなく全身の力が抜けた。全身が悪寒に震え、喩えようもない不快感が込み上げて来る。
激しく咳き込み、ジタンは自分が吐血したのに気がついた。
『クッ、なんて事だ…タイミングが悪過ぎる…よりにもよって今この時に……』
意識が急速に遠のいていくのが感じられた。今、自分の身体に起きている異変について、ジタンは
大体のところを理解していた。少なくとも昏倒は免れ得まい。最悪、そのまま死に至る事も考えられた。
『…すまない、ミコト…こうなってしまっては、俺にはお前を助ける事はできないかも知れん…
だから…お前はお前自身の力で生き延びてくれ…』
それを最後にジタンは意識を失った。
ボーゲンの悪癖
502 名前:ボーゲン伯爵邸(2) 投稿日:2000/09/12(火) 18:58
部屋の中で立ちすくむ黒騎士。
キョキョキョキョキョ・・・。
奥の暗闇から鳴き声がした。悪魔の鳥の声のように聞こえた。
黒騎士が奥に目を向けると、そこには、長身の痩せた鳥のような男が
三人の男女に絡みつかれているのが見えた。
ボーゲンと名乗る、トレノの名士であった。
キョ〜キョキョ、キョッ〜!!少年の頭を股の間に挟んでボーゲンが
うれしそうに鳴き声をあげる。
入ってきた男はツカツカとボーゲンの近くまで寄ると、
バキッッィィィイイイ!!
ボーゲンの横っつらを思いきり殴り飛ばした。
声も出ず、吹っ飛ぶボーゲン。壁にぶちあたり動かなくなる。
「・・・ボーゲン、いつまで遊んでいるつもりだ?」
怒気をはらんだ黒騎士の声が部屋に響くが、少年少女達は気がつかないのか、
それぞれの行為を止めようとはしなかった。
「キョキョキョキョキョ、わしの唯一の楽しみを妨げになられるとは・・・、
ダークナイト様も人が悪い。」
>>590
自我〜転換された「憎悪」
509 名前:468の続き 投稿日:2000/09/14(木) 02:17
ゼムス「・・・知っていたのか・・・・ククク・・ガーネットが話したのか?その通り・・
彼女・・ガーネットこそ私が作り出した「例外」・・・・その存在こそが、世界中の
戦乱を引き起こす「引き金」・・・・そしてGトランス能力者覚醒への「きっかけ」。」
フライヤ「・・・・・・・・・・・・何故・・・・?」
ゼムス「・・・大いなる戦いの引き金・・それは世界で最も大いなる力でなくてはならない。
・・そう、世界で最も強い存在でなければ・・・それに・・該当するものは何だと思う?」
フライヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ゼムス「・・・全世界を戦火に導くは個人の力以上に、国、そのものの、力が重要となる。
・・それはすなわち軍事力・・。そして当時最も巨大な軍事力を誇っていた国・・・そう、
アレクサンドリア・・」
フライヤ「!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
ベアトリクス「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
510 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 02:20
ゼムス「世界最強の軍事力アレクサンドリアの頂点に立つガーネット、戦いの引き金とするに最も
適した人物は、彼女をおいて他に無い。故に、私は彼女に与えしGトランスに、あるプログラムを
補足する必要があった。・・・それは人格そのものを完全に抑圧・・または消去し・・そして再び
新たに別の人格・・記憶を全て白紙に擦り換える事による・・新たなる自我への転換。
他のGトランス能力者には個人の自我はそのままに、不安定な人格にのみある共通した思念を
メモリーさせるといった・・いわば洗脳のようなものを行うに過ぎなかったが・・
ガーネット・・彼女にのみ、覚醒と共に、完全に「別の人間」として・・・すなわち
新たなる一つの「存在」として生まれ変わってもらう事にしたのだよ・・・。」
511 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 02:25
ゼムス「・・・私はエスタにて生成された「ある1種の強力な思念」を「自我」として転換し、
そしてそれを用いる事に成功した。
・・それは、いわば、「憎しみ」・・でもあり・・「怒り」・・でもある、強力な「負」のエネルギー。
彼女の認識・・行動・・意欲はすべてこの「大いなる憎悪」のエネルギーにより支配される・・
その強力な思念によって生成されし自我は・・生まれついて・・全てを「憎悪」する・・・
何のきっかけがあるわけでも、何の影響があったわけでもない・・ただ、無意識に・・・全てを。
なぜなら「それ」が自分「そのもの」なのだから・・「全てを憎む」その思念・・・
その強力な思念が「自分」という「存在」を創り出したのだから・・・
彼女(ガーネット)は無意識に己が存在の根幹たる、「憎悪」に沿って行動しているに過ぎない。」
フライヤ「・・・・憎悪の・・エネルギー・・それが彼女の・・」
ゼムス「・・そう・・「憎悪」。それが今の彼女(ガーネット)の「自我」であり・・「意思」でもある。」
その日、生み出されたもの
512 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 02:27
ACTIVE TIME EVENT その日、生み出されたもの
・・・・いやだ・・嫌だ!消えたくない・・このまま・・このまま消されたくない・・・!!
・・・どうして・・どうして?どうして私が・・・なぜ消されなくてはならない・・?
・・・私は・・・私はそれじゃあ・・・私はそれじゃあ何の為に・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・何の為に生まれてきたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああ・・・・あああ・・・・やめろ・・・止めろお・・消されたくない・・・・まだ・・・死にたくない!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故・・?・・・・・・・何故なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうだ・・私は・・私はどうして・・
何故?・・・・私が・・・いや、「わたしたち」が生まれてきたのは・・・何故だ?・・・なんの・・為だ?
・・・・・・・・・・・・・・何の・・・為?・・・・・それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
513 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 02:28
・・・・・・・・・・・・・・「おまえたち」は・・死ぬ為だけに・・・生み出されてきた・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・「おまえたち」の「存在」など・・・もともとは必要はないのだ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・必要が・・ない・・死ぬ為だけに・・・生み出されてきた・・・・存在・・・・・・・・・
・・・ならば何故!!「わたしたち」を生み出したのだ・・・
・・・大いなる・・「器」・・・・たる魂を・・・生み出さんが・・為の・・・・「おまえたち」は・・・・その・・
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514 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 02:29
・・・望まれずして、その存在を強制的に生み出され・・・強制的に消されてゆく・・・・・・
・・・全ては「欲望」が生み出せしあの「力」の為に・・・
・・・それはあまりにも大いなる犠牲を新たに・・・・
・・・何も目的なくして生み出したりはしない・・・存在を与えるだけの目的はあった・・ただ・・
・・・・・・・ただ・・お前達は望まれるだけのものでなかった・・・・それだけなのだ・・・・・・・・・
空からの潜入
517 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:11
アレクサンドリア城、上空。
「がんばれ! がんばれ!」
「ク、クエー!」
背中に乗っているビビjrの声に応えて、ボコの翼がより激しくはばたき
始める。
そんなボコの足につかまり、トットはアレクサンドリア城を空から見下ろして
いた。
「どうやらエーコ大公は勝負に出たらしいな」
城から城下町の方へと視線を移し、呟く。
街の至る所でリンドブルムの国旗がはためき、兵士たちが走り回っていた。
この状況では流石に正面ゲートから城へ入るわけにもいかず、こうして空
からの侵入を試みているわけだが…
「ついにアレクサンドリアが堕ちるか」
自分の発したその一言に、胸が締め付けられるような感じがして、トットは
眉間に皺を寄せた。
「国を守る」
只それだけのために自分は剣を振りつづけた。幾度となく戦場へ赴き、血の
雨を浴びた。たくさんの仲間を失った。みんな本当にイイ奴等だった。
そんな仲間たちの屍の上にアレクサンドリアがあるのだ。
それが今…堕ちようとしている。
無念。
ただその一言だけがトットの心を満たしていた。
518 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:13
「団長、降りるよ」
「ん、ああ…」
自分でもそうと分かる気の抜けた返事をして、トットは城のテラスに降り
立った。反射的に吐いてしまいそうな程の腐臭が鼻を襲う。
「何なのこの匂い」
「アンデッドだ」
顔をしかめるビビjrに向かって言い、トットは両腰のオニオンソードを
抜き去った。
「フェニックスの尾はあるな」
「うん」
「危なくなったらそれで応戦しろ」
言ってトットは走り出した。ベアトリクスが捕えられているとすれば、
恐らくは地下牢。ボコの背に乗り、隣を伴走するビビjrに気を配りながらも
トットは全速力で城内を駆け抜ける。と、
「何かおかしいよ」
「ああ、静か過ぎるな」
兵力が一箇所に集中しているのだろうか、遠くから喧騒は響いてくるものの
トットの前には一体のアンデッドすら現れない。それに…非常に大きな力の
激突を感じる。
が、ビビjrが言いたかった事はそんな事ではないようだった。
「らしくない」
519 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:16
「違うよ。俺は団長がおかしいって言ったんだ」
「私が?」
思わず走る速度を落とし、トットは問い返した。
「うん。団長、アレクサンドリアに来てからおかしいよ。何か…焦ってる感じ
がして、いつもの団長らしくないよ」
「(らしくない、か…)」
ビビjrのセリフを胸中で反芻し、苦笑いを浮かべる。
確かに自分は冷静ではない。アレクサンドリアの事、ベアトリクスの事、
そして…ガーネットの事。全てが心に重く圧し掛かっていた。
変わり果て、民衆に畏怖される存在となっても尚、トットの脳裏から屈託
のない笑顔を振り撒いていたガーネットの姿が消え去る事はなかった。
寝る間を惜しんで剣を振り、豆だらけになったベアトリクスの手に、何度
包帯を巻いてやっただろうか。
アレクサンドリア。我が祖国であり命を掛けて守ったもの。戦を終え、凱旋
した時の民衆の熱気と歓声は今でもはっきりと思い出せる。
どれも自分にとって大切な、唯一無二の存在だ。
それを今…一度に失おうとしている。
520 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:17
冷静になれ。幾度となく自分に釘を刺してきたつもりだったが、やはり駄目
だったようだ。
「(まだまだ修練が足らないか…)」
この歳になってそんな事を考えるなど、思いもしていなかった。
と、その時。
数メートル前、右に折れた廊下の先に何者かの気配を感じ、トットは足を
止めた。左側の壁に背を預け、ゆっくりと歩みを進める。
口を開きかけたビビjrを視線で黙らせ、柄を握る手に力を込める。
その瞬間!
「ホーリー!」
閃光がトットの視界を塗りつぶし、凄まじい衝撃が全身を襲った。
再会〜アレクサンドリア城
521 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:18
とっさに剣をクロスさせ、防御体制をとる。だが放たれた聖なる爆発は
容赦なくトットを襲い、その身を壁にめり込ませた。全身が軋み、一瞬呼吸
ができなくなる。
気管を無理やり広げるようにして息を吐き出し、トットはすぐさま踏み
込んだ。ここでひるめば防戦一方になってしまう。まさか先手を取られよう
とは。やはり集中できていなかったようだ。
反撃が来るとは思っていなかったのか、右手を突き出したまま硬直している
相手に向かって剣を振り下ろす。しかし…
「6号!」
「お兄ちゃん!」
二つの幼い声に、トットは反射的に剣の軌道をずらした。目の前の敵を
一刀両断するはずだった刃が勢い余って床を切り裂く。改めて「敵」を
見つめたトットには驚きの表情を浮かべることしか出来なかった。
「ベアトリクス…」
それは紛れも無くトレノの市街戦の際に自分をかばって囚われの身となった
弟子の姿だった。
522 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:20
安堵のため息をつき、剣を鞘へと収めたトットは、
「良かった。無事だったか…」
ベアトリクスの肩に手を置こうとした。が、
「止まりなさい。誰ですあなたは。なぜ私の名前を」
突き出した右手をトットの胸の辺りに固定し、ベアトリクスが厳しい表情で
問う。その視線は間違いなく「敵」に向けられたものだった。
「あ、大丈夫だよお姉ちゃん。その人はトットおじいちゃんだから」
「一体何を。マスターの訳が…」
トットの姿をつま先から頭のてっぺんまで一見し、ベアトリクスが目を細め
る。エメラルドグリーンの瞳に長く伸びた銀髪。二十代半ばの青年を、どうし
て自分の師匠だと信じられようか。
「話せば長くなる。今は時間が惜しい。私を信じろ」
「大丈夫だって。俺が保証するよ」
「ボクも」
「クエ、クエ」
三人と一羽に揃って言われ、沈思黙考の後ベアトリクスは掲げていた右手を
下ろした。どうやら分かってもらえたようだ。
さらに奥へ
523 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:22
「ところで6号、何でお前はこんな所にいるんだ?」
「うん…あのね、お兄ちゃんが村を出た後でボクも村を出たんだ。ガーネット
様にお願いすれば戦争が終わると思ったから。でも…捕まっちゃって」
「どうしてそんな無茶な事を。おとなしく待ってろって言ったろ」
「…ごめんなさい」
「いいよ、無事だったんだから。他の兄弟は村にいるのか?」
「うん。みんな元気だよ」
「そっか…」
安心したように言ってビビjrが小さく息を吐いた。それから自分の帽子に
結んであったリボンをほどくと、弟の帽子に結びつける。
「何なの、これ?」
「あらゆる災厄から身を守る不思議なリボン…だったっけ?」
トットの方を見上げるビビjrに向かって頷き、トットも自分のリボンを
ほどいた。それをベアトリクスに向かって差し出す。
524 名前:Lv1名無しさん 投稿日:2000/09/14(木) 05:23
「髪にでも結んでおけ」
「しかしこれは」
「白魔法を使えるお前に沈黙やカエルになられると困るからな。あいにくや
まびこ草にも乙女のキッスにも余り余裕が無い」
躊躇していたベアトリクスだがトットの言にリボンを受け取り、髪を一つ
に束ねるようにしてリボンを結びつけた。
「では早速脱出しよう…と言いたい所だが、そう言う訳にもいかない
らしいな」
剣を提げていないベアトリクスの手を見つめ、トットは言う。
「すみません。囚われる際に奪われてしまって…」
「気にするな、事情が事情だ。ではまずエクスカリバーを奪還しよう。それに
ガーネット様の事も気になる」
次第に激しく、そして大きくなっていく爆音に、トットは廊下の先を
見据えた。振動する建物が「その」戦闘の激しさを物語っている。
「行こう。エクスカリバーは恐らく武器庫だろう」
みなの顔を一瞥してトットは再び走り出した。